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「嫌いになれない〜不器用な恋〜」
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静寂に包まれている長い廊下。そこにコツコツと急いで歩く足音が響いた。その音を鳴らしていたのは炎の神覚者、カルドだった。
彼がなぜ急いでいるのか理由をいうと、同僚であるオーターとの昼食の約束の時刻を、少し過ぎてしまっているからだ。
(はぁ、あの女のせいで10分も遅れてしまった。オーター、呆れてないだろうか)
オーターが呆れていないかと思い、焦りを波立たせる。少しでも早くオーターの執務室にたどり着くために、更に早足になった。
オーターの執務室の前にまで来ると足を止め、「ふぅ」と一息ついた。そして「オーター・マドル」と、名が記載された木製の扉を軽くコンコン、とノックする。
「オーター、遅れてすまない。入ってもいいかな?」
ノックをし、問いかけた。だが、暫く待っても返答はなかった。遅れたことを不満に思っているのだろうか。カルドは再度扉をノックした。
「オーター?」
『……入ってこないでください』
少し間を空けて返事が来た。その返事にカルドは違和感を覚えた。普段から発言しそうな言動だが、今日はいつもと様子が違う。
こういう時。普段であれば、もっとうんざりしているような。少し威圧感があるような声を掛けるはずだ。だが今日はどうだろうか。”入ってくるな”と、扉の向こう側から聞こえて来た声はいつもより弱々しいような、そんな声色だ。
体調が悪いのか。はたまたオーターの身に何かあったのか、不安になった。結果的に考えられるのは、オーターをこのまま放っておく訳にはいかないということ。
そう判断したカルドは、入るなと言われているのにも関わらず、了承を得ずに扉を開いた。
「…ごめん、入るよ?」
「?! だから入ってくるなと…!」
室内に踏み入った瞬間、オーターの姿が視界に映るとほぼ同時に、その顔を見て息を呑んだ。
目元は赤く腫れ、泣いた跡があった。頬にはまだ涙も残っていた。髪も乱れ、オーターは暗い顔を見せた。まさにひどい有様だった。
「オーター…? 一体何があったんだ?」
カルドは不安そうな面持ちで見つめ、オーターに問いかけた。
しかし、オーターは心配するカルドが目に入っても、頭の中に湧いてくるのは怒りの感情だった。苛立ちが芽生えるも当然だろう。だが、その怒りは悔しさと嫉妬によるものだった。散々自分に贈り物をくれてやったのに、あんな光景を目撃しまったのだから。
「何があったかが分からないのか?
お前は…、お前は裏切ったんだろう?! あんなにも親しそうに女性と話していたじゃないか…! 今更そんな声を掛けないでくれ!」
オーターは苦しさが滲みでた表情をしながら、声を荒げる。
自分がどれだけ苦痛を味わったのか解っているのか。どれだけ自分を悲哀にさせたか解っているのか。
「ッ…はぁっ、はぁ、…!」
親しそうに話していた…?もしかして、さっきのやり取りを見ていたのか!
しかし、それは相手に諦めてもらうために取った行動であり、彼女には1ミリたりとも情など抱いていなかった。それでも、側から見ればそれは恋人同士が行うような振る舞いにしか見えないだろう。
「オーター、それは誤解だ。あれだけ君に伝えたじゃないか。今更裏切るなんてことするわけがない」
「僕が好きなのはオーター、君だけだ」
「っ……! そんな言葉、嘘に決まって…っ」
と、言葉を遮るようにカルドがオーターギュッと抱きついた。
突然の出来事で動揺したのか、理解が追いつかなかったのか、オーターは抱きつかれたまま固まってしまう。それでも、カルドから離れなければいけないと衝動的に感じたオーターは、彼を押し退けようとする。でも、何故か体が動かなくて。それどころか、なぜか安堵している自分がいた。
「オーター、一度落ち着いて話を聞いてほしい。お願いだ」
それを聞いてオーターはハッとした。
勝手にカルドが裏切ったと決めつけ、事の詳細も聞かずに何をしているんだ。
そう思ったオーターは、いつもの冷静さを少しずつ取り戻した。
「ぁ、ごめんなさい…。私…っ」
「大丈夫。座って話そう」
「すみません、混乱…してしまって」
2人は室内に配置されたソファに座った。
そして、今までの経由をゆっくり、お互いに話を聞きあった。
…
…
「そう、だったんですね…。勝手に勘違いしてしまい、本当にすみません」
最初から冷静になって話を聞くべきだったのに何をしていたのか。オーターは先程の行いを反省し、後悔した。
「いや、先に勘違いさせるような事をした僕に責任があるよ。こちらこそすまない」
「今まで恋愛とか、そういう経験が無かったので、その分勘違いしやすいのかもしれないです…」
今まで恋愛などというものに一度も触れたことがないオーター。
恋愛小説などを読んでも、自身が体験したり、興味を示した試しがないため、理解することなどほぼ不可能だった。
頭を少し下に俯かせながら辿々しく答えるオーターに、カルドは優しく微笑みかける。
「ふふっ、構わないよ。そんなオーターも可愛らしいと思うよ」
そう言葉をかけながらカルドはオーターの頬に手を伸ばした。カルドの手の熱が少し冷たく感じたのは、自身の顔が熱くなっているからなのかは分からなかったが、今はこの手に少しでも長く触れていたかった。
「可愛いとか、言わないでください…」
照れているオーターを見てカルドは悪戯っぽく笑い、心の中でまた可愛らしいなと呟く。
「そうだ。さっきあんなに怒ってたってことはさ、やっぱり僕のこと好きなんじゃない?」
カルドがまたいたずらっ子のように言うと、オーターはフッと頬を赤らめた。何と返していいか分からず、言葉を探しているうちにカルドが口を開く。
「オーター。あの時の告白、ここでもう一度やり直してもいいかな。」
「ぁ、…はぃ…」
「君のことが好きだ。僕と付き合ってくれますか?」
そう台詞をかけられたオーターは大きな幸せを感じていた。鼓動が大きく揺れ、顔が熱を更に帯びていくのがわかる。
「ええ、もちろん…!」
END
コメント
4件
匿名Rhさん、おかえりなさい。続き待ってました!誤解が解けてオーターとカルドの2人が無事に結ばれて良かったです😂あと、前より更に小説書くの上手くなってますね。面白かったです、また最初から読もうと思います。素敵なお話をありがとうございました😊