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『今から行ってもいいか?』
ぽん、と端末の上部にメッセージが表示される。ユーニからだ。時計に目を向けると二十二時十五分を指している。この時間から来るということはお酒でも飲みたいのだろうか。まあ、それは来てから確認することにしよう。『執務室で待っている』と送信して端末の電源を切る。
⋯⋯⋯
ノックが聞こえドアを開けると橙色の囚人服を着たユーニが立っていた。手には何も持っていない。
「急に来たいなんてどうしたんだ?」
「会いたかっただけだ。今日の仕事は終わっているか?」
「ああ、終わっている」
会いたかっただと?かわいいな。入ってくれ、と招き入れソファに並んで座る。
「何か飲むか?」
「いや、いらない」
「そうか」
そう言うとぽすんと肩にもたれかかってくる。わさわさと頭を撫でると手にぐりぐりと頭突きをしてくる。『かわいいな』と言うと髪の隙間から見える耳が赤く染まっていく。言われなれていないのかいつもこの反応をする。こういう所がかわいいんだ。
「何かしたいことはあるか?」
そう聞くとちらりとこちらを見て目が合うがすぐに逸らされる。いつもは見てくるのに逸らされるなんて何かしたか?全く身に覚えがない。そんなことを考えていると突然右手をぎゅっと繋がれる。恋人繋ぎだ。驚いて隣を見ると俯いており少しだけ見える頬が赤い。あーなるほど、これは夜のお誘いだな?直接言うのが恥ずかしいから遠回しに伝えているのか。まったくかわいい人だ。いつもこういうことは私から誘っている。彼女のほうからくるのは今回が初めてだ。どうせなら言葉にして言ってほしいからとぼけてみることにする。今後こんな機会ないかもしれないからな。
「どうした?」
少しだけ目を合わせすぐに逸らされる。『わからないのか?』と言っていたような気がする。というか言っていたのだろう。かわいい人だ。少し考えるような素振りをし繋いでいる手をにぎにぎとしてくる。………それだけか?もっと大胆にいってもいいと思うんだが。少しだけ見える彼女の耳は先ほどより赤く染まっている。にぎにぎはそこまで恥ずかしくないと思うが…。そんな初心なところもかわいいな。
「なんだ?」
少しだけ目を合わせすぐに逸らされる。先ほどと同じだ。『まだわからないのか?』と言いたげな目をしていた。普通の人は手を繋いでにぎにぎするだけじゃ夜のお誘いとわからないと思うが。それだけでわかった私はすごいと思う。少し考えるような素振りをし手を繋いでいるほうの腕に軽く抱きついてくる。なんだ?!かわいいな!思わず頭を撫でると既に赤かった耳が更に赤くなった気がする。かわいい。でも言葉では言ってくれない。もうひと押しか。
「なんだ?わからないから言葉にしてくれ」
先ほどより長く目を合わせすぐに逸らされた。『わかって言っているんだろう』の目をしていた気がする。言葉には出さないのか。しばらく声を聞いていない気がする。その目に笑顔で返してあげた。考えるような素振りをし顔をこちらに向ける、がすぐに逸らす。また考えるような素振りをしこちらを見るがすぐに逸らす。何をしようとしているんだ?
「どうした?」
少しすると顔をこちらに向けちゅっと頬に口付けるとすぐに俯きちらりとこちらの顔を見る。急なことに驚き固まっているともう一度頬に口付けてくる。こうしたらいいとわかったのか何度も繰り返す彼女の肩を押し制止する。
「……私室に行く」
そう言って立ちあがり手を引いていく。負けてしまったな、と思いながら執務室のドアを閉めた。