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『暗黒大陸でみんなが無事に帰れた世界線』














満開の桜の下、

その姿はいつも以上に人目を惹いていた。


明るい金の髪は、日の光そのもののようで、肩越しまで伸びたそれを緩くまとめているのを見て、

ずいぶん伸びたなと思う。上品な色合いのシャツとすっきりとした

ボトムス、上に羽織った大きめのパーカーがよく似合っている。

それが少し前に自分がすすめたものであることに気づいて少し嬉しくなる。


「クラピカ!」


声を上げると、

こちらを見て軽く手を挙げて、

柔らかく微笑む。華やかに整った顔立ちは、昔の名残で黙っていると近寄りがたい感じもあるが、


笑うと花が咲いたようで、周りの視線が集まったのを感じる。


「悪い、待たせた」

「いや、大丈夫だったのか?」

「ああ、なんとか」

「お疲れさん」


クラピカの横に座っていた彼の師が、ひょいと缶ビールを差し出してきた。


「ありがとうございます」


イズナビの手には自前のものらしい杯があり、横に一升瓶が置かれていた。


「ほかのやつらは?」

「今、買い出しに行っている」


今日は、はるばるくじら島からゴンが、そして世界中を転々としているキルアも合流する予定だった。それから、クラピカの元同僚たちも。


「体調はどうだ?」

「ああ、問題ない」


何気なく答えたクラピカに、イズナビがツッコミをいれる。


「うそつけ、今朝、熱があっただろう」

「いつものことだろう。大したことはなかった」


うるさそうに答えるクラピカは、今、イズナビのもとにいる。


本当は自分が一緒にいてやりたいが、駆け出しの医者であり、念の初心者である自分では、悔しいが力不足なのだ。


「あのなあ、そういうことはちゃんと言えよ」

「今は大丈夫だから別に良いだろう」

「良くねえよ。ちょっと手貸せ」


有無をいわさず右手を取る。今、自分にできることは、こうやって定期的に体調を診てやることくらいだ。あいかわらず細い右手。その薬指にはまった複雑な文様を描く指輪を見ると、苦い記憶が蘇る。


暗黒大陸から生還してすぐ、クラピカは死にかけた。戦闘によるものではなく、制約と誓約によるものだと聞いている。彼は詳しいことを語らなかった。ただ、青白い顔で、瞳だけが凄まじい緋色に輝いていた、あの姿は忘れられない。そのまま燃え尽きしてしまいそうな命を救ったのは、彼がすべてを投げうって取り戻した大切な人たちだった。


『パイロ……』


ぐったりとしたクラピカが、つぶやいた。その視線の先にあったのは、取り戻したばかりの仲間たち。そのひとつ、少年の頭部に向かって、力なく指が伸ばされる。絡みついた鎖が鈍く光り、それ自体が意志をもっているかのようだった。ごほりとせき込んだクラピカの口元から、血が流れた。緋色の瞳から、徐々に生の光が消えていく。


そのとき、なにが起こったのか、正確なことはわからない。だが、彼が手を伸ばした仲間たちから、強烈な念の気配がした。クラピカの不在を守っていたリンセンによると、彼が仲間たちを安置していた地下からも同じ気配があったという。


保存液のなかでたゆたう緋色が、その瞬間、オーラをまとって輝いたのを確かに見た。そのオーラは、

鎖の絡みつく右手から集まり、鎖の主を守るかのように包んだ。クラピカの緋色が静まり、命をつないだのが感じられた。同時に、鎖が薄らぎ、薬指に指輪が残されたのだ。


「レオリオ?」


過去の記憶にとらわれていた思考を、不思議そうなクラピカの声が遮った。右手を握ったままだった。


(しっかりしろ、俺。今、クラピカはここにいる。生きてる)


「大丈夫そうだな」


念を通じて診た彼の体は、万全とは言い難かったが、大きな問題はなかった。


「だから言っただろう」

「お前の問題ないはあてになんねえんだよ」

「本当にそうだな」


イズナビがしみじみと言う。死の淵から蘇ったクラピカは、念は使えるものの、自分の意志で緋の瞳になることがなく、鎖も具現化できなくなっていた。そして体調が不安定で、少し無理をすると熱を出した。そんなとき、決まって彼の瞳には緋色が蘇り、右手にはうっすらと鎖の幻が現れた。


