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「というわけで―――
遊び場にしていた洞窟内の奥に、
魔力を吸収するキノコが発生していて、
それが原因で倒れていたものと」
子供たちの行方不明事件で依頼を受け、
救出した翌日……
私とメル、アルテリーゼは報告のために
冒険者ギルド支部を訪れていた。
子供たちの容態を念のため一晩見る事になった
おかげで、翌日となってしまったが、
アルテリーゼの『乗客箱』で、一緒に公都に
到着する頃にはすっかり回復し、
それぞれが、迎えに来ていた親御さんに
連れられ、帰っていった。
「そのキノコはどうした?」
アラフィフの筋肉質のギルド長が問うと、
「パックさんとシャンタルさんが
持ち帰ったよー」
「『素晴らしい研究材料だ!』とか言ってな。
まったくあの夫婦は」
メルとアルテリーゼが苦笑しながら、
その時の事を語る。
例の魔力を吸収するキノコは、無効化して
持ち帰っており、
話を聞いていたパック夫妻が、ギルド支部で
待ち構えていて―――
そのまま持って行ってしまった。
「ま、あの2人に任せておけば問題は
無さそうッスけど」
「本当に何でも調べるんですね、あのご夫婦」
褐色肌の青年・レイド君と、その妻である
タヌキ顔の眼鏡の女性が呆れを込めて話す。
「レイドもご苦労だったな。
出番は無かったようだが」
「無いに越した事は無いッスよ。
あと他のワイバーンの子供たちにも……
範囲索敵は地下や洞窟の中までは
調べられないって、俺直々に注意して
来たッスから」
私もそれは見ていて―――
それを子供たちに周知出来ただけでも、
レイド君が行った意味はあったと思う。
「しかし今後がちょっと不安ですね」
そう私が言うと、東洋風と西洋風の妻二人が、
「?? 何かあったっけ?」
「子供たちは無事救出したし……
心配する事は何も」
その言葉に私は首を左右に振って、
「今、公都『ヤマト』では、子供たちに
亜人や人外の家庭と交流する事を推奨して
いるけど、
今回のような事が起きてしまった以上―――
支障が出るんじゃないかと」
するとジャンさんも眉間にシワを寄せて、
「確かになあ。
今回、行方不明になった子供には、
元スラム出身の子もいたんだけどよ。
親が冒険者ギルドまでやって来て、
いろいろ言っていたからなあ」
「『私たちが元スラムの人間だから、
すぐに助けに行かないんでしょう!!』
そうお母さんが絶叫していましたからね……
魔力通話機で全員無事の報告が来たら、
大人しくなりましたけど、
影響は避けられないものと」
ミリアさんも暗い表情でその時の状況を語る。
「そんな事があったのかー」
「子供たちを見たら何度もお礼を言って
引き取っていったと思ったが―――
我も母親ゆえ、子を心配する気持ちは
わからぬでもない……」
こうして、一件落着はしたものの―――
手放しで喜ぶ事は出来ず、私たちはまずラッチを
迎えに行く事にした。
「ふーん、そんな事になってたんだー」
自宅の屋敷に家族で戻った私たちは、夕食がてら
ラッチも含めて話を共有する。
ショートの黒髪に、真っ赤な瞳をした
中学生くらいの少女の姿になったラッチは、
事もなげにそう返してきた。
まだ子供だから事の重要性とかをわかって
いないのかな? と思っていると、
「だいじょーぶ!
だって、おとーさんが行って来たんでしょ?
ボクも『ガッコウ』や児童預かり所で、
『おとーさんが行ったんなら大丈夫!』
って言ったら、みんな安心してたもん」
それを聞いた妻たちは、やや困りながら笑い、
「そりゃあねー。
シンを知っている人たちならそうだと
思うけど」
「公都の住人になって間もない人間が、
どう見るか、という事なのだ。
特に今回は、その住人の子供がいたのでなあ」
やんわりとメルとアルテリーゼが、ラッチを
たしなめる。
「?? そーいうものなの?」
「こればかりは、付き合いの長さというものが
あるからなあ。
一応助け出したんだし、それほど反発は
されないと思うけど……
他に交流方法を考えないといけないかも」
よくわかっていないであろうラッチに、
私もなるべく柔らかく伝え、
前途多難だなあと思いつつ―――
今後の事に頭を悩ませた。
「ではこれより世界初となる、『鉄道』の
運航を行います!
