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『世界でいちばん優しいオレンジ』サイト-19の重犯罪者・要注意人物用収容セクター。そこは、世界で最も冷酷で、恐ろしいアノマリーたちが集まる場所だ。しかし、その一角にある隔離室の前に立つ研究員の佐藤(さとう)は、なぜかスコップとバケツ、そして大量のピーナッツバターの瓶を持っていた。「よし、999。おやつの時間だよ」佐藤が頑丈な電子ロックを解除して扉を開けた瞬間。「プニィ!」小犬のような、あるいはイルカのような高い鳴き声とともに、床を滑るようにして巨大なオレンジ色のスライムが飛び出してきた。SCP-999――通称「くすぐり怪獣」だ。999は佐藤の足元に滑り込むと、そのピーナッツバターの香りがする体を佐藤の靴にこすりつけ、嬉しそうに全身を波打たせた。その瞬間、佐藤の脳内にじわぁっと温かい幸福感が広がっていく。今日、上司に怒られたストレスも、徹夜続きの疲労も、すべてがどうでもよくなるような絶対的な安心感だ。「はは、よしよし。お前は本当にいい子だな」佐藤が999の表面を撫でると、999は喜びを表現するように、チョコレートのクッキーに似た甘い香りを部屋中に漂わせた。このSCP-999の最大の異常性は、「触れた人間を絶対に幸せにする」という点にある。重度のうつ病に苦しむ人間に999を数分間ハグさせただけで、病気が完全に治癒したという記録もあるほどだ。「実はな、999。今日はお前にちょっと特別な仕事を頼みたいんだ」佐藤がバケツを置くと、999は不思議そうに体を平べったくして、じっと佐藤を見上げた。財団は最近、ある凄惨な戦闘(SCP-186の森での事件)から生還し、極限の精神崩壊とトラウマに苦しむ元兵士の男性を収容していた。彼は精神安定剤もカウンセリングも一切受け付けず、ただ部屋の隅でガタガタと震え、終わりなき地獄の記憶に怯え続けていた。佐藤は999をカートに乗せ、その男の収容室へと向かった。扉が開く。部屋の中は暗く、男は耳を塞いで「殺してくれ、死なせてくれ」とブツブツと呟いている。999はカートから降りると、ゆっくりと男の足元へ近づいていった。そして、怯える男の足を、自分のオレンジ色の体でそっと包み込んだ。「ひっ……! くるな、怪物が――」男が悲鳴を上げようとした、その時だった。「きゅぅう〜」999は男の膝の上までよじ登り、まるで小さな子供が母親に甘えるように、男の胸にペタッと抱きついた。その瞬間、男の瞳からすっと、100年間消えなかった「恐怖の色」が消えた。999の体から放出される精神安定の波動が、男のズタズタに引き裂かれていた心を、優しく、丁寧に修復していく。「あ……温かい……」男の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。それは絶望の涙ではなく、ようやく地獄から解放された安堵の涙だった。999は男の涙を拭うように体をすり寄せ、くすぐるように小さく震えた。数分後、部屋の中には、何十年ぶりかに人間の「笑い声」が響いていた。男は999を愛おしそうに抱きしめ、子供のように声を上げて笑っていた。モニター越しにその様子を見ていた佐藤は、静かにノートを閉じた。どれほど恐ろしい怪物が世界を脅かそうとも、この小さなオレンジ色のスライムがいる限り、財団の闇がすべてを覆い尽くすことはない。「任務完了だな、999」部屋の中では、世界でいちばん優しい怪獣が、今日も誰かを救うために「プニィ」と嬉しそうな声を上げていた。
コメント
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「プニィ」って鳴くオレンジ色のスライム…ヤバい、尊すぎて泣ける🥀 ピーナッツバターの香りとか、触れただけで幸せになるSCP-999、こんなに可愛いのに「くすぐり怪獣」って名前も愛おしい。トラウマに苦しむ元兵士が999の温もりで涙を流して笑うシーン、心臓がぎゅってなった。作者さんの「闇があっても小さな優しさが世界を覆う」ってメッセージ、ちゃんと届いたよ。次話も静かに読みに行くね🌙