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誘拐事件発生から6日後の早朝、行方不明になっていたドクターが発見され、ドクターの誘拐並びに殺人未遂とフランクフルトでの元刑事の殺害犯は全員死亡した事を警察が発表したのは、現場検証や死亡していた犯人たちを現場の家から運び出し、数人の制服警官にマスコミや近所の人達に勝手に現場を荒らされないように見張りを命じて撤収した後だった。
毎朝の日課として新聞をチェックしていたレオポルドは、今朝も家人が用意した新聞を逐一チェックをしていたが、今朝ウーヴェが救出された事実をまだ知る事が出来ずにいて、ここ数日心配のあまり塞ぎがちになっている妻の溜息を聞き、同じように溜息をついてしまう。
だがそんな二人に今リオンが必死に頑張っているのだから信じて待ちましょうと、努めて気丈に振る舞う娘の言葉に父も母も頷いて同意をしていたが、それでも心配は心配だと母が呟いたため娘も同じ気持ちだと伝える代わりに今もまだ早朝にもかかわらずに起きて末息子の身を案じている二人の前のソファに腰を下ろし、信じて待ちましょうと母の手を取って撫でる。
その時、父の携帯が着信を知らせた為、こんな早朝に誰だと三人が顔を見合わせるが、ほぼ同時に同じ考えを思い浮かべたのかレオポルドが慌てて携帯を耳に宛がう。
「リオンか!? ウーヴェが見つかったのか!?」
おはようの挨拶よりも先に出た言葉がウーヴェを気遣うものだったのは当然で、電話の相手がリオンでウーヴェを救出し今病院に搬送した所だと教えられて無意識に安堵の溜息を零す。
「見つかったか……!」
レオポルドの言葉にイングリッドとアリーセ・エリザベスが顔を見合わせると同時に互いに手を伸ばし合って聞かされた言葉に祈るようにレオポルドの顔を見つめる。
「……何だと?」
「レオ……?」
ウーヴェが無事に発見された言葉をリオンから聞かされたレオポルドだったが、次いで聞かされた言葉に言葉を失いソファに力なく座ってしまい、誰か病院に来て欲しいとリオンに頼まれてもすぐさま返事は出来ない程だった。
「父さん?」
アリーセ・エリザベスの声に我に返ったレオポルドは電話の向こうのリオンも訝るような声で呼びかけている事に気付き、短く詫びた後に病院の名前を聞こうとするが気が動転している今聞いても覚えていられない可能性があるからと家人を呼んでメモを取らせる。
リオンが告げたのはウーヴェのクリニックで事務をしている女性が入院している病院で、そこではウーヴェの大学時代の友人が医師として勤務している事、その友人、カスパルが今執刀の準備をしている事だったが、家人にメモを取らせたレオポルドは手術をしているのかとイングリッドに問われて何度も頷き、とにかく準備ができ次第病院に向かうがお前はどこにいると問いかけ、誰かが来るまでは病院にいるが少しやり残していることがあるのでそれを終わらせたいと言われて頷く。
「分かった。なるべく早く向かおう」
『頼む、親父』
リオンの珍しく憔悴しきっている声にレオポルドが心配そうに名を呼ぶが気丈な笑い声が小さく響いた後、あんたの息子を守れなかったと言う歯軋りの奥から響く悔恨の言葉にレオポルドが拳を握る。
「馬鹿なことを言うな、リオン。詳しい話は後でする。とにかく病院に行くから待っていろ」
『Ja.』
通話を終えた携帯をテーブルに投げ出し家人が書いたメモを読んだレオポルドは、イングリッドとアリーセ・エリザベスが不安の極地にいるような顔で見つめてきた為、盛大な溜息を吐いて口ひげを指で撫で付ける。
それは酷く興奮している時や狼狽している時に父が見せる癖だとアリーセ・エリザベスは気付いていて、どうしたのと重ねて問いかけて父の横に座り直すと無意識に肩を抱かれてこめかみに口を寄せられる。
「父さん?」
「……さっき病院にウーヴェが搬送されたそうだ」
「良かった……・・!」
