テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
昇降口を出ると、オレンジ色の夕焼けが校庭を照らしていた。
みことは恋人と並んで歩きながら、
その心はまったく別の方向に向いていた。
「今日、帰りどこ寄る?」
恋人が笑顔で聞く。
「……うん、任せるよ」
みことは返すが、声は上の空。
恋人は不安そうにその横顔を見つめた。
その時だった。
前からゆっくり歩いてくるすちの姿が、夕日に照らされて浮かび上がった。
息が止まった。
「……すち……」
ほんの小さな声で名前を呼ぶ。
けれど、 すちはみことに視線を向けることすらせず、 まるで石のように表情を動かさず、そのまま通り過ぎようとした。
「……すち!」
今度ははっきりと呼んだ。
声が震えている。
しかしすちの歩みは止まらない。
返事も、振り向きも、何もない。
その一瞬で、 みことの胸の奥がぐしゃっと潰れたように痛んだ。
「……みこと?」
隣の恋人が心配そうに呼ぶ。
みことは唇を噛み、拳をぎゅっと握りしめた。
「……ごめん、ちょっと……!」
そのまま恋人の手を振りほどき、 みことは駆けだした。
「みこと!?」
恋人の呼ぶ声が背中に残るが、
みことの耳にはもう届かない。
視界の先には、 夕日の中を一人で歩き去っていくすちの背中。
——離れていくのが怖い。
——もう一度、ちゃんと話したい。
ばくばくと鳴る胸を押さえながら、 みことは必死に、すちの後ろ姿を追いかけた。
NEXT♡500
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!