今回、皆さまがお乗りになる車両は、
王都・フォルロワと公都・ヤマトを結ぶ
直通路線で……
もう1つ、ドーン伯爵領を経由する路線も
ございますが、こちらは―――」
一週間後、私たちはウィンベル王国の
王都へ招待されていた。
例の『鉄道』の開通式に出席するためだ。
何でも、
・王都――公都直通ルート
・王都――ドーン伯爵領経由――公都ルート
この二つの路線が同時に完成したとの事で、
さらにそれぞれ上りと下りの複線仕様と
なっており、
発案者である私と家族は特別に、その試乗に
招かれたのであった。
「今まで、陸路で5日以上かかっていた
王都と公都の距離が……
一気に15時間ほどに縮みますぞ!
これはあらゆる物流を変えますよ、
シン殿!!」
痩せた白髪の老人が、年齢に見合わない
声量で話す。
王家直属の研究機関尾所長、リオレイさんだ。
「以前は20時間ほどと言っていましたけど、
さらに短縮されたんですか?」
「はい。獣人族の中から選抜を重ねたところ、
信じられないほどの速度増加が見込めまして。
もちろん、安全が最優先でありますが、
今後の車両の軽量化と共に―――
さらなる進化が……!!」
さらにヒートアップする彼に家族が、
「おじーちゃん興奮しないで」
「舌をかんでしまうぞ?」
「どーどー」
その指摘に老人はコホン、と咳払いし、
「こ、これは失礼をば……」
「そういえば、例の実験を強行した連中は?」
以前、私たちに後始末というか尻ぬぐいを
させる事を前提に、やらかした職員たちが
いたのだが―――
(■230話
はじめての かいはつふぐあい参照)
「あいつらも一応試乗に参加してはおりますが、
ドーン伯爵領経由ですわい。
あちらは公都まで2日ほどかかる予定です」
なるほど。
参加させない事は出来なかったけど、
遠回りルートに試乗させられたのか。
ちなみに今回の試乗は王族の方々を始めとして、
同盟各国にも招待状を送ったと聞いている。
ただその方々は、貴賓客専用車両に乗って
いるため、出会う事は無いが。
ちなみに車両は四両編成となっていて、
先頭車両は当然、運転専用で通常車両よりも
一回り小さな、ロケットの先端のような
形となっている。
これは空気抵抗なども考えた設計で、
他三両は同型だが、二両目と三両目が客車、
四両目が荷物運搬用となっている。
なおトイレは各車両後方に設置され、
また公都まではノンストップではなく、
各地に休憩する拠点が設置されている。
乗客が休むため、というのもあるが……
運転手兼動力である、獣人族の交代のためでも
ある。
『それでは出発いたします!
みなさま、ご着席をお願いします!』
車内放送用の魔導具から指示が出て、
全員、それに従い席に着いた。
「うわ、すごく速い!」
「地上スレスレを飛んでいるような感覚じゃ」
「おぉお~……
何これ新感覚!」
家族が窓の外を見ながら感想を述べる。
体感的には時速百km前後くらいだろうか。
通勤に使っていた在来線より遥かに速い。
この速度を人力で出しているというのが、
何より驚く。
人間ではなく獣人族の人たちだけど。
「速度計も開発しましたが、一定速度以上には
上げないよう―――
運転手の獣人族たちに徹底しております。
もっと速く走れるのですが、安全第一
ですからな」
リオレイ所長が満足気に語る。
「おお……これは……!」
「馬車などとは比べ物にならん!
こんな速度を出せる乗り物があるなんて!」
他の乗客たちも、未知の速さに驚きの声を
上げていた。
この車両は一般客用ではあるが、言うまでもなく
最新鋭のものは値段が張るもので―――
周囲を見渡すと、富裕層と思われる人たちで
席は埋まっていた。
何ていうか、場違いな感じがしてしまう。
と、そこに、
「おっ、ここにいたか」
「お久しぶりです、シン殿」
グレーの白髪交じりの短髪の、いかにも
身分の高そうなアラフォーの外見の人間に、
蛇のような下半身に戦士のような風貌の
ラミア族……
ライさんとニーフォウルさんがやって来ていた。
「いいんですか、王族と大臣がこんなところに」
「何を言うか。
そう言う貴殿こそ、この『鉄道』の
立役者だろう?」
「私が大臣になったのも、シン殿のおかげと
言っても過言ではありませんし。
しかし人間と協力してこのような物が
出来るとは―――
感無量です」
ここで立ち話になってしまうのも、と
思っていると、
「シンー、貴賓客車両に行って来たら?」
「我らはここで景色を眺めているでな」
メルとアルテリーゼが気を遣い……
そしてラッチはというと、窓にかぶりつくように
外の光景に見入っており、
妻たちの言葉に甘え―――
私は車両を移動する事にした。
「ふー、お偉いさんの相手は疲れ……ん?」
三十分ほどして、私が貴賓客車両から
戻って来ると、
「待って待ってラッチちゃん!