「ただ、背中と腰に酷い傷があってその傷の経過次第では皮膚の移植をした方が良いかも知れないとのことだ」
レオポルドの言葉にイングリッドの顔にようやく明るい表情が浮かぶが、次いで聞かされた言葉に一瞬で青ざめてしまう。
だがそれも次にレオポルドが震える声で告げた言葉に比べれば衝撃は小さなもので、杖が必要になると聞かされて意味が分からないと首を振ったイングリッドがアリーセ・エリザベスとは逆の場所に腰を下ろし、レオポルドの腿に手を置いて苦悩する夫の横顔を見つめる。
「レオ、教えてちょうだい」
どんなことでも聞くから教えて欲しいと長年夫婦として連れ添ってきている事からかなり良くないことがウーヴェに起きたと想像したイングリッドは、左足の踝から先が最も酷い傷を負っていて機能の回復は見込めないこと、ウーヴェ次第ではあるが杖になるか車いすの生活になるとリオンが教えてくれたとイングリッドの肩を抱いて悲嘆の声で告げたレオポルドの左右から息を飲む音が聞こえ、次いでイングリッドが両手で顔を覆い隠してしまう。
「ウーヴェ……!!」
誘拐されてから6日の間、起きている時はもちろん夢の中でも声を涸らして探し続けていたウーヴェが救出された事は嬉しかったが、誘拐されている間に何をされたのかの一端を知らされたレオポルド達は、事件は解決に向かっているが被害者であるウーヴェが事件に向かい合い立ち直るための長い長い時間がこれから始まるのだと、二十数年前のあの事件の後にも感じた絶望感を再び味わってしまい三人とも言葉を失ってしまう。
そんな重苦しい沈黙が広いリビングに充満した時、ドアが開いてギュンター・ノルベルトが出勤の支度をしつつ姿を見せる。
ウーヴェが誘拐されてから誰よりも心配していたのはギュンター・ノルベルトで、自宅ではなくこちらの方が情報が入りやすいとの判断で父の家で寝泊まりしていたのだ。
「おはよう。……父さん?」
三人の様子がおかしいことに首を傾げ何があったと傍に控えていた家人に問うと、ウーヴェ様が救出されて今その病院で手術を受けていると教えられ三人の傍に駆け寄る。
「手術? どういうことだ?」
「……ノル、これから病院に行くから一緒に行きましょう」
その時に私から話をするとアリーセ・エリザベスが涙を拭いながら兄に告げるとそれは俺の役目だと父が溜息をつくが、とにかく今すぐ病院に向かう、お前も用意しろと息子に告げた父は、意味が分からないと顔を顰めるギュンター・ノルベルトの肩を一つ叩き詳しい話は車の中でする、とにかく行くぞとだけ告げ、誰の反論も許さない態度で廊下に出ると、最も信頼しているブルーノの名を呼びつつ病院に行くこと、来客があっても追い返せと他の家人にも命じ、悲嘆しているヒマはないと己に言い聞かせるように大股に書斎に向かう。
本棚やデスクに飾った昔から今までの中で、つい先日ウーヴェが穏やかな顔でリオンと一緒に並んで笑っている写真が撮れたとベルトランから教えられて写真としてプリントアウトしてくれたものを手に取ると胸に宛がって大丈夫だと繰り返す。
レオポルドのそんな姿はイングリッド以外に見た者はおらず、今もまたそっとイングリッドがドアを開けて入って来たため、写真の代わりに妻をきつく抱きしめる。
「レオ、大丈夫よ。あの子は、ウーヴェは大丈夫よ」
だから今ここで心配して苛々しているのではなく病院に行って詳しい話を聞きましょうと夫の広い背中を撫でた妻は、その通りだなと前向きな返事をくれる夫に胸を撫で下ろし、車の用意が出来たこと、ギュンター・ノルベルトもアリーセ・エリザベスも待っていることを教えられてもう一度妻の背中を抱いたレオポルドは、行くかと顔を上げた時には危機に立ち向かう逞しい男の顔になっていて、イングリッドもそれに安心して頷きそっと夫の腕に手を回すのだった。
