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第8話
nmmn
rtkg
学パロ
付き合っている設定
第7話の続き
体育祭が終わり、校内の空気は次の行事――文化祭の準備で浮き立っていた。男子校特有の熱気が教室を覆い、誰もが声を張り上げて作業に没頭している。
リトとカゲツのクラスは「喫茶店」をやることになっていた。飾り付けや衣装作りの段取りを進める中で、自然と二人は一緒に動くことが多くなる。理由は単純だ。誰もが面倒がって避ける細かい作業を、リトが苦にせず引き受け、そしてそれを黙々と仕上げるカゲツの真面目さが噛み合っていたからだ。
だが、周囲の視線は以前よりも鋭かった。
「体育祭のときもやけに仲良かったよな」
「いや、あれもう完全にそういう……」
小声のつもりでも、教室の中では響いてしまう。男子たちの囁きや笑い声が、カゲツの背中をこわばらせた。
文化祭本番の日。
廊下には一般客を迎えるためのざわめきが溢れていた。保護者や近隣の人々も訪れ、男子校とはいえ賑わいは華やかだ。
リトは忙しそうにドリンクを運びながらも、カゲツの姿を探す。カウンターの奥で、制服姿にエプロンをかけたカゲツが真剣な表情で作業している。その姿が、周囲の注目をさらに集めてしまうのは明らかだった。
「なあ、あいつら本当に付き合ってんじゃね?」
「今日とか、めっちゃ目合ってんの見たんだけど」
同級生が笑い混じりに囁く。
リトはそれを耳にしても、むしろ胸の奥で熱いものがふつふつと湧き上がるのを感じた。――バレてもいい。そんな気持ちが頭をもたげていた。
しかし、カゲツの方は違った。
休憩時間、裏手の教室に二人で入ると、カゲツは深いため息をついた。
「……やっぱり、こうなるんやな」
「何が?」リトはわざと軽く聞き返す。
「噂。目線。……リトと一緒にいるのが、一番楽しいのに。周りから見られて、勘ぐられて、……ぼく、ちょっとこわい」
カゲツの声は震えていた。
リトは一歩近づく。
「俺は、もう隠すのやめたい」
「いやや。そんなの、知られたら……」
「それでも。カゲツを手放すなんて、俺には絶対できない」
静かな教室に、リトの真剣な声だけが落ちる。
カゲツは俯き、拳を握りしめていたが、やがて小さく首を横に振った。
「……ほんと、リトってずるい。そういうふうに言われたら、拒めない」
リトはその言葉を待っていたかのように、強くカゲツを抱き寄せる。
窓の外からは文化祭の喧騒が響き続けていたが、この教室だけが別世界のように静まり返っていた。
「怖いのはわかる。でも俺だけを見ててくれればいい。周りなんて関係ない」
「そんなこと、簡単に言うな…」
そう口では返しながらも、カゲツはリトの胸元に顔を埋める。耳まで赤く染めながら。
長い沈黙。だがそれは不安ではなく、互いを確かめ合う温度で満たされていた。
やがてリトは耳元でささやく。
「今は俺だけに見せて。お前の全部」
カゲツは震えるように息を吐き、かすかにうなずいた。
外の喧噪と対照的に、二人だけの時間は甘く、深く、静かに流れていった。