私は気にしてないからー!!」
「一応、どこぞの王子とか言っておったぞ!
死なせるといろいろ問題だから!!」
メルとアルテリーゼが何やらぶっそうな事を
言っている事に気付き、そちらに目をやると、
ラッチが十才くらいと思われる男の子を、
首根っこをつかんで持ち上げている光景が
目に入った。
「ちょっ、止めなさいラッチ!!
いったいどうしたんだ!?」
私が駆けつけるとラッチはその手を放し、
解放された少年はそのまま尻もちをついた。
「も、申し訳ありませんシン殿!
しかしダナン坊ちゃま、いったいどうして
『万能冒険者』殿の奥様を侮辱なんか……」
ペコペコと頭を下げる初老の男性は、ユラン国の
重鎮だそうで―――
王族の末っ子が今回の試乗に来ると言う事で、
そのお目付け役兼任で来ていたらしい。
「侮辱って何だよ、本当の事だろ? ルディオ。
言っておくけどソイツのためでもあるからな?
今後どんどん、『万能冒険者』に奥さんが
増えていきゃ……
みじめになるのは平民出身者だろうが」
悪びれる事なく、その焦げ茶色の短髪をした
三白眼の少年は生意気そうに語る。
「まだ言うかテメー!!
このまま文字通りお空の旅に切り替えて
やろーかコラあぁああああ!!」
ラッチがまた暴れ出そうとするのを、
二人の妻が必死に止める。
事の発端は、私が貴賓客車両に移動したのと
入れ替わりに……
このユラン国のダナン王子が、メルに絡んで
来たとの事。
『へー、あんたはただの平民なのか。
旦那の事を考えたらさっさと別れて
やったらどうだ?
『万能冒険者』の名前は俺でも知って
いるけどよ、
いずれ貴族やら王族の娘やらが嫁いで
くるだろうし、旦那だってそれなりの
地位に就く。
そうなったらバカみてーに身分が低いのは
お前だけって事になっちまうぜ?
そうなる前に身を引いてやった方が、
利口ってモンだろ』
という事をメルに言ったらしい。
そしてそれにブチ切れたラッチが、
『メルおかーさんに何て事言いやがるんだ
ゴルアァアア!!』
と、ネックハンギングツリーを敢行。
そこへ私が止めに入った、というわけだ。
「ていうか、私もアルテリーゼも貴族じゃ
無いんですが」
一応、それとなく抗議の意味で諭してみるが、
「そりゃそうだろうが、『万能冒険者』は
いずれ貴族になるだろ。
もう一方の奥さんはドラゴンだしよ。
となると、ただの人間、それも平民である
コイツが一番身分が低いって事になる。
その時アンタはどうするんだ?
釣り合わねーって言ってんだよ」
いつの間にか来ていたライさんと
ニーフォウルさんが、それを聞いて
大きくため息をつく。
それにつられるように、私も大きく息を吐いて、
「……いい加減にしなさい。
子供や王族だからって、限度がありますよ?」
私がそう言うとダナン王子様は、
不貞腐れるように、
「んだよ、だいたい感情的になったって身分差は
仕方が無いじゃん?」
「……黙りなさい」
「はっ、理論的に反論出来なきゃ黙れってか?
