城に着いた頃に雨は上がっており、暗くなる前には戻って来れた。というのを、リオは後から聞いた。道中で眠ってしまい、目が覚めたらギデオンの部屋だったからだ。 リオは見慣れた天井を眺めて長く息を吐き、ゆっくりと起き上がった。しんどさが無くなり、身体が楽になっている。
「あ、足、手当してくれてる」
足に違和感を感じてシーツをめくると、包帯が巻かれていた。|石膏《せっこう》で固められていないから、骨は大丈夫だったらしい。
「よかった。昔に腕を折った時くらい痛かったから、てっきり折れてるかと思ったよ」
一人で喋りながら、額と腕に触れる。
足が大したことがないとわかったら、額と腕の傷の方が痛く感じてきた。
「これ、魔法を使えば治せるんだけどなぁ。でもダメだよなぁ。治ってたら怪しいもんな…」
「リオ」
その時、扉の外からギデオンの声が聞こえて、リオはベッドの上で飛び跳ねた。
俺の声、聞こえた?いや、小さな独り言だったし大丈夫だよな?でもギデオンの声ははっきりと聞こえたな…。
「リオ、まだ寝てるのか?」
リオがワタワタと焦っていると、ギデオンが入ってきた。
ギデオンの部屋なのだから声をかけずに入ってきてもいいのに、律儀な人だなとリオは近づいてくる男の怖い顔を見て思う。最近ではすっかり怖い顔にも慣れて、かなりいい男だよなと思っているけど、それは口に出しては言わない。
でも領主でいい男でいい年齢なのに、どうして結婚してないのだろう?
「ふ、どうした。面白い顔をしてるぞ」
「はあ?」
ギデオンが柔らかく笑う。いや、表情は変わってないのだけど、リオにはわかる。でも自分の顔のことを笑われて、面白くはない。
「面白い顔ってなんだよ」
「眉が上がったり下がったり、口が開いたり閉じたりしていた。何を考えていた?」
「え?ほんとに?いやあの…ギデオンにまた迷惑かけちゃったなぁって」
「気にしなくていい。顔色がよくなって安心した。ふ…リオは表情が豊かでいいな。|羨《うらや》ましい」
「え…」
羨ましい?羨ましいんだ…。そっか、ギデオン自身、無表情な自覚あったんだ。そのことを悩んでいたんだね、たぶん。
リオは、ギデオンの目を見て言う。
「ギデオンも表情豊かだよ」
「俺が?狼領主だと言われているのにか?」
あ、自分で言っちゃうんだとリオは目を丸くした。狼領主って言われてること、気にしてたのかな。でもかっこいいからいいじゃんね?
リオがベッドから降りようと動くよりも早く、ギデオンに止められた。
椅子を引き寄せながら「しばらくは安静だ」とリオと目を合わす。
リオは素直に頷いた。
「わかった。本当に迷惑かけてごめん」
「だから気にするなと言ってる。リオは悪くない。被害者だ。それに謝るのは俺の方だ。部下がひどいこをした。すまない」
「いやいや、それこそギデオンも悪くないじゃん。俺を助けてくれたんだし」
「だが、部下のやったことは主の責任だ。しかし、ケリーは賢く腕も立ち人望もある。なのになぜ、あんなことをしたのか…」
「ケリーはどうしてるの?何か言ってた?」
「謹慎中だ。部屋から出ないよう、言い渡してある。部屋の前に見張りもつけている。それにまだ何も話さぬ」
「そう」
リオは息を吐いて下を向く。
ケリーは、何を考えているんだろう。一度、本人に会って話してみたい。
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