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第19話
第19話
教室は朝から大混乱。
のり、ガムテ、段ボールが飛び交う。
みんなテンション高いのに、私は心の中でため息をついてた。
(文化祭って……なんで準備からこんな疲れるのよ……)
「水原〜!ポスターの色、こっちでいい?」
「うん、それでいいと思う!」
(……疲れたけど、負けない。黒瀬にだけは。)
ガラッ。
ドアが開くと、明るい声が響いた。
——天野彩花。
この前、駅前で黒瀬と一緒にいた“あの子”。
ライブスタッフのバイト仲間。
清楚系……に見えるけど、なんか違う。
「おはよ、黒瀬くん! 手伝うね!」
「……。」
「バイトの時より真剣だね〜。かっこいいかも。」
(な、なにその言い方……!)
私は少し距離を取って、ポスターの貼り直しを始めた。
その横で、彩花が黒瀬に笑いかける。
「ねぇ黒瀬くん、テープ取って?」
「そこにあるだろ。」
「え〜、届かないもん。」
「……ほらよっ」
(自分で取れるでしょ!?絶対届く距離だし!!)
「ありがとー! やっぱ優しい〜」
(うわ、出た。その“やっぱ”のトーン!!)
黒瀬は特に反応せず、作業を続ける。
けど、彩花は止まらない。
「そういえばね、黒瀬くん。明日の文化祭、私のクラスも出し物やるんだ〜。
見に来てくれたら嬉しいな♪」
「忙しいだろ、こっちも。」
「そっかぁ〜。じゃあ無理しないでね?」
(……いや、絶対誘ってんじゃん!!)
私が思い切りガムテを引きちぎった音に、黒瀬がちらっとこちらを見る。
「……水原、力入りすぎ。」
「な、何も!? 全然普通だから!!」
彩花がくすっと笑う。
「ふふ、水原ちゃん、元気でいいな〜。ね、黒瀬くん?」
「……まぁな。」
(“まぁな”!? その返事、地味に刺さるんですけど!?)
教室の空気が少しぴりっとする。
でも彩花は気づかないふりで、
「ねぇ黒瀬くん、ここの飾りちょっとズレてるかも〜」と、また近づく。
私は思わず言った。
「それ、そこじゃなくて左の方がいいと思う。」
「え、そう? うーん……まぁ、黒瀬くんがいいならどっちでも?」
(なにその“どっちでも”って言い方!!)
黒瀬が脚立に登って直そうとした時、
私が下から支えてて——バランス崩した。
「きゃっ!」
ガシッ。
落ちかけ た私を、黒瀬が片腕で支えた。
「……危ねぇな。」
「ご、ごめん……!」
「ったく、無理すんな。」
(ちょ、顔近い……!心臓、爆発する……!)
彩花が少し笑って、でもその声には微妙なトゲがあった。
「ふふ、さっきからホント仲いいね。……ねぇ、黒瀬くん。」
「別にそういうんじゃねぇ。」
(ちょっと、即答なのも腹立つけど優しいのもズルい!)
「へぇ、そうなんだ〜。でも……ちょっと羨ましいな。」
彩花がそう呟いて、少しだけ目を細めた。
それは……。笑ってるようで笑ってなかった。
(……やっぱりこの子、ただの“天然”じゃない。)
私は黒瀬の背中を見ながら、
(絶対負けない。)
そう、小さく心の中でつぶやいた。