ここはダンジョン・サラの4階層。
昼食をとってお昼休みを挟むと、みんなは再び各階層へ散っていった。
白猫姉弟のタマとトキもだいぶ慣れてきた様子で攻略スピードがあがってきた。
タマの方は敵の死角を突いての奇襲や、こっそり後ろから忍び寄り喉を掻っ切る戦法。
その動きは実にスピーディーで容赦がない。暗殺者のようだ。
そしてトキの方は本当に初心者か? と疑うぐらい短槍を使いこなしている。
こちらも姉に劣らずスピーディーだ。
(確かにメアリーをトレースしたような動きを見せる時もあるよなぁ)
なかなか研究しているようだ。
5階層に入っても2人は全く危なげなく進んでいる。
程なくして『ボス部屋』にたどり着いた。
一応、どうするか聞いてはみたが行くようである。
――もちろん秒殺だった。
ボス部屋を出て転移台座の前まで進み玉 (ぎょく) に触れるように指示していく。
するとタマは、台座の玉をいろんな角度から観察したあげく、玉に向かって必殺のネコパンチを繰り出していた。
なのに弟のトキの方は、いたって普通であり落ち着いて手を乗せている。
同じ白猫族の姉弟ではあるが、なんとも対照的な二人である。
その後も探索は順調に進んでいき、6階層の半ばを過ぎたあたりで今日のところはお開きとなった。
みんなを集めて浄化をかけ、先に子クマ姉弟をログハウスへと転送。
続いて俺たちも王都のツーハイム邸に戻ってきた。
「これからの仕事も気を抜かずにしっかり務めるんだぞ」
「「はい!」」
「じゃあ、これを持っていけ」
白猫姉弟のタマとトキには、今日二人で倒した分の魔石を革袋に入れて渡してあげた。
「これは?」
「シオンにはちゃんと話してあるから、持っていけ!」
タマはその革袋を両手で受け取ると、ペコリと頭を下げて仕事場へ戻っていった。
さて、残った課題はタマの服なんだが。
ふつうに冒険者装備でもいいだろうが、仕事の一環なのでメイド服という手もある。
(猫みみ戦闘メイドかぁ~。スカートに隠したクナイでシュパパパンッ! )
うん……、有りだな!
戦闘スタイルは ”暗殺者” だよな。
実際に動きやすい軽装がいいだろう。
するとくノ一装備も有りなのか?
”かすみ” のような?
無いな、ないない。……いいとは思うけど、ない!
じゃあ戦国無双スタイル?
これも無しかなぁ。
だいたい鎧や戦闘服なのに何故ノンスリーブなんだ?
そしてミニスカートだっておかしいだろ! どう考えても。
防御のために着てるんだよな。気づけよ!
――様式美?
いらんいらん。宴会やコスプレではないんだし。
んっ、んんっ、じゃあ宴会なら有りなのか???
あぁ――――っ、脳内でかすみシリーズがフラッシュバックしてきた~~~。
(真○くノ一忍法伝 かすみ)
「……ゲン様、ゲン様、如何なされましたか?」
「お、おう、シオンか。どうかしたのか?」
頭上に浮かんでいる妄想を片手でパタパタと掻き消す。
「い、いえ、アリスが参りましたので、ご準備をと」
いかんいかん。盛大に耽っていたなぁ。(汗)
衣装については、また後日考えることにしよう。
▽
それから10日が過ぎた。
当然のことながら散歩も朝練も続いている。
最近では参加人数が増えてきたため模擬戦を行うようになった。
ついつい熱が入りすぎて、打ち身などの怪我をする事もあるが回復要員が居るのでダメージを残すことはない。
白猫姉弟のタマとトキも良く頑張っている。
ここでタマを鑑定してみる。
タマ Lv.5
年齢 15
状態 通常
HP 35⁄36
MP 6/6
筋力 16
防御 13
魔防 07
敏捷 15
器用 12
知力 08
【スキル】
【祝福】 ユカリーナ・サーメクス
朝練を始めた頃はLv.2だったのでそれなりに伸びてると思う。
女神さまから祝福を授かっているので普通の人よりは伸びが早いようだ。
それで考えていた装備なのだが、
厚めの長袖シャツにパンツは膝下を絞った細めのニッカポッカタイプ。
履物はコンバットブーツを採用し、つま先部分に鉄板を入れ補強している。
両ショルダーの胸当て・クナイ4本差しベルト・鉄板入りアームガード・指空きグローブ。
頭部はナツと同じで、首元までカバーできる ”チェインヘルム” 猫耳タイプ だ。
ブーツからヘルムまですべて黒の艶消しで統一している。
これがすんごくカッコイイのだ!
おまけに手に持つクナイまで黒いからね。
まさに影の軍団である。まだ二人だけど。
適性がありそうな奴隷を購入して、軍団として鍛えていくのも有りかもしれない。
吹き矢・棒手裏剣などもそのうち仕込んでいくかな。
フフフッ♪ 怖すぎる!
