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桃彩学園SNS部
第5話
「8月 ~海」
8月に入り、SNS部の面々は未だ夏休みの最中だった。そして、お盆を迎えたところで彼らは部費調達のため、海水浴場の海の家にて短期アルバイトをこなしていた。
うり「よっしゃ!これで全席終わったな。」
テーブルと椅子の清掃・消毒を終えた龍宇は腕を腰に当てて海の家の1階フロアを見渡す。
なおきり「柴、そっちは終わったか?」
シヴァ「もうちょいと。」
直切はフロア、柴は厨房の床を掃除していた。彼らももう少しで掃除を終える。そんな中、乃愛、枝美、流菜の3人が入ってきた。
えと「ねえ、ホントにこんなカッコでやんなきゃなんないの?」
のあ「恥ずかしい…」
女子3人はシーサイドを彷彿させるメイド服を着て海の家の入口で待機していた。
たっつん「おお、バッチシ似合っとるやんか!」
るな「質問の答えになってないです!」
達矢は3人を称賛するが、流菜は質問の答えになってないと反発する。そこは直切が答えた。
なおきり「当たり前だ。お前らは今回、看板娘なんだからよ。」
たっつん「俺が考えたんやけど、これ1つで男性客引っ張りだこやもな♪」
ヒロ「ちなみに、その服も部費で買ったから今回のバイトで元手取れないと割に合わないよ?」
えと「はいはい。…で、男性客は良いとしても女性客はどうすんの?」
枝美は渋々納得した。一方で、女性客はどう対応するのかと問う。もちろん、そこは直切もちゃんと考えている。そこで、博文と龍宇。甘いマスクがウリのイケメン2人の肩を推す。
なおきり「その点は心配すんな。ヒロとうり坊、イケメンが2人もいる。」
うり「おい、人をイノシシ呼ばわりすんじゃねえ!」
ヒロ「それより、問題はあっちだね。」
反発する龍宇をよそに、博文は海の方を指さす。その先にはビーチボールや浮き輪を出して遊んでいる社と悠安がいた。
なおきり「あいつら…」
たっつん「おい!じゃっぴ!ゆあん!」
うり「遊んでねえで仕事しろ!」
じゃっぴ・ゆあん「へ?」
男子部員たちは仕事をサボって遊んでいる社と悠安に怒声を投げかけた。
そして、店は開店時間を迎えた。
のあ「いらっしゃーい♥」
えと「寄ってってくださーい♥」
るな「開いてますよー♥」
早速、来客が入り出した。お盆期間だけに多数の人が入ってくる。乃愛たち看板娘3人に惹かれたのか、「お、かわいい。」とかいう声も少なからず聞こえた。
たっつん「ほれ見ろ。看板メイド作戦大成功やろ♪」
なおきり「おう、さっすが俺!俺カッケー!」
うり「何でお前なんだ?」
達矢と直切は乃愛たち「看板メイド」が功を奏したと言うが、直切の「俺カッケー!を龍宇は軽く否定する。そこにまた直切が龍宇に声をかける。
なおきり「女性客は頼むぞ♪」
うり「やらねーよ!」
店では基本的に食券を買った後、注文の番号で客を呼んでメニューを取りに行く仕組みとなっている。そのため、従業員たちはお客のいるテーブルに直接メニューを運ぶことはしない。従業員たちは普段、厨房にいるのがセオリーだ。
どぬく「男子厨房に入るべからず、というのだがな。」
もふ「それは昔ですよ。今では料理ができる男性も少なくありません。」
シヴァ「次はカレー3つとラーメン5つだって。」
土井、風太、柴は店長に言われたままに仕込みをしながら会話を行う。
時刻は正午を過ぎ、昼休憩に入った。流菜と枝美は既に休憩を取っており、海水浴をして楽しんでいた。泳げない博文はビーチベッドでドリンクを飲んでいる。食器洗いをしていた社にも休憩の番が回ってきた。
じゃっぴ「あざっす!んじゃ休憩入りまーす!」
社が休憩で売店に行こうとしたその時、乃愛の声がした。
のあ「放してください!」
チンピラ「へへ、良いじゃねえか!遊ぼうぜ、カワイ子ちゃん!」
じゃっぴ「乃愛!?」
