コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
廊下を抜け、校門を出たところで、 すちの背中にようやく追いついた。
「すち……っ、待って……!」
みことは息を乱しながら、震える手を伸ばし、 すちの手首をぎゅっと掴んだ。
腕が止まる。
だが、すちは振り返らない。
「……無視しないで……っ」
声が涙に濡れて震える。
「…離れんといて…やだよ……もうやだ……」
掴んだ手に力が入る。
涙がぽろぽろ落ちて、みことの頬を伝っていく。
ようやく、すちがゆっくりと振り返った。
その表情は冷たい。
感情を押し殺したような笑みを、ほんの少し浮かべた。
「……恋人置いて、何やってんの?」
みことの呼吸が止まる。
すちはわざと軽く笑い、 心の奥を抉るような言葉を吐いた。
「追っかけてきて……なに、浮気?」
頭を殴られたみたいに衝撃が走る。
「ち、ちが……う……そんなつもりじゃ……っ」
涙で声が崩れる。
すちはさらに続ける。
無表情の奥に、深い傷と怒りを隠したまま。
「へぇ……じゃあ何?」
「…彼氏ほったらかして俺の手掴んで、泣きながら“離れないで”って。どういうつもり?」
みことは返す言葉をなくし、 ただ首を振って泣くしかなかった。
「ちがう……ほんとに……すちが……いなくなるのが……怖くて……」
「嫌われたくない……どっか行かないで……お願い……」
必死に縋るみことの姿に、 すちのまなざしが一瞬だけ揺れた。
だが、すちは掴まれた手をそっと振り払った。
「……みこと。俺を“選べない”なら、関わんないで」
冷たい声が、みことの心に深く突き刺さった。
掴んでいた手を振り払われた瞬間、
みことの膝から力が抜けた。
「……ぁ……」
その場にがくりと崩れ落ち、 アスファルトに手をつきながら、必死に呼吸を整えようとするが、 喉がつまってうまく息が吸えない。
涙が止まらない。
次から次へとあふれて、足元に小さな水たまりを作っていく。
すちはそんなみことを一度だけ見下ろした。
何も言わず、何も拾わず、ただ冷静な顔で背を向ける。
「……じゃあね、みこと」
その声はあまりにも遠かった。
すちの足音が消えていく。
みことは伸ばしかけた手を空中で止めたまま、声も出せず、ただ震えていた。
どれくらい時間が経ったかわからない。
夕焼けは薄れ、風が冷たさを帯びてくる。
「……みこと!」
駆け寄ってくる足音。
顔を上げると、さっきまで一緒に帰っていた恋人が息を切らして立っていた。
「……やっと見つけた……どうしたの……!?」
みことは、答えられなかった。
ただ、涙がこぼれ続ける。
肩が小刻みに震え、 喉からはひゅっ、と弱い呼吸音しか漏れない。
「みこと……っ、こんな……」
恋人はしゃがみ込み、そっとみことの頬に触れる。
「誰かに何かされたの? 言って……お願いだから……」
みことは首を横に振る。
何も言えない。
胸が痛くて、息がつまって、頭の中が真っ白で。
すちが去った方向を見るたび、 心臓がひきちぎられそうに痛む。
恋人はそんなみことをぎゅっと抱き寄せた。
「大丈夫、大丈夫だよ……俺がいるから……」
でもみことは、抱きしめられてもなお、 たったひとりの名前だけを胸の中で何度も呼び続けた。
すち……
いかないで……
置いていかないで……
涙は止まる気配もなく、 みことは恋人の胸の中で、ずっと泣き続けていた。
NEXT♡500