ツーハイム邸で催されるパーティーまで残り10日となった。
懸案事項の一つであった引き出物 (おみやげ) なのだが、
いろいろと迷い苦戦しながらもこの程ようやく完成した。
作ったのは ”クリスタル・タンブラー” である。
この国はガラスがそれほど普及しておらず、あっても色のくすんだ透明とはいえないお粗末なものであった。
それでも見かけたのは王宮内であって、町中や店では見たことがない。
初めはワイングラスにしようかとも思ったのだが、馬車で運ぶことを考慮しタンブラーへと切り替えたのだ。
そのクリスタル・タンブラーなのだが、俺の知識の甘さからデレク (ダンジョン) にはかなり頑張ってもらった。
何に苦戦していたのかというと、それは ”鉛” だ。
いやー、地球と同じような環境だからあるとふんでいたのだが……。
普通、鉛といえば釣り用の ”おもり” ぐらいしか思い浮かばない。
特徴としては、ねずみ色・柔らかい・重い、そんな感じだ。
デレクに手伝ってもらって探したのだが、どこにもない。
ダンジョンの範囲を隈無く探していくのだが見つからないのだ。
もうダメかと諦めかけていたのだが、
最後に比重の重たい順番に金属を並べてもらい、
やっとの思いで見つけた。
なんだよこれ、サイコロのような結晶体に銀のような輝きだよ。
はぁ~? こんなんでわかるか――――っ!
後は透明なガラスを作る際に配合の比率を変えながら何度も試作してもらって、なんとか完成させることができた。
もう一つの懸案事項はパーティー招待客の選定であった。
アランさんの他、主だった所にはすでに招待状を送っており、準備は万端整っているはずであった。
それが思いもよらない所から横槍が入ってきたのだ。
「なんで、おばば様やアランは良くてわたくしはダメなのかしら~」
まあ、ご存知のことと思うが王妃様である。
しかし、困ったことに王妃様だけをお呼びする訳にはいかないのだ。
そうなると必然的に王様もお呼びしなければならず、それにはいろいろと問題が生じてしまう。
格式・会場・準備、どれを取っても困難であり、如何にしても無理なのである。
まあ、こちらを困らせたい訳でもないと思うし……。
王妃様からしてみれば夜会のような感覚なのだろう。
う~~~ん、シカトする訳にもいかないしなぁ。どーすんのよ?
仕方がない、ここはおばば様に相談するしか……。
そして次の日の午後、
俺は離宮にお住いのおばば様を訪ねた。(王城の側)
「大変ご無沙汰しております。……様におかれましてはご機嫌うるわしく……」
「あ~はいはい、挨拶はそのくらいでいいよ。今日はどーしたんだい?」
俺は持参してきた今川焼をテーブルに広げ、……カクカク・シカジカ・マルマル……でと相談を持ちかけた。
おばば様は俺の話にふんふんと頷きながら、皿にのった今川焼を手に取る。
「あちちっあちちっ」と言いながらぱっくり二つに割っている。
すると中のほっくり小豆からは、ふんわりあ~まい湯気が立ちのぼる。
それをホクホク言いながら口に頬張っているおばば様。
(あの…………、俺のはなし聞いてますよねぇ?)
「そうかい。まったくあの娘はしょうがないね~」
(おや、聞いてらした……)
「そうなんですよねぇ~。よろしかったらこちらも召し上がってみてください」
次にフライドポテトを出してみる。
「おおっコレコレ! なんとかって芋だったかね? 町じゃ行列まで出来てるそうじゃないかい」
「はい、ジャガイモですね。こちらでは馴染みが薄いようなんですが」
「これはワインよりエールの方が合いそうだねぇ」
パクパクと美味しそうに食べている。まったく手が止まらない。
シロも隣でブンブン尻尾を振って食べている。
それにメイドさん達……。
わかってますから、持ってきてますから、そんな穴があくほど見つめないで!
「セシリアのことは任せときな。な~に少し足腰が弱くなったから、付き添い代わりに連れてきたとでも言っておいたらいいさね」
「はぁ……」
「招待状なんて出すんじゃないよ。あくまでも偶然さね、偶然。わかったねっ!」
流石はおばば様。此度の問題も一発解消である。
確りと頭を下げてお願いしておいた。
このあとメイドさん達におみやげをお渡しして、
せっかくなので、メアリーも呼んで王宮へ遊びにいくことにした。
………………
今は暖炉のある応接室でマリアベルとお茶を楽しんでいる。
談笑していく中で、話題はダンジョンや魔法のことに移っていったのだが、
「ねぇねぇ、見て見て!」
みんなの目がマリアベルに集まった次の瞬間、
―――ブウォン!―――
身体強化しやがった。
なにか気を練っていたことは知っていたが……。
金色の髪に金色のオーラ。
マリアベルの場合、もともとが金髪なので今は明るく輝いている感じかな。
―――ブウォン!―――
―――ブウォン!―――
こらこらシロもメアリーも真似しないの!
「ねぇねぇ、これでPANちゃんみたいになれるかなぁ」
それローマ字になってるだけで、ぜんぜん隠せてないからね。
………………
…………
……
これにて懸案事項はすべてクリアされた。
只今、家人総出でタンブラーの梱包作業に追われている。
馬車に積んでも割れないように、クリスタル・タンブラーを緩衝材で巻き、2脚ずつ木箱に収めていく。
「もし、譲ってほしいと言われた場合はどのように致しましょうか?」
横で作業をしていたシオンが尋ねてきた。
タンブラーもワイングラスも一家に対し10脚まで出そう、
価格は1脚あたり金貨2枚、20,000バースとした。
もし運搬中や手違いで割れたとしても、1年以内なら無償で交換するというショッピング・プロテクションつきだ。
送料……。送料は別途請求だな。
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