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第18話
朝、教室。
「今日から転校生が来るからな〜」
先生の声に、教室がざわつく。
前に出てきた女の子が、ふんわり笑って頭を下げた。
「天野彩花です。よろしくお願いします。」
(……あれ? どっかで見たような……)
記憶の奥がチクリと疼く。
——駅で、黒瀬と歩いてた“あの子”だ。
「席は黒瀬の隣な。」
(……嘘でしょ!? なんで隣!?)
「黒瀬くん、久しぶりだね。」
「……ああ、バイトぶり。」
「そうそう。覚えててくれて嬉しい。」
「……別に忘れてねぇし。」
(ちょ、ちょっと仲良すぎじゃない!?)
放課後。
彩花は教科書を広げながら、黒瀬に微笑む。
「黒瀬くん、字が綺麗。やっぱり几帳面なんだね。」
「普通。」
「そういうところ、昔から好き……あ、尊敬してるんだ。」
「……ふーん。」
(今、“好き”って言ったよね!?)
隣の席で夏江はノートを握りつぶしそうになる。
(天然……なの? わざとなの!? どっちなのぉ!?)
そこに彩花がくるっと夏江に笑顔を向ける。
「水原さんって、体調崩してたんでしょ? でも……元気そうでよかった。」
「え、あ、ありがとう……?」
「でも、無理しすぎるとまた倒れちゃうかも。ね、黒瀬くん?」
「……知らねぇよ。自己管理くらいしろ。」
「ふふっ。優しいね、黒瀬くん。」
(優しいって……それ、優しくないから!!)
友達がニヤニヤしながら小声で言う。
「ねぇ夏江、あの子……完全に狙ってるっぽくない?」
「そ、そんなことっ……」
(いや、ある。絶対ある……!)
放課後。
彩花と黒瀬が廊下で話しているのが見える。
「ねぇ、今度のライブイベントのバイト、また一緒かも。」
「……そう」
「なんか嬉しいな。前みたいにまた組めるといいね。」
「……さぁな。」
(……また“バイト”!?)
そのまま通り過ぎていく2人の背中を見つめながら、夏江は小さく息を吐いた。
(このままじゃ、何も言えないまま終わっちゃう……)
でもすぐ、ギュッと拳を握る。
(負けない。あの子にも、私自身にも……!)
窓の外、夕日が赤く差し込む。
黒瀬の背中を見ながら、夏江の胸の奥が熱くなった。
(見てなさい、黒瀬颯太。絶対、振り向かせてみせるんだから。)