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~???年前~
「__愛してる。」
あの日,俺たち兄妹は誰かに襲われて世界から抹消された。しかし,神の導きによって俺たちは再会できた。また兄妹として。
そうして幸せな人生を今度こそ送れると思っていた。
「おにーちゃん。」
「なんだ?」
二度目の人生,俺紫鬼(しき)と妹の聖來(せいら)は10になった。まだまだ子供だが,魔族として生まれた俺と聖來は成長が比較的早かった。人間で言う成人と変わらない。
そんな年齢になっても毎日は変わらない。今日も聖來が俺のもとに走ってきた。
「もうすぐで雨が降るから外にいないほうがいいよ。」
人間の母の血を多く継いだ聖來は天候を予知できる聖女だ。普段は街に出かけ,天気を人々に教えた後病院でけが人を治療する。一方の俺は魔王の父の血を多く継いだせいで作法,剣術,魔法についてを学ばなければならない。疲れている俺を癒してくれるのが聖來だけだった。
「分かった。聖來は今から街だろ?気をつけてな。」
「うん!じゃ,行ってくる!」
街に行った聖來を見送った後,本を片付け家(魔王城)に戻った。
「お帰り,紫鬼。」
家に帰ると母が笑顔で出迎えてくれる。前世ではもらえなかった愛情をここでは貰い続けていた。本当にここに産まれてきてよかったと実感している。
今日も父は居なかった。きっと遠方の国に行っているのだろう。
少しもしないうちに聖來が言っていた通り雨が降ってきた。遠くの方で雷が鳴っているから当分晴れることはなさそうだ。聖來がもし危ない目にあっても大丈夫なように父が転移石が入ったペンダントを持たせているから大丈夫だろう。
「結構荒れてるわね…。聖來大丈夫かしら。」
「…もし危なかったら俺が行くから大丈夫。」
母が微笑んだ。そうだ,俺が行けば街の人だって助かるし聖來だって大丈夫。そう思っていた時だった。
雷が街の方に落ちた。炎が上がっているのがここからでも見える。嫌な予感がして俺は何も持たずに街まで走った。焦っていたから転移魔法を使うのを忘れていた。いや,忘れていたんじゃない。魔法を発動するのに必要な魔素があまりにも薄すぎたんだ。
「そこの坊や。」
急に女の人に話しかけられた。ただ,ここ魔界の住人でない,ダレカだった。
「…っ!離せ!」
女は俺の腕をつかみ,離そうとしない。気味の悪い笑みを浮かべてこちらを見つめるだけ。
魔法をこの女に向けて放とうとしても魔法が発動しない。魔界は魔素が少なることはない。それが普通なはずなのに今の魔界は全く違う。
「なんで…魔法が使えないんだよ。」
「教えてあげる。あなた達魔族が人間界を滅ぼそうと侵略したからよ。だからその罰として魔素をなくしてあげたの。」
意味が分からない。人間界に侵略しても俺達魔族には何のメリットもないはずだ。誰が人間界を襲った?
それに人間界は俺と聖來が産まれた故郷だ。そんなところを侵略されたら俺たちが許さない。
「…っ!」
隙をついて俺はあの女から逃げた。早く聖來の元に行かなければ。
分厚い雲が空を覆い,雨は降り続けた。こんなに雨が降っているのに火は消える気配がない。街に着くといつもの明るい街はなく,静けさと奇妙な気配が漂っていた。何事もなかったかのように。それにどの家にも人は居なかった。聖來も。
「聖來,どこにいるんだ?」
またあの時のように失ってしまったと思うと怖くなった。また,自分の前から姿を消された。
「まだ一人残ってたみたいです。」
後ろから声がした。次は男の声だ。しかも一人じゃない。
「子供は今のうちに教育しとけば言うこと聞くから持って行っちゃって。」
逃げようとして前を向いたがすでに手遅れだった。
俺は,俺たちは人間に負けた。急に視界が暗くなり,目覚めたころには魔界ではなく,人間界の刑務所だった。
誰も,聖來の場所を教えてはくれなかった。この現状は前世,テレビで放送されていたある国とある国の戦争によく似ている。子供を拉致って教育をして,子供に自分の故郷を襲わせるというもの。俺そんなこと絶対にしない。どんなことだって乗り越えてみせる。
これが,天人魔界大戦争の始まりだった。