朝からスポーツ交流会が行われている。
クラスの交流を深める目的で、誰でも参加出来るような簡単な種目から、得意な人のみ参加する競技もある。
ミラは、玉入れや全員リレーなど、みんなで行うものに参加していた。
綱引きに参加していた時である。息を合わせて綱を引っ張った時、前の人とぶつかり弾かれてしまった。その瞬間強めに足を挫いたらしく、あまりの痛さにすぐに立てず、這って競技から外れる。
(いったーい!!)
すぐに結城が駆け寄って声を掛ける。
「ミラちゃん、大丈夫か?」
「大丈夫ですけど…すぐには立てなさそうです。」
苦笑いしながら答える。
「冷やした方がいいから、保健室行こう。」
すると滝川が近づいてくる。
「俺が職員室連れてきますよ。」
そう言って抱き上げられる。まさかのお姫様抱っこで。
「ひゃ!恥ずかしい、重いし下ろして!」
「大丈夫、俺野球部で鍛えてるから!!」
「野球部なんだ!確かに良い胸板だ!」
ミラは滝川の胸部をペタペタと触る。
「しっかり掴まっててよ。」
と笑い、ミラを抱えながらスタスタ歩いて行った。
その様子を一年の全クラスと教員一同が見ていたことには、気づかなかった。
***
保健室前の札には、「職員室に居ます。」と書かれていた。
「床に置いて!待ってるから、呼んできてもらってもいい?」
「女の子を床に置ける訳ないでしょ!このまま行くよ。」
でも、とミラが言いかけたが、そのまま職員室に行く。両手が塞がっている為、ミラがノックし扉を開ける。滝川は大きな声を出す。
「保健の先生いるー?」
「お!滝川!女の子抱えてどうした?」
「足を挫きまして…。」
ミラの話を聞きながら保健室に戻る。滝川はミラをベッドに降ろすと、戻って行った。
「君は外部生だね。初めまして。擁護教諭の白井です。」
応急処置をしてもらいながら、お互い軽く自己紹介をする。
「病院に行った方がいいから、家の人に電話をしてくるね。迎えが来るまで寝て待ってて。」
「先生、そこまでじゃありません。しばらく休ませてもらえれば、一人で帰れます!」
(ウチの人達に来られるのはあんまりだし。どうしよう。ケイゴを頼る訳にもいかないし…。)
コンコンコン
ノックしながら誰かが入ってくる。
(ケイゴ!!)
「白井先生、華峯さんのご家族には、僕の方から連絡しました。」
「そうなんですね!ありがとうございます。」
「すぐに来られるみたいなので、僕が対応しておきます。」
満面の笑みである。
「そうですか?ではお願いします。」
白井が去ったのを確認するや否や、ケイゴがカツカツと歩いて来た。顔が近い。まるで息がかりそうな距離だ。
「ねーお嬢、貴方は何をやっているんですかねぇ。」
「コケちゃった!あははー。」
「それはお嬢の運動神経を考えたら想定の範囲内です。問題はその後。」
「その後?あー。そうだよね、捻挫くらいで保健室なんて、白井先生に申し訳なかったよね。」
ケイゴはグッと患肢を掴む。突然の痛みに、顔をしかめる。声が出ない。
「こんなに痛いくせに、保健室以外何処に行くんですか。違います。俺が言ってるのは…。」
今度は耳元でいつもより低い声で言った。しかも睨みながら。
「他の男に抱かれたな。」
「言い方!違うでしょ。ただ運搬されただけだよ。」
「姫抱きで?」
声が更に低くなり、怒気を孕んでいる。
「有り体に言えばー、まぁそうですねぇ。」
目が泳ぐミラ。
「しかも、体を堪能したとか。」
「堪能?何のこと?」
「…胸部を触っていたと聞きました。貴方は男性の胸部を触る趣味がお有りなんですか。」
「凄く鍛えてるって言うからつい…。」
笑って誤魔化そうとするミラ。
「俺というものがありながら、見境無くその辺の男の胸部を触るようなエッチな貴方には、お仕置きが必要だ。早く帰りますよ。」
ケイゴはミラに布を掛けて、お姫様抱っこで自分の車まで運んだ。
リアシートにそっと下ろすと、そのまま車を走らせた。
リアシートから運転中のケイゴを見る。鏡越しに一瞬ケイゴと目が合う。
「もしかして、車の中で何かされるかもって思いました?期待させて悪いんですけど、早く病院に連れて行かないと俺が怒られますから、お仕置きは後のお楽しみです。」
そう言って妖艶に微笑む。
(また揶揄われた…!)
***
診察の結果は何も無かった。しかし安静が必要とのことで、残り二日のオリエンテーションは欠席することになった。
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