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テラーノベル(Teller Novel)
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学校に通わせていないどころか、戸籍すらなかったそうだ。

それから少女がどうなったかはわからない。


警察に警戒されるのも当然だろう。

状況的に見ればわたしが殺人犯である線も残っているのだ。


わたしとしてはあの少女が幸せであれば、それでいい。



あの事件をきっかけに、わたしは教員免許取得に熱を入れた。


教育実習を終え、教員採用試験もクリアして、中学校の国語教諭になった。



少女を守る為に親を犠牲にしたわたしが、善人であるかと問われると微妙だ。


これから教壇に立つわたしは単なる殺人者なのかもしれない。


それでもわたしはこの世界の不条理に、胸を張って屹立きつりつしたかった。



別に先生になれば誰かを救えるようになるわけではない。


たとえば今回の少女のケースのように学校に通わせていないとなると、事件に気づくことすらできないだろう。



それでも、自分の担任クラスや廊下ですれ違った誰かの変化に気づくことはできるかもしれない。それが生徒の為になるのなら、と思う。




しかし、新任だというのにクラス担任を持つことになるとは思わなかった。


教頭先生は教育実習を見るに問題はないと言っていたけれど、授業の上手さとクラスをまとめる能力は別だ。


こればかりは経験を積まなければ得られないので、いずれは担任になるのだけれど、少し早すぎるのではないだろうか。


そんなことを考えながら、クラスに足を踏み入れる。




騒がしかった教室の空気が変わる、新しい先生が珍しいのだろう。

いくつもの瞳がこちらを見ている。


教室で少女と感動の再会といった奇跡は起こらない。

そんな奇跡は起こらなかった。


自己紹介をして出席をとる。




そういえば今朝方、警察から電話があった。


あの少女が消えたらしい。

それで以前関係のあったわたしに声をかけてきたのだ。


そっちで匿っているんじゃないか? と。

誘拐の線も想定した、取り調べじみた声だった。


もちろん匿ってはいない。

それで話はおしまいだった。


でも、もし。

あくまで過程の話だけれど、あの少女が家に来たらわたしはどうするだろう。



少女の黒い瞳が脳裏をよぎる。

わたしはどこで何をされていたかもわからない少女を送り返すのだろうか。


40人の黒い瞳がわたしを見る。

それとも、わたしはあらゆるものを犠牲にして少女を守ろうとするのだろうか。



右の進路には少女が、左の進路には40人の生徒が立っている。

目の前には進路を切り替えるスイッチがあった。


トロッコが走り出す。


不条理だ、実に不条理だけど。

わたしは選択する。

少女K【短編集】

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