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「オレノコト、スキ?」
言葉を吐く度に、自分に対する嫌悪感が募っていく。
向けた相手はラダオクン。
俺にはもったいない程素敵な恋人。
「どうかな。好きじゃないかも」
彼は意地悪だから、わざと俺を不安にさせることを言う。
しかし、理解はできても慣れはしない。
その言葉を聞いただけで胸の中がぐるぐるして、ぐちゃぐちゃになっていく。
恐怖、不安、後悔、混乱。
交わり、溶けて大きく揺れる感情の波には、ほんの少しの安堵も混ざっているのだから、本当に自分は救えない。
「嘘だよ。ちゃんと好き」
焦らすような視線から一転、いつも通りの笑顔になる彼。
普段ならば、その笑顔は安堵と平穏を与えてくれる筈なのに、今だけはより強い怯えを誘う。ラダオクンは本当に楽しい時も、嘘を付くときも、その顔をするから。
思わず「ホントニ?」と聞いてしまう己のなんと女々しいことか。
行動を振り返らなくてもわかる。俺の持つ彼に向ける感情はあまりにも「重い」。運営のメンバーにだって心配をかけてしまうほどに、俺は彼に依存している。
ラダオクンは笑って受け入れてくれるけれど、心のなかでは「うざい」としか思ってないかも。そう考えるだけで手足が冷たくなって震え始める。
恋心なんて淡いものだったら、こんなに酷くはなかったのに。
「スキ」がどんどん積み上がって、無理矢理心の奥へ押し込める度に、変形して、混ざりあって、ぐちゃぐちゃになっていく。
今こうして己の想いを伝え、彼と繋がることができていても、「スキ」はどんどんぐちゃぐちゃのドロドロになってしまう。
もはや執着と言ってもいい。
この感情はきっと、更に醜くなることはあっても、消え去ることなど絶対にないのだろう。
突然、止まらない俺の口を、ラダオクンが塞ぐ。
たった一瞬の、触れるだけのキス。
彼の大きな手が俺の手と絡み合い、深海のような青い瞳が俺を釘付けにする。
「俺はみどりのことが大好きだよ。」
その瞬間、胸の中に充満していた不安がどこかへと吹き飛んで、幸せだけが身を包む。
夢の中にいるような、頭がふわふわする感覚。彼の言葉には麻薬成分でもあるかのように、思考が意味を成さなくなって、意識がぼんやりとする。
「みどりは俺のこと……スキ?」
優しく目元を撫でられる。
刺激に耐えることのできなかった涙が一つ、ぽろりと落ちた。
そして、「スキ」も一緒に、口からこぼれだした。
一度だけ、一つだけでも落ちた物は止まらない。落ち続ける涙と共に、汚い「スキ」が奥の奥から激流となってこみ上げる。
思考も回路も感情も、脳みそ丸ごと全部砂糖で漬けたような、甘すぎる感情の波に思わず吐きそうになる。
実際出たのはただの嗚咽だったが。
吐けない苦しさと己の醜さに、思わず強く彼の手を握る。縋るように見上げると、ニッコリと笑って強く抱きしめてくれた。
更に涙が落ちる。
彼が助けてくれるから、俺を辛いことから救ってくれるから、何度も彼に縋ってしまう。
手を握って、足を引っ張って、彼が進むことを邪魔するくせに、自分は助かろうとする。
その情けなさに思わず「ごめんなさい」が飛び出た。
謝ればいいってもんじゃない。でも、出てしまったからには止まらない。
ごめんなさい。ごめんなさい。
貴方を好きになってしまってごめんなさい。
貴方に想いを伝えてしまった。
貴方を厄介な感情で縛り付けてしまった。
彼からもらえる愛を知ってしまった己は、もう離れられない。
彼が別れたいと思っても、彼は優しいから、自分の気持ちに蓋をして、恋人ごっこを始めるだろう。
抱きしめてくれる彼はとても温かく、落ち続ける涙はもうしばらく止まりそうになかった。
お化けの未練は恐ろしい。
執着だけで、この世に留まるのだから。