社は急いで乃愛の声がした方、海の家の出入口へ向かった。そこでは乃愛がチンピラに絡まれていた。チンピラは乃愛の右腕を強引に引き、彼女を連れて行こうとする。
チンピラ「へへ、さあ来いよ!」
のあ「嫌!」
チンピラが息荒げに乃愛を連れて行こうとしたその時、社は声を上げて乃愛の方へ駆け出した。
じゃっぴ「乃愛に手ェ出すな!」
チンピラ「あ?何だ?」
のあ「じゃっぴ?」
社は乃愛の手を引くチンピラの顔面を思い切り殴った。チンピラは思わずクラっときて倒れそうになり、乃愛を放した。
チンピラ「痛て…やりやがったな!テメエ!」
じゃっぴ「上等だゴルア!」
のあ「じゃっぴ、やめて!」
社は乃愛の制止を無視して立て続けにチンピラに殴りかかる。社の鉄拳を顔面に受けたチンピラは吹っ飛び、砂浜に仰向けに倒れた。社はすかさずマウントを取り、チンピラの顔面に連続でパンチを浴びせる。
チンピラ「ぐっ!?がっ!?」
じゃっぴ「まだだ!この野郎!」
のあ「じゃっぴ!もうやめて!」
社はチンピラにトドメを刺そうとする。完全に頭に血が上っていた。乃愛の声すら聞こえなくなっていた。そこに、達矢が来て社の後ろから彼の右腕を掴んで制止した。
たっつん「じゃっぴ!やめえ!」
じゃっぴ「…」
社はようやく我に返った。社の周囲の人物全員が彼から一歩以上退いていた。もちろん、乃愛も。ちなみに、チンピラは既に気絶している。
のあ「じゃっぴ…」
たっつん「熱うなり過ぎや。乃愛ちゃん、怖がっとるで。」
じゃっぴ「…」
社は乃愛を見た。乃愛は怯えているのが分かった。そこに、直切が来た。
なおきり「…お前、しばらく店に入るな。これじゃ客が入らねえ。裏方で荷物運びでもして頭冷やしてろ。」
直切は社に外で頭を冷やすよう促す。
じゃっぴ「…」
社は荷物整理を終えた後、海の家の裏方に置いてあるコンテナに座って頭を抱えていた。そこに乃愛がドリンクを持って来た。
のあ「…お疲れ。」
じゃっぴ「…おう。」
乃愛は持ってきたドリンクを社に渡す。そして、彼の隣に座った。
のあ「先はありがとう。でも、怖かったよ。」
じゃっぴ「…悪イ。」
社はドリンクを飲んだ後、少ない口数で詫びる。乃愛はさらに続ける。
のあ「…じゃっぴ、お願い。ケンカッ早いの直して。」
じゃっぴ「…ん?」
のあ「私、前から言ってるよね。じゃっぴ、その性格直してって。今回のアルバイト、学校の許可を取ってやってる行事なんだよ?先のは下手したらクビになってたかもしれないよ?」
乃愛は社にケンカっ早い性格を直すよう促す。だが、社はひねくれていた。
じゃっぴ「…助けてやったのに上から目線だな。」
のあ「助けてくれたのは良いの。でも、よく考えて。このバイト、じゃっぴ1人じゃなくてSNS部全員でやってるの。私も恥ずかしいのにメイド服なんか着てお客さん呼んでるでしょ。なのに、暴力沙汰なんか起こしたら台無しじゃない。いくら私を守るためでも嬉しくないよ。むしろ、悲しい…」
じゃっぴ「…」
社は口籠った。乃愛は至極真剣だ。そして、泣きそうだった。社は乃愛の泣きそうな目を見ていて、ふと思った。乃愛を守りたい。その一心でやったのに、乃愛を悲しませても良いのだろうか。そうなると、自分を変えなければという気持ちが少なからず沸いてきた。
じゃっぴ「…分かった。」
のあ「へ?」
じゃっぴ「…すぐには無理かもしれねえけど、ちょいとずつやってみる。」
のあ「じゃっぴ…」
社は今、初めて自分を変えてみようと考えてみた。乃愛は嬉しくなり、両手で社の片手を握る。
のあ「頑張ろう。私もサポートするから。」
乃愛は自分を変えようとする社をサポートすることを約束する。社は嬉しくなり、微小した。乃愛もまた、いつもの優し気な笑顔で返す。そこに、様子を見に来た達矢が拍手を送った。
たっつん「いやーやっぱのあちゃんの説得は効果絶大やな。」
じゃっぴ「達矢?」
