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睡蓮
2,032
#Dandy'sWorld
紫星めろう
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八月。
蝉の声が響く昼下がり。
奏斗はスマホを片手に、メッセージ画面を開いていた。
『石川、今週の土曜日って暇?』
送信。
「……。」
既読がつかない。
一分。
三分。
五分。
「……。」
落ち着かない。
そのとき。
『暇。どうしたの?』
「よし!」
思わず声が出た。
『夏祭りあるんだけど、一緒に行かない?』
送った直後。
「……。」
(言った。)
(言っちゃった。)
既読。
そして。
『うん。行きたい』
「……!」
奏斗はベッドに倒れ込んだ。
「よっしゃ……!」
-–
土曜日。
夕方。
待ち合わせ場所に着いた奏斗は、時計を確認する。
「早く来すぎた……。」
約束の時間まで、まだ十五分。
すると。
「神崎。」
振り返る。
冴が立っていた。
「……。」
奏斗が固まる。
「どうした?」
「いや。」
「……。」
「その服。」
「変?」
「違う。」
奏斗は慌てて首を振る。
「似合ってる。」
「……ありがとう。」
冴は少し照れたように笑った。
「神崎も。」
「俺?」
「その服。」
「……。」
「似合ってる。」
「……今日はもう満足。」
「なんで?」
「石川に言われたから。」
「……変なの。」
-–
二人で祭りの会場へ向かう。
屋台。
提灯。
太鼓の音。
人の笑い声。
「すごい。」
冴が周りを見渡す。
「何から行く?」
「……。」
冴は屋台を眺める。
「りんご飴。」
「食べたい?」
「……少し。」
「じゃあ買おう!」
二人で列に並ぶ。
「はい、どうぞ。」
奏斗が一本受け取る。
「……。」
「一個でいい?」
「うん。」
冴が一口食べる。
「……甘い。」
「だろ?」
「神崎も食べる?」
「え?」
「……。」
冴は少し考えてから、りんご飴を差し出す。
「一口。」
奏斗は目を丸くする。
「いいの?」
「うん。」
「じゃあ……。」
一口食べる。
「……うまい。」
「でしょ。」
「でも。」
「?」
「石川が食べたやつだから、余計うまい。」
「……。」
「……。」
冴は何も言わず、そっぽを向いた。
耳が赤い。
「……神崎。」
「はい。」
「そういうこと、言わないで。」
「ごめん。」
「……嫌じゃないけど。」
「え?」
「なんでもない。」
-–
少し歩くと、射的の屋台があった。
「やってみる?」
「……やる。」
冴が銃を構える。
真剣な顔。
「……。」
パンッ。
外れ。
「……。」
もう一回。
パンッ。
また外れ。
「……。」
奏斗が笑いをこらえる。
「笑わないで。」
「ごめん!」
「……。」
三回目。
パンッ。
景品が倒れる。
「やった。」
「すご!」
奏斗が拍手する。
「石川、意外と強い。」
「……。」
冴は景品を受け取る。
小さなキーホルダー。
「これ。」
「?」
「神崎にあげる。」
「え?」
「……今日、誘ってくれたから。」
奏斗はキーホルダーを見つめる。
「……ありがとう。」
大事そうに握る。
「絶対なくさない。」
「そこまで?」
「うん。」
-–
夜。
花火が始まる。
二人は少し人の少ない場所へ移動した。
ドン――。
大きな音。
夜空に花が咲く。
「……きれい。」
冴がつぶやく。
「うん。」
また一発。
夜空が明るくなる。
その光に照らされた冴の横顔を見て。
奏斗は思った。
(花火より。)
(こっちのほうが、ずっと気になる。)
でも。
口には出さなかった。
ただ隣で、一緒に空を見上げる。
「神崎。」
「ん?」
「今日。」
「楽しかった。」
「俺も。」
「……また来たい。」
「じゃあ、来年も。」
冴は少し驚いた顔をする。
それから。
「……うん。」
小さく笑った。
「来年も。」
夜空に、最後の花火が上がる。
二人の影が、一瞬だけ明るく浮かび上がった。
コメント
1件
みぅ🤍🥀です。 第十九話、めっちゃ良かった…! 夏祭りデートってだけで胸がキュッとするのに、冴ちゃんがりんご飴を差し出して「一口」って言ったシーン、もう完全にやられた。奏斗くんの「石川が食べたやつだから余計うまい」って返しも最高すぎる(照れるなぁ~~)。 あと射的のキーホルダー、「絶対なくさない」って握る奏斗くんの気持ち、めっちゃわかる。花火のシーンも、横顔の方が気になるって気持ちがすごく伝わってきて、切なくて温かかった。 「来年も」って約束できたのが本当に尊い…。 素敵な話をありがとうございました🌙