ブルーノとエーリヒが運転する車で病院に駆けつけたレオポルドら一家は、国内でも有数の大企業の会長と社長が血相を変えてやってきた事に何事かと訝る通院患者や関係者らを一切無視し、救急外来専門の待合室へと向かうと、そこで長い足を投げ出してぼうっと天井を見上げているリオンを発見する。
「リオン!」
レオポルドの声にリオンの身体が浮くほど驚いた様で、音がしそうなほどゆっくりと首を巡らせて待合室のドアの前で仁王立ちになるレオポルドに気付くと一瞬泣きそうな顔になるが己の頬を両手で叩いて気分を切り替えたのか、レオポルドの後ろで不安そうに見つめているイングリッド、アリーセ・エリザベス、そしてギュンター・ノルベルトの顔を順番に見つめ、ウーヴェをついさっき救出したが今足の手術を受けていますと告げると、待合室のベンチに皆を案内し自分はその前に立って腰の上で手を組む。
「左足が動かなくなると聞いたがどういうことだ?」
「……オーヴェの大学の友人で今執刀しているカールが診た感じでは何か金属製の工具で複数回殴られたようで、左足薬指を中心にした粉砕骨折と、踝上をナイフで深く切られた事によるアキレス腱断裂でリハビリをしても機能の回復は見込めないそうです」
「複数回殴られた……!?」
「Ja.……アリーセは知ってると思うけど、オーヴェの左足薬指には俺が買ったリザードのトゥリングがあった」
それを事情は分からないが犯人が壊すか取り上げようとしたためにウーヴェが抵抗をしたのだろう、それによって取り上げるのではなく足ごと壊されたのだと腰の上で爪が掌に食い込むほど手を握りしめたリオンは淡々と事件の報告だけをするが、何故それが分かるとギュンター・ノルベルトに問われて伏し目がちになる。
「あのリングは俺と一緒に買いに行ってからずっと外さずにいた」
シルバーだから本当は外した方が良いのに、シャワーの時ですら絶対に外さないと告げたウーヴェが笑った顔が脳裏に浮かび、限界まで手を握りしめる。
「……あと、お前が言っていた検査とは何だ?」
「……アリーセとムッティがいるから詳しくは言いたくねぇけど……血液検査だ」
「それは分かる。何のためだと……」
「ギュンター、それ以上言うな」
ギュンター・ノルベルトが総てを話せとリオンに詰め寄るのを溜息一つと低い声で押しとどめたレオポルドは、それが何を意味するかが分からないわけじゃないだろうと息子を見つめ、見られた方も理解したのか蒼白になってベンチの背もたれにもたれ掛かる。
「……後は背中と腰の傷だ」
「ああ、それはさっきお前が言っていたな」
「Ja.背中はナイフもだけど鞭による殴打痕が酷くて、右腰の広範囲にナイフの傷跡がある」
「それは?」
「……さっきの検査に関わってくる事、だ」
それ以上は出来れば言いたくないと断り察してくれとギュンター・ノルベルトを見つめたリオンは、やるせない溜息を吐いて頷く彼に胸を撫で下ろし、大きな外傷はそれだけだが外傷よりももっと心配なことがあると重苦しく伝えると、二十数年前の事件を思い出しているような顔でイングリッドやアリーセ・エリザベスが顔を見合わせる。
「……実は一昨日、オーヴェとビデオ通話をすることが出来た」
「なんだと……!?」
その事実を何故被害者の家族に報告しないとギュンター・ノルベルトが声を荒げた時、限界に達していたリオンが握りしめた拳を額に宛がい、オーヴェがレイプされている動画などあんたらに見せられる筈がないだろうと小さく叫び、家族だからこそ見せられないものもあるとも叫ぶと、ギュンター・ノルベルトがリオンが隠し通そうとしていた事実を己の手で暴露させてしまった事に気付き、口元を手で覆ってベンチに力なく座り込む。
「ボスや同僚達に見せたのは居場所を特定する必要があったからなんだよ! そうでもなかったらあんな姿……あんな動画、誰にも見せる訳がねぇ!」
待合室中に響く声にギュンター・ノルベルトは最早何も言わず、更に重苦しい沈黙が室内に降り注いだ時、レオポルドが溜息交じりにリオンを呼ぶ。