大人気ねーなー」
私は彼の両肩をガッシリつかんで、
「可愛げ無いですね。
もしかしていざとなったら、『僕子供だから』
で逃げるつもりだったんですか?」
「…………」
こちらの本気が伝わったのか、今度は本当に
黙り込んだ。
「では理論的に話して差し上げましょうか。
もし身分的な問題でメルと別れなければ
ならないとしたら―――
私は彼女とアルテリーゼ、ラッチと一緒に
ドラゴンの巣にでも逃げ込みます。
そしてそこに引きこもりますよ」
「はぁ? それこそ大人気ねーじゃねーか」
「あのですね、私は家族や妻と引き換えに
していいとまで、身分を重視していません。
それより、私がそう行動する事によって、
何が起こると思います?」
「あ?」
王族という身分がそうさせるのか、彼はその
傲慢な態度を崩そうとはせず、
「『万能冒険者』がドラゴンの巣に閉じこもって
しまった。
どうやら誰かが、身分差があるので妻の1人と
別れろと言ったらしい。
どうなると思います?」
「どうなるんだよ?」
そこで私は頬をポリポリとかき、
「誰がそんなことを言ったんだ―――
という話になります。
例えば、私はあなたの父上を知っています。
王様から直々にユラン国の頼みや依頼を
引き受けた事がありますからね。
そしてユラン国と最恵国待遇を結んでいる
魔族・魔界とも私は懇意にしている」
そこで私はいったん一息ついて、
「あと私はウィンベル王国の国民です。
つまりウィンベル王国のメンツを潰したと
受け取られても仕方ありません。
ワイバーンの女王とも知り合いですし、
獣人族、ラミア族、他挙げればキリが無いほど
異種族にも人脈を持っています」
説明していて、我ながらよくもここまで
繋がりが出来たなあ、と呆れながらも話を続け、
「あなたはユラン国王子として―――
そんな人物の妻に、
身分差を弁えて別れろ、と言ったんです。
それがどういう結果をもたらすか……
想像しませんでしたか?」
「そっそんなの感情論だろ!
別れるのが嫌だから逃げて引きこもるって、
ただのワガママじゃねぇか!」
まだ減らず口をきく彼に私は、
「私とメルは好き合って結婚したんですよ。
それに平民同士、感情で動くに決まって
いるじゃないですか。
また好きな女と別れたくないと思うのは、
当然でしょうに。
何でもかんでも世間体や権力に従って動くとは
思わないでください」
そこまで言っても彼は反省の色を見せず―――
私はずい、とダナン王子様に顔を近付けると、
「あなたは年齢の割に確かに聡い。
現実も知っているようです。
ただ身分だ権力だというのなら……
それには当然、責任が伴うんですよ。
あなたのお父上―――
ユラン国王・アドベク様は決して軽々しく
発言したり、行動に移したりする方では
ありませんでした。
それは自分の地位と身分の責任を知っていた
からです」
そこで私は王子様のお目付け役である老人に
向かって、
「ダナン王子様を、しばらく公都に預けて
頂けないでしょうか。
『ヤマト』に到着しましたら、魔力通話機で
事情をユラン国にお伝えください」
「……かしこまりました」
彼が頭を下げると、王子様は慌てて、
「なっなんでだよ!!
どうして俺が!?」
するとライさんが割り込んで来て、
「言う通りにしておけ。
お前さん、このまま帰ったらマズいんだよ」
「はぁ!?」
反発する彼にライさんは続けて、
「自己紹介が遅れたな。
ウィンベル王国の前国王の兄、ライオネルだ。
それで『万能冒険者』の妻に無礼を働いた、
っていうのは、もうお前さん1人の問題じゃ
なくなっている。
ユラン国が野菜中心に魔族と交易出来る
ようになったのは、シンの尽力があって
こそだ。
そして魔族が発酵品や酒を主要産業に
出来たのも、シンのおかげ。
そんな恩人に対して―――
お前さんはやらかしたんだよ。
そんな事もわからんのか、青二才が」
「ライオネル様の言う通りです、坊ちゃま。
最悪、ダナン様お1人の首で済むならと、
差し出す恐れもございます」
そこでようやく事態の深刻さを悟ったのか、
少年の顔は真っ青になる。
そしてダナン王子様はとぼとぼと、貴賓客車両へ
お目付け役と一緒に戻って行った。
「……という事がありまして」
公都『ヤマト』に『鉄道』で到着した翌日―――
私たちは事情を報告しに、冒険者ギルド支部の
支部長室にいた。
「……そりゃ怒らなきゃ男じゃねえけどよ。
何つーか災難だったな」
ジャンさんが苦笑しながら感想を口にする。
「まあ、背伸びをして大人びた事を言いたい
年頃だったのでしょうが。
こっちも少し大人気無かったかな、と」
私もちょっとやり過ぎたかと反省し、
「いやーでも、嬉しかったけど怖かったよ」
「うむ。
シンって怒れば怒るほど、淡々とした
話し方になっていくからのう」
「え? いや、お偉いさん方がいっぱい
いたから、なるべく冷静に話そうと心掛けた
だけなんだけど……
そ、それで1名教育し直すために、
『ガッコウ』へ入れようかなあ、って」
そこでレイド君とミリアさんが、
「あー、直接ライオネル様が連れて行った
みたいッスよ」
「ユラン国にも魔力通話機で通達してくれた
ようですから―――
年齢がギリギリっぽかったですけど、
『ガッコウ』へ無事入学させたらしいです」
そこは王族権限でねじ込んだんだろうなあ。
迷惑をかけてしまったようで恐縮する。
「まあ『ガッコウ』ならラッチちゃんも
一緒だし、大丈夫じゃないかな?」
「『アイツの再教育は任せて!!』
って言ってたしのう。
まあ、一緒についてきたあのルディオ大臣?
