テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
廊下を抜け、校門を出たところで、 すちの背中にようやく追いついた。
「すち……っ、待って……!」
みことは息を乱しながら、震える手を伸ばし、 すちの手首をぎゅっと掴んだ。
腕が止まる。
だが、すちは振り返らない。
「……無視しないで……っ」
声が涙に濡れて震える。
「…離れんといて…やだよ……もうやだ……」
掴んだ手に力が入る。
涙がぽろぽろ落ちて、みことの頬を伝っていく。
ようやく、すちがゆっくりと振り返った。
その表情は冷たい。
感情を押し殺したような笑みを、ほんの少し浮かべた。
「……恋人置いて、何やってんの?」
みことの呼吸が止まる。
すちはわざと軽く笑い、 心の奥を抉るような言葉を吐いた。
「追っかけてきて……なに、浮気?」
頭を殴られたみたいに衝撃が走る。
「ち、ちが……う……そんなつもりじゃ……っ」
涙で声が崩れる。
すちはさらに続ける。
無表情の奥に、深い傷と怒りを隠したまま。
「へぇ……じゃあ何?」
「…彼氏ほったらかして俺の手掴んで、泣きながら“離れないで”って。どういうつもり?」
みことは返す言葉をなくし、 ただ首を振って泣くしかなかった。
「ちがう……ほんとに……すちが……いなくなるのが……怖くて……」
「嫌われたくない……どっか行かないで……お願い……」
必死に縋るみことの姿に、 すちのまなざしが一瞬だけ揺れた。
だが、すちは掴まれた手をそっと振り払った。
「……みこと。俺を“選べない”なら、関わんないで」
冷たい声が、みことの心に深く突き刺さった。
掴んでいた手を振り払われた瞬間、
みことの膝から力が抜けた。
「……ぁ……」
その場にがくりと崩れ落ち、 アスファルトに手をつきながら、必死に呼吸を整えようとするが、 喉がつまってうまく息が吸えない。
涙が止まらない。
次から次へとあふれて、足元に小さな水たまりを作っていく。
すちはそんなみことを一度だけ見下ろした。
何も言わず、何も拾わず、ただ冷静な顔で背を向ける。
「……じゃあね、みこと」
その声はあまりにも遠かった。
すちの足音が消えていく。
みことは伸ばしかけた手を空中で止めたまま、声も出せず、ただ震えていた。
どれくらい時間が経ったかわからない。
夕焼けは薄れ、風が冷たさを帯びてくる。
「……みこと!」
駆け寄ってくる足音。
顔を上げると、さっきまで一緒に帰っていた恋人が息を切らして立っていた。
「……やっと見つけた……どうしたの……!?」
みことは、答えられなかった。
ただ、涙がこぼれ続ける。
肩が小刻みに震え、 喉からはひゅっ、と弱い呼吸音しか漏れない。
「みこと……っ、こんな……」
恋人はしゃがみ込み、そっとみことの頬に触れる。
「誰かに何かされたの? 言って……お願いだから……」
みことは首を横に振る。
何も言えない。
胸が痛くて、息がつまって、頭の中が真っ白で。
すちが去った方向を見るたび、 心臓がひきちぎられそうに痛む。
恋人はそんなみことをぎゅっと抱き寄せた。
「大丈夫、大丈夫だよ……俺がいるから……」
でもみことは、抱きしめられてもなお、 たったひとりの名前だけを胸の中で何度も呼び続けた。
すち……
いかないで……
置いていかないで……
涙は止まる気配もなく、 みことは恋人の胸の中で、ずっと泣き続けていた。
NEXT♡500
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!