「リオン、……良くそれを見届けてくれたな。お前も、いや、お前が一番辛かっただろう。良く堪えてくれた」
数日前のリオンの焦りや苛立ち、不安の総てを見抜いているようなレオポルドの言葉にリオンがグッと唇を噛み締めるが、言い過ぎましたと反省の言葉を伝え、イングリッドが小さく首を振って否定する。
「あなたはあなたの出来る事をやっているだけ。でも、ギュンターが心配していることも分かってあげて」
「うん……分かってる、ムッティ。……兄貴、言い過ぎた」
「いや……俺も言い過ぎた」
互いに思うのはウーヴェの無事だったはずだがここで口論をしても仕方が無いと気付いたのか、ギュンター・ノルベルトが顔を上げて悪かったと言葉ではなく差しだした手でリオンに伝えると、同じくその手を握り返すことで謝罪を受けてくれる。
「そのビデオ通話で分かった事だけど、腰の傷は……その、カウントするために切りつけられたものだった」
「……!!」
「オーヴェが監禁されていたのは地下室のケージの中。大型動物を飼育する時に使うようなケージだった」
救出のために突入した家の様子をぽつりぽつりと伝えるとギュンター・ノルベルトがそっと立ち上がってリオンの肩を抱いてベンチに座らせ、無言でくすんだ金髪に手を載せる。
その仕草、温もりがさすがは兄弟だというようにウーヴェとそっくりで、込み上げるものを堪えながら、首輪と手首の拘束を常にされていたからあの事件の時のように痣になるかも知れない、そうなってしまえばまた壁をつくって閉じこもってしまうのが怖いからそのビデオ通話を全部見ていた事を伝えたと、口を閉ざすだけではなく心まで閉ざされる事への恐怖の方がレイプされているのを見る腹立たしさよりも大きかったと素直に告白し、自分も知っているのだから誰にも秘密にはならない、だから以前のように自分の中に閉じ込めたりはしないだろうとこの時になってようやく小さな笑みをリオンが浮かべると、ギュンター・ノルベルトの大きな手がくしゃくしゃと髪をかき乱す。
その手の温もりに首を傾げて逃げるように頭を振るが、それでもウーヴェにそっくりな温もりを持つ大きな手がきっと幼い頃いつもこうして撫でていたのだろうと簡単に想像させる優しさで撫でてくれ、リオンの中で張り詰めていた何かがぷつりと切れてしまう。
「オーヴェ、オーヴェ……っ!!」
湿った息を吐きウーヴェの名を繰り返し繰り返し呼ぶリオンに誰も何も言えず、ギュンター・ノルベルトだけがリオンの頭を撫で続ける。
お前のせいだと何故責めたりしないのかとの思いが再び芽生え、どうしてそんなに優しいんだと呟くとギュンター・ノルベルトがやや躊躇った後に苦笑し、あの子が愛して信頼している男をどうして責められるんだとアリーセ・エリザベスが告げたこととまったく同じ言葉を告げ、拳を握ってきつく目を閉じるが堪えていたものを吐き出した事で少しだけすっきりしたのか、腕でぐいと顔を拭った後、トイレに行ってくると言い残してリオンが待合室を飛び出してしまう。
その様子に呆気に取られていた四人だったが、言い過ぎだとアリーセ・エリザベスが兄に詰め寄り、分かっているからもう言わないでくれと兄がげっそりした顔で今度は妹を宥めに掛かる。
少しして戻って来たリオンの顔は羞恥に赤く染まっていたが、ウーヴェの手術が終わるまでまだ時間があること、その間に犯人の検死に立ち会うことを告げ、返事を聞くよりも先に待合室を再度飛び出して行ってしまう。
「……ここで待っていろと言う事か」
「そう、だな」
リオンが出て行ってしまった今ここで待っているしかないと苦笑するレオポルドにギュンター・ノルベルトも似たような顔で頷くが、静かにドアが開いたかと思うと現場からこちらに駆けつけたコニーが目礼しつつ入って来る。
「コニーと言ったな。リオンなら今飛び出して行ったぞ」
「Ja.解剖が行われる病院で警部が呼んでいるので俺が代わりに来ました」