とやらもいる事だし、しばらくは様子見じゃ」
こうしてひとまず……
開通式は終わったのであった。
「逃げた?」
「は、はい!!」
数日後、私たちが急遽呼び出された
冒険者ギルド支部にいたのは―――
あのルディオ大臣だった。
「ぼ、坊ちゃまの姿が見えなくなったのです!
恐らく公都の外に出たかと」
「思ったより根性あるなあ、あのガキ」
呆れながらギルド長がつぶやく。
「いくらワイバーンが巡回しているとはいえ、
魔物が全くいないってワケでも無いんですよ。
早く保護しなければ」
詳しく聞くと、彼は一応他国の王族なので、
ルディオ大臣と共に王族専用施設の一室を
与えられたそうなのだが、
本日の朝、気が付いたらいなくなっていた
そうで……
「しかし、公都の警備ってそれなりに厳重だった
気がするんだけど?」
「誘拐事件が何度かあった影響で、かなり
厳しかったと記憶しておるが」
メルとアルテリーゼが疑問を口にすると、
「今、公都の人口が増え過ぎてしまって、
あちこちから食料を入れているんスよ」
「それで流通を優先するあまり、どうしても
甘くなるところが」
レイド君とミリアさんが申し訳なさそうに
語る。
「さすがにここで王族が死ぬと問題だからな。
今回はレイドとシンがワイバーンで出撃
してくれ。
範囲索敵で探索・発見次第、
即シンが対処出来る体制で頼む」
「わかったッス!」
「ではレイド君、お願いします!」
そして私はレイド君が乗るワイバーンに、
一緒に乗せてもらう事になった。
「しっかし、脱出したところでどこへ
行くつもりッスかねえ?」
「まあまだ子供ですし……
近くの村か町にたどり着けば、何とかなると
思っているのかも」
それとも、ただ単に反発からか―――
上空から見回りながら捜索を続ける。
「つーかユラン国じゃ、外は危険だって事、
教えないんスかね?」
「どうですかね。
王族ですし、普通の子供よりは危険から
遠ざけられているかと」
飛行し続けながらそんなやり取りをしていると、
「! 反応感知!
でも何だコレ?
大きいのと小さいのが高速で移動中ッス」
大きいのと小さいの?
え? まさかそれって……
「ヤバい!
これ追いかけられている反応ッス!!」
「まったくもう……!
レイド君、その大きい反応と小さい反応の
間に、私を降ろしてください!」
私の指示に、ワイバーンは急いで降下を始めた。
「チクショウ!
何だよあのデカい魔物は!?
聞いてねーぞ!!
せっかく抜け出す事が出来たってのによ!」
その頃、ダナン王子は巨大な魔物―――
ジャイアント・ボーアに追われ逃げ続けていた。
子供ゆえか逃げ足はそれほどでは無いが、
小回りが利くので何とか追い付かれずに済んで
いたが、
「あー、クソッ!
公都から離れない方が良かったか。
少し困らせてやろうと思っただけなのに……」
体が小さい子供だけに小回りは利くが、
体力が無い事を彼は自覚しておらず、
すでにヘトヘトになりかけていた。
「プギイィイッ!!」
そうしている間にも、まるでダンプカーのような
巨体が木々を倒しながら、ダナン王子へと
突っ込んで来て―――
「チ、チクショウ!!
何でだよ!
何で俺がこんな目に……っ!!」
さすがに命の危険を感じ、その恐怖に涙目に
なっていると、
「……プギィイィッ!?」
と、目前まで来ていたジャイアント・ボーアが
座るように倒れ込んで、
しばらくもがいていたが、やがて生命活動を
完全に停止。
その光景に彼がポカンとしていると、
「間に合った……
ダナン王子様、ケガはありませんでしたか?」
聞き覚えのある声が―――
少年の耳に届いた。