『余命をもらったんだ』


そう、クラピカは言った。

イズナビが引き出した話から、クラピカが能力の代償としたものを知った。そして、本来であれば、すでにその命が尽きていることも。


それをつないだのが、仲間たちの力だと。そんなことがあるのかと思ったが、念というのはまだまだわからない部分があるようだ。


『あと2~3年は生きられると思う』


淡々とそういったクラピカに、

相手が弱っていなければ殴りつけるところだった。とにかく、


それまで通りの生活は続けられない。ひそかに組を抜けたクラピカを引き受けるといったのが、


彼の師であるイズナビだった。今は、イズナビの縁があるのどかなこの街で、彼の仕事を手伝いながら過ごしている。


そうやって体調も生活も落ち着いたころを見計らって、みんなで集まろうと提案したのは自分だ。クラピカが暮らしている街は、自分が働いているところからも近い。そして、桜の名所でもあった。


(俺はあきらめねえ)


一度は命をつないだのだ。まだできることはあるはずだ。そのためにも、クラピカには生きることに希望をもってほしかった。お前のことを想っている人間がこんなにいるんだと、知ってほしかった。


「クラピカ! あ、レオリオも来てる!」


明るい声が響いた。そちらを見ると、ゴンとキルアが、大きな袋を両手に駆けてきた。


「お疲れ」


クラピカが2人を迎える。2人に対する柔らかなほほえみは以前からだが、最近では一層表情が柔らかくなったと思う。


「お前ら、甘いもんばっか買ってるじゃねえか」

「だってオレら、酒飲めねえもん」


2人が持ってきた袋のなかは、菓子類ばかりが詰まっていた。


「2人らしいな。まあ、リンセンたちもなにか持ってくると言ってたから大丈夫だろう」


クラピカがクスクスと笑いながら言う。そんな表情もするようになったのかと、嬉しいような、切ないような気持ちになる。


「ああ、ほら、来たみたいだ」


見上げたクラピカの視線の先に、かつての部下であったリンセンと、センリツ、バショウがいた。


「センリツさんだ~」

「お久しぶりね、ゴン君、キルア君」


「元若頭、いろいろ買ってきたぜ」

「その呼び方は止めろ」


「部下たちが一緒に来たがって大変だった」

「さすがに厳ついあの面子をここには呼べないな」

「ああ、だが改めて場を設けてやってくれ。寂しがってた」

「私はもう組を抜けた人間だぞ」

「それでも、慕う人間は多いんだよ」


一気ににぎやかになった場で、クラピカはとても楽しそうだった。こいつ、こんなに笑うやつだったんだなというのが、最近の発見だ。


「じゃあ、全員そろったところで乾杯するか」


缶ビールを手にそう言ったところで、ふと、クラピカの視線が逸れたのに気づいた。


「おい、俺たちのことを忘れるなよ」

「そうだわさ」


「ビスケ! なんであんたがここに」

「失礼だね、師匠に向かって」


「ハンゾウ、久しぶり!」

「おう、元気だったか?」


「クラピカ、こいつらにも声かけたのか?」

「ああ、世話になったからな」


いたずらっぽく笑う顔が、とてもきれいだ。風にあおられて、花吹雪が舞った。


「よし、飲もうぜ。乾杯!」

「お前はもう飲んでいるだろう」


みとれている隙に、イズナビが杯を掲げた。すかさずツッコむクラピカに、なんだかんだで師弟だなと思ってしまう。


「レオリオ」

「なんだ?」


わいわいとにぎやかな場で、クラピカの声がひそやかに響いた。


「ありがとう」


笑った横顔が、アルコールのせいか、ほんのりと染まっている。


「ねえ、写真撮ろうよ!」


意表を突かれてなにも答えられずにいると、ゴンの元気な声が響いた。


「クラピカ、こっち来て!」

「ああ、レオリオも。師匠、飲み過ぎだぞ」

「こんなん序の口だ」


少し体温の低い手に引っ張られる。薄紅色の花びらがはらはらと散っていく。


「はい、撮るよ~」


撮られる瞬間、思わず横目にクラピカを見てしまった。そこには、幸せそうな笑顔があった。


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