たっつん「おう。じゃっぴ、店長が呼んどったで。客足はそう減っとりゃへんから、ちゃんと謝ったら許すって。行って来いや。」
のあ「よかったね。」
じゃっぴ「…ああ。ちょいと行ってくる!」
社は勇み足で店長へ謝りに行く。その姿勢は前向きだ。その間、達矢と乃愛は少し話をした。
たっつん「ありがとな。アイツを説得できるの、のあちゃんしかおらんからな。」
のあ「そう?説得なら黄川田君でも…」
たっつん「いーや、アイツにとっちゃ、俺よりのあちゃんのが大事やから。」
達矢は社のことを理解している。社にとっては自分より乃愛のが存在が大きい。そして、彼の心を捉えることも乃愛にしかできないだろう、と。
その日、店長に詫びて許しをもらえた社は真面目に仕事していた。そして、その日の仕事を終えると、直切がある提案をSNS部の皆に伝える。
なおきり「さて、俺らで水中パフォーマンスでもしてみてくれ。…って店長に言われたんだ。」
うり「パフォーマンス?」
シヴァ「ウォー〇ー〇ーイズ的な?」
なおきり「察しが良いな。ま、そんなとこだ。」
直切の言葉で察するにパフォーマンスとはアーティスティックスイミングだろう。と部員たちは考えた。
えと「で、何すんの?」
なおきり「ふっふっふ…それはな…」
直切は目を光らせた。その先では社と乃愛が少しビクっとした。
じゃっぴ「何なんだこのカッコは?」
のあ「また恥ずかしい…」
社と乃愛が自分たちのしている服装を恥ずかしがる。社はタキシード、乃愛はドレスを彷彿させる水着を着ていた。水着に付ける演出用の飾りだが。付けるには少々恥ずかしいものがあった。
なおきり「パフォーマンスで付けるんだ。失くすなよ?」
じゃっぴ「何で俺と乃愛に…」
たっつん「じゃっぴの相方って言うたらのあちゃんやろ。」
えと「逆もまた然り、でね♪」
るな「お似合いですよ~♪」
部員たちは口々に社と乃愛を称賛する。しかし、社はどうも乗り気になれなかった。
じゃっぴ「…無理にやんなくても良くね?」
なおきり「やれよ!」
えと「あんた、初日にやらかしたの忘れた?」
ヒロ「元手取れなかったらお前のせいだからな?」
ゆあん「ま、面白けりゃ何でも良いけどな~俺♪」
やる気の微妙な社を部員たちが鬼のような形相で睨む。悠安だけは相変わらず能天気だが、社は未だに乗り気になれず、少しながら暴力騒動を起こしたい気になったが、そこは乃愛が制止する。
のあ「じゃっぴ、言ったよね。ケンカっ早いの直すって。」
じゃっぴ「…」
のあ「ここはやろう。皆のためにも。」
じゃっぴ「…分かった。」
社は乃愛に後押しされ、パフォーマンスでの役割を引き受けることにした。
それから3日後のお盆休み最終日、一部の海水浴客が見ている中でピアフロートと海水浴場の一部を借りてパフォーマンスをすることになったSNS部。ただし、泳げない博文だけは店番をしている。
なおきり「柴。撮影頼むぞ。」
シヴァ「OK。」
直切は柴に動画撮影の指示をすると、残るメンバーで沖合漁場前のピアフロートへ泳いでいき、順番にそこに並んだ。
なおきり「よっしゃ!始めるぞ!」
一同「おー!」
直切の号令と共にSNS部はパフォーマンスを開始した。用意していたレコーダーでBGMを流すと、まず先頭に立つのは流菜と枝美。彼女らから先頭に出すことで男性客を釣ろうという考案だ。次いで、龍宇、直切、風太、達矢、悠安、土井、と順番に海に飛び込み、飛び込んだ先で手や足を各自、事前の打ち合わせ通りに動かし、演技していく。運動の苦手な風太も何とか食らいついている感じだ。その後も8人はタワーを作ってそこからジャンプして飛び込んだり、と演技を続ける。そして終盤、トリを飾る社と乃愛が事前に用意していた衣装を身に着け、2人手を繋いでピアフロートの上を歩いていく。2人はピアフロートの上で疑似的なソーシャルダンスを振る舞う。
じゃっぴ(…これで良いか?)
