冬が明け、春の陽気がようやく本格的に訪れたある日、校門の近くに植えられた桜の並木が満開を迎え、Hoolaはふわっと頬を染めながらスマホを構えた。
「へっへーん!めっちゃ映えじゃんコレ〜〜〜!」
校門の下、春風に舞う花びらの中でHyeheheがぶっきらぼうに立っている。それをHoolaがパシャリ。いたずらっ子の笑顔で撮った1枚は、どこか照れたようなHyeheheの表情をとらえていた。
「うわ、おま……勝手に撮んなよ」
「えー?だってさ、今日のhyehehe、なんかいつもよりカッコよかったんだもん♪」
「は、はあ?……ま、まあ、おまえも……悪くねぇけど」
「えっ、なに今の聞き返していい?もう一回言って??」
「言わねぇし!」
笑い合いながら、ふたりは川沿いの公園に歩いていく。屋台がちらほら並び、子どもたちが走り回る中、ふたりは芝生にレジャーシートを敷いて、お花見のスタートだ。
「なーなー、hyehehe~、桜の花びらって、落ちてるの拾ってもキレイなまま残せるらしいよ!」
「へぇ。おまえ、そういうの詳しいな」
「実はね〜、昨日Tootooに聞いたんだ〜!押し花にすると、桜ってけっこう良い感じになるんだって!」
Hoolaはニコニコと笑いながら、そっと花びらを摘む。それをノートにそっと挟むと、Hyeheheも少し不器用そうに、1枚だけ花びらを取ってHoolaに差し出した。
「おまえの押し花、これに足しとけよ」
「え、くれるの?hyeheheが選んだやつ?」
「べ、別に特別な意味とかねぇし!余ったから!っていうか落ちたやつだし!」
「ふふ、ありがと〜♡ じゃあ、これは『hyehehe印』ってことで、桜の中でもレアなやつだね!」
Hyeheheはあからさまにそっぽを向いて鼻を鳴らしたが、その耳はほんのり赤かった。
午後になって、ふたりはおそろいの春色マシュマロを食べながら、ゆったりとした時間を過ごす。ポカポカの陽気に誘われて、Hoolaは小さくあくびをし、Hyeheheの肩にもたれた。
「ねぇ、hyehehe。春って、あったかくて、ぼーっとして、気が緩むっていうかさ……」
「……だから何だよ」
「……油断しちゃって、好きって言いそうになっちゃうじゃん」
「……言ってもいいけど?」
「うわ~~!言わせる気!?悪いやつ〜〜〜〜〜!!」
「言えよ」
「うるさ〜いっ!!」
そうやってふざけながらも、ふたりの距離はほんの少しずつ近づいていった。
⸻
その夜、ふたりの部屋で
「ねぇ〜hyehehe〜〜〜〜〜〜!!このステージ絶対ムリ!!助けてぇ〜!!」
「だから言っただろ、タイミングゲーはリズムで覚えろって」
Hoolaの家でおうちデート。ココアの湯気がぽわぽわと上がる中、ふたりは並んでゲームをしていた。
「てかさ、このレベル作ったやつ性格悪くない!?hyeheheじゃん!」
「は?おれのせい!?」
「ちがうちがう、つまり似た者同士ってこと!」
「おい、それ褒めてねぇだろ」
笑いながら肩を寄せ合ってゲームを進め、ココアを一口飲む。甘くて、あったかくて、ふたりの空気がほぐれていく。
「……今日はありがと、hyehehe」
「……別に、また来てもいいけど」
「うん、じゃあ次は……桜の押し花、完成したら一緒に見よ?」
「……ああ」
夜の窓の外には、花吹雪が静かに舞っていた。
⸻