リオンの同僚でカークランドと言いますと自己紹介をした彼は皆の視線が集中することに気付いて先程のリオンのようにベンチの前に立ち、今回の事件について現時点で分かっている事を報告しますと告げると、夕刊で詳細が報道されるでしょうが、今回のドクの誘拐事件とフラウ・オルガの殺人未遂事件は元刑事で私たちの同僚でもあったジルベルトとその幼馴染みで人身売買組織のトップに立つルクレツィオの二名が中心になって起こした事件で、誘拐事件発生前にフランクフルトで元刑事であり組織の一員でもあったロスラーの殺害事件もこの二名が起こしたものだと告げると皆の顔にやるせない表情が浮かぶ。
「リオンが言っていたが、ウーヴェは、その……」
「Ja.ドクの監禁についてはフィレンツェから連れてきた部下二名と旧知の仲だった男も共犯です」
「その男は?」
「デザイナーズドラッグを大量に投与された為、意思の疎通が出来ません」
「つまりはドラッグによる口封じか」
「Ja.……リオンがジルベルトに、その男に事件について証言させる必要があるから殺すなと言ったので殺さなかったようです」
ただ話をされると困るので意思疎通できないように薬を過剰投与したようですとコニーが溜息をついて答えると、レオポルド達の口からも溜息が零れる。
「マスコミには人命が掛かっている事を伝えておいたが、またぞろ過去の事件も掘り起こされかねないな」
「そうですね」
「新聞社の友人に念のために声を掛けておこう。もう事件は終わった、今回の事で誰も得をする者などいないと伝えておく」
レオポルドの言葉にコニーが不本意そうに頷くとギュンター・ノルベルトが己の携帯を取りだしながら、友人である新聞社や出版社のオーナーらにマスコミの報道が過熱しないよう-どころか被害者の名前を新聞やニュースで流すことすらさせないように頼んでおいたという事実を伝え、取りだした携帯で最も信頼する秘書に電話を掛ける。
「ああ、ヘクターか? 新聞社のゲープに連絡を取ってくれ。ああ、この間と同じ事だがもう一度俺から直接話をしておこうと思ってな」
『了解しました。すぐに連絡を取ります』
「ああ、頼む。今病院にいる。当分の間俺と会長の予定は総てキャンセルをしてくれ。重要な会議は副社長に出席してもらう」
『分かりました』
ウーヴェが救出されて手術している時に仕事の話などしていられないと本音を隠さないでヘクターに告げたギュンター・ノルベルトは、コニーが驚いた様に見つめている事に気付き肩を竦めて大切な弟なのだと告げると、理解しているように頷かれる。
「まだドクの手術は終わらないようなので、私は少し事務連絡をしてきます」
「ああ。俺たちはここにいるから何かあればここに来てくれ」
「了解しました」
コニーがでていくのを見送り家族だけになった瞬間、アリーセ・エリザベスがギュンター・ノルベルトの肩に寄りかかるように身を寄せるが、程なくして顔を伏せてシャツを握りしめる。
「フェル……!!」
どうしてフェルがそんな目に遭わなければならないの、リオンと一緒に幸せになろうとしているだけじゃないと感情に震える声で誰にともなく問いかけると、幸せになる為の試練かなとギュンター・ノルベルトがいつもの敏腕社長の顔など見る影もない、落ち込んで不安そうな目で呟く。
「……ウーヴェもだがリオンも辛いな」
最も辛い動画から目を逸らさなかった事は称賛に値するが、本心はかなり荒れていたのではないかとリオンの心裡を思ってレオポルドが重い溜息を吐くとイングリッドがそっと身を寄せる。
「あの二人なら……きっと乗り越えるわ」
「そう、だな。ああ、きっとそうだ」
妻の言葉に頷いた夫はその細い肩を抱きしめて髪にキスをし、早く手術が終わりウーヴェと対面できるようにと祈るが、壁の時計はいつも以上に遅く進んでいるような気がしてしまう。
「……無事に手術が終わってくれ」
レオポルドの呟きに妻や娘や息子がほぼ同時に頷き、ウーヴェの手術が終わったと言う報告を今か今かと待つことしか出来ないのだった。