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昇降口を出ると、オレンジ色の夕焼けが校庭を照らしていた。
みことは恋人と並んで歩きながら、
その心はまったく別の方向に向いていた。
「今日、帰りどこ寄る?」
恋人が笑顔で聞く。
「……うん、任せるよ」
みことは返すが、声は上の空。
恋人は不安そうにその横顔を見つめた。
その時だった。
前からゆっくり歩いてくるすちの姿が、夕日に照らされて浮かび上がった。
息が止まった。
「……すち……」
ほんの小さな声で名前を呼ぶ。
けれど、 すちはみことに視線を向けることすらせず、 まるで石のように表情を動かさず、そのまま通り過ぎようとした。
「……すち!」
今度ははっきりと呼んだ。
声が震えている。
しかしすちの歩みは止まらない。
返事も、振り向きも、何もない。
その一瞬で、 みことの胸の奥がぐしゃっと潰れたように痛んだ。
「……みこと?」
隣の恋人が心配そうに呼ぶ。
みことは唇を噛み、拳をぎゅっと握りしめた。
「……ごめん、ちょっと……!」
そのまま恋人の手を振りほどき、 みことは駆けだした。
「みこと!?」
恋人の呼ぶ声が背中に残るが、
みことの耳にはもう届かない。
視界の先には、 夕日の中を一人で歩き去っていくすちの背中。
——離れていくのが怖い。
——もう一度、ちゃんと話したい。
ばくばくと鳴る胸を押さえながら、 みことは必死に、すちの後ろ姿を追いかけた。
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