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不意に鳴り響いた着信音。

スマホ越しに件(くだん)の男の声がした。


「もしもし、幸福さんですか? 昨日はどうもです。 お客様相談センターの結城(ユウキ)でございますっ!」


爽やかであった。

この二十時間の善悪の屈託(くったく)などまるで意に返さずに、超絶爽やか、ノンストレスとみえる。

善悪は僅か(わずか)に呆れつつも、言うべき事だけは言おうと決意し、徐(おもむろ)に返事を口にした。


「ああー、結城氏。 昨日はド・ウ・モっ! 何の話かは知り申さぬが、一つだけ言っておくのでござる! 拙者は決してクレーマー等では……」


「幸福さん! 昨日のお約束どおり、上の者へと掛け合ったんですが、やっぱり補償とか交換は罷(まか)りならん! って一点張りでしてね」


ん? そりゃそうだろ?

そもそも結城氏本人がそう言ってたんだし、と善悪はハテナ顔であった。

当然電話の向こうの結城氏にはその怪訝(けげん)な表情が伝わる訳もなく、氏は構わず話を続けた。


「そこで、原型製作兼サブチーフとして今回企画に参加されている方に連絡しましてね。 幸福さんも御存知でしょう? 吹木悠亜(ふいぎゆあ)さんです」


「えっ! 吹木さんですか?」


突然その名が出て来た事に驚き、思わず聞き返してしまった善悪。

結城氏はやや興奮気味に言葉を続ける。


「そうです。 あの吹木さんです。 で、ですね、今回の状況をお伝えして、幸福さんの事を相談したんですが……」


「は、はい」


善悪は戸惑っていた。


自分をクレーマー扱いした結城氏からの突然の電話。

そして、会社の上司に話して駄目だったのに、原型製作だけじゃなくプロジェクト全体のサブチーフとして関わっていた大物への相談?

あれ? 結城氏、思ってたより全然良い人なんじゃ…… なんかスマソ。


そして、突然のビックネームの登場、吹木(ふいぎ)悠亜(ゆあ)……


フィギュア界にその人有りと言われる女流原型師。

繊細で卓越した技術だけでなく、柔軟かつ大胆な発想に基づく革新的なポージングアイディアは、常に業界に驚きを与え続けていた。

更に最近では、一部マニア向けに開設した動画配信チャンネルに登場した、彼女の可憐な見た目が話題に上がり、一般の人々にも人気急上昇なんだとか。


そんな有名人に自分の事を相談した等と、俄か(にわか)には信じられなくても当然であろう。

善悪の困惑など意にも介さず、結城氏は話を続けた。


「吹木さんがお持ちの『悪魔もぐら』を今回の補償として、幸福さんにお渡ししても良いと仰いましてね」


「えっ! ど、どうして、そんな?」


どこをどうすればそんな話になるのか、ちんぷんかんぷんな善悪。


「まあ、私も昨日幸福さんにお約束した事ですから、クビになる覚悟で一所懸命に説明したわけです。 それに……」


善悪はびっくりしていた、同時に自身の不明を恥じてもいた。

結城氏は善悪の事をクレーマーだなんて思っていなかった。

それどころか、会社の方針に反して、何とか顧客の願いに応え(こたえ)ようと、自分の進退をも掛けて戦ってくれていたのだった。


恐れ入った…… それが善悪の率直な感想であった。

更に、続く言葉が善悪を一層驚愕させる事になる。


「吹木さんに幸福さんのお名前をお伝えした時ですね、彼女何か思い当たったようでして」


「は? なんでござろう?」


「ハッピーグッドイーブル」


「な、なぜっ!? そ、そのハンドルネームをっ!」

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