のあ(うん。良いと思う。)
社と乃愛はダンスしながら互いに小声で意思を確認し合う。ダンス自体はもちろん素人のそれだが、互いの相性の良さ、付き合いの長さ、運動能力の高さがあって抜群のコンビネーションを発揮する。ダンスの後、2人は海に飛び込み、先に飛び込んだ8人の組んだ土台(タワー)に支えられて海から上がる。そこで最後の〆に、社は乃愛を抱きかかえると高く空中へ放り投げた。
のあ「きゃっ!?ちょ、ちょっと!」
乃愛もこれは戸惑った。しかし、すぐに社にお姫様抱っこでキャッチされた。そこでBGMも終わり、パフォーマンスは終了となった。観ていた観客からは歓声と拍手が多数送られた。
のあ「…もう、また無茶する…」
じゃっぴ「へへ、パフォーマンスの〆には丁度だろ♪」
乃愛はまた心臓がドクドクしたが、少し嬉しそうだった。一方で、少し照れ臭そうでもあった。しかし、彼女らの足元で土台(タワー)を作っている風太がバランスを崩しそうだった。
なおきり「おい、どうした?」
もふ「いや…今の衝撃が…」
風太は社が乃愛をキャッチしたときの衝撃を真上から受けて腕がカクカクしていた。そして、風太がバランスを崩したことで土台(タワー)は崩壊し、大きな水しぶきを上げてSNS部の全員が海に沈んだ。
一同「うわー!」
海に沈んだSNS部の面々は各自、海から浮かび上がろうとした。そんな中で、社は乃愛を探した。しかし、彼の近くに乃愛はいなかった。先に上がったのか?そう思いながら社は水上へ浮上した。そして、泳いで浜辺に辿り着いた。
じゃっぴ「はあ…」
社は着いた先で座って一息ついた。その後、他のSNS部員たちも海から上がり、社と合流した。しかし、乃愛の姿はなかった。
じゃっぴ「…乃愛は?」
たっつん「ん?見てへんけど、一緒やなかったんか?」
どぬく「俺も見てないが。」
えと「私も。」
るな「私もですよ~」
社は乃愛を見ていないか尋ねるが、SNS部員たちは口々に見ていないと言う。
じゃっぴ「…誰も見てねえのかよ。」
なおきり「こうなると、まだ海の中か?」
じゃっぴ「…だったら!」
ゆあん「おい!じゃっぴ!」
直切の憶測を聞くと、社は駆け足で再度海へ入る。
じゃっぴ(乃愛…)
社は必死に泳いで乃愛を探した。そして、ピアフロートの下で海に沈んでいた資材に引っかかっていた乃愛を見つけた。
じゃっぴ(乃愛!)
社は乃愛の水着のパレオに引っかかっていた資材の突き出たパーツを取ると、乃愛を連れて海上へ浮上した。
じゃっぴ「乃愛…乃愛!」
のあ「…」
乃愛は長く水中にいたことで気を失っていた。社は乃愛を背負って再び浜辺まで泳いだ。
たっつん「じゃっぴ!」
えと「乃愛!」
るな「乃愛ちゃん!」
社と乃愛はSNS部員たちに出迎えられたが、その状況は喜べるものではなかった。乃愛は未だ目を覚まさない。
じゃっぴ「乃愛!目ェ開けろ!」
のあ「…ん。」
乃愛はようやく意識が戻り出した。SNS部員たちはそれを見てホッとしたが、1番ホッとしたのはもちろん社だ。
じゃっぴ「乃愛!」
のあ「へ…?」
社は思わず乃愛に抱き着いた。そして、謝った。平時なら他のSNS部員たちはおお!と思ったところだが、そういう雰囲気ではなかった。
じゃっぴ「ごめん!俺が悪かった!俺があんなことしたせいで…」
のあ「じゃっぴ…」
社は自分のパフォーマンスの最後の〆のせいだと言って謝罪するが、彼に抱き着かれた乃愛は照れ臭そうになる。そこに風太が声をかける。
もふ「いえ、俺のせいです。あの時、俺がしっかり支えていれば、こんなことにはなりませんでした。すみません。」
風太は自分のせいだと頭を下げて社と乃愛に謝罪した。
なおきり「…ま、無事でよかったな。」
るな「ホントですよ。乃愛ちゃん目覚まさないんじゃないかって、かなり冷や冷やしました。」
えと「ま、その場合はじゃっぴが人工呼吸してたかもね♪」
どぬく「うむ。あり得るな。」
ゆあん「あははははは!」
たっつん「暑いのにさらにアツアツやな♪」
SNS部員たちは結局また社と乃愛の関係を冷やかす。社は顔を真っ赤にして当たり散らしたくなった。が、乃愛の言葉が彼を止める。
のあ「…ありがとう。じゃっぴ。」
じゃっぴ「…あ…ああ…」
乃愛は優し気な笑みで社に礼を言う。社は照れ臭そうに乃愛から顔を背けた。そこに柴と博文が来た。
シヴァ「おーい皆―!」
ヒロ「ここに居たか。」
なおきり「ん?どした?」
ヒロ「今回のパフォーマンス、凄く良かったから店長が全員にバイト代弾むって言ってたよ。」
シヴァ「動画も良いのが撮れた。また編集してアップしとくよ。」
えと「マジで?やった♪」
うり「店長、太っ腹!」
SNS部員たちはパフォーマンス後の事故を忘れ、特別手当の支給に沸いた。