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桐生颯人きりゅう はやとは社長室からじっと窓の外を眺めていた。


これから雨が降るのか空がどんよりとしていて、モヤモヤした彼の行き場のない欲望を表しているかのようだ。


颯人には最近なかなか手に入らないものがある。


自慢ではないがこれまでの人生で手に入らなかった物は一つもない。仕事も女も今まで自分の思うように手に入れ思う存分楽しんできた。


颯人の父翔平しょうへいは桐生グループの会長で、国内でも有数のIT事業を主に様々な事業を展開している。翔平は祖父が立ち上げた小さなソフトウェア会社を、一代でここまで大きな会社に成長させた。


長男である颯人の兄海斗かいとは父の後継者として現在桐生グループの親会社、KS IT Solutionsの副社長をしている。


次男の颯人もしばらく兄と同じ会社で働いていたのだが、親の力を借りず自分の力を試したくて従兄弟の八神篤希やがみあつきと一緒に、コンテンツなどを提供する制作会社を4年前に立ち上げた。


篤希と一緒に寝る間を削って必死に働き、会社は順調に大きくなり今では従業員200人ほど抱える企業に成長した。


颯人には自分で一度目標を立てると、それにまっすぐ突き進む強い意志がある。これはおそらく親譲りの性格なのだろう。


欲しいと思ったものはどんな手を使ってでも必ず手に入れる。その為にはどんな努力も惜しまない。彼にはそれを実現できる実力とそして忍耐力がある。


そうして色々な事にチャレンジして、自分の力を試し達成感を味わう。颯人はこうして自分の人生を楽しんできた。



コンコンとドアをノックする音が聞こえ、秘書の七瀬蒼ななせあおいが社長室に書類を抱え入ってきた。


「社長、おはようございます。こちらに今日の会議で必要な書類とこれは先日ご依頼のあった長谷川ホールディングスの資料です」


颯人は地味な格好をした自分の秘書を見つめた。


茶色の髪はいつもきちっと後ろに一本でまとめ、顔にはその小さな顔を覆い隠すように分厚い眼鏡をかけている。


服はいつも地味なグレーか黒っぽいスーツで、わざとサイズの合わない体の曲線がわからない服を着ている。


しかしあんな地味な格好で変装しているが、彼女の隠された美しい容姿は初めにここで働き出した時からとっくに気づいている。


彼女はあのような格好をしているが、颯人が今まで出会った女性の中で一番好みのタイプの美女だ。


「ありがとう、蒼」


いつもなら「七瀬さん」と苗字で呼ぶのに下の名前で呼んでみる。すると彼の予想通りびくりとして振り向き、嫌そうな顔で颯人を見た。


自慢ではないが、今まで出会ってきた女性で自分に興味を持たなかった者はいない。颯人は次男とはいえ、桐生グループの御曹司で金持ちで見た目もそこそこいい。


今は小さいながらもこの会社の社長であり、会社は色々な雑誌などで取り扱われるほど有名になりつつある。颯人自身も今まで何度もインタビューを受けて、雑誌に載ったことがある。


なのに蒼は今までの女性と違い、颯人には全くと言っていいほど興味がない。優しくしてみたり彼女に気があるようなふりをしてみたりするも見向きもしない。


颯人は仕事も好きだが遊びも好きだ。彼は常に活力に満ち溢れ、女と思いきり遊ぶ事によってストレスを発散し、仕事も精力的に打ち込めるタイプだ。


しかし蒼と出会ってから何もかも自分の思い通りにならず、最近仕事にも集中できない。


蒼の事を諦めて違う女と遊べばいいのだが、最近はそんなことすら考えられない。とにかく彼女を手に入れることしか今は考えられない。


蒼はまるで宝石の原石のようだ。醜い表面の下には美しいダイヤが隠されている。


なんとしてでも彼女を手に入れたい。これが恋や愛などと言うものかはわからない。ただこんな極上の女を手に入れようとしない男はいない。


颯人は社長室を出ようとしている彼女の腕を掴んだ。


「なっ……ちょっといきなり何して……」


憤る彼女を無視して、颯人は彼女を壁に押し付けた。


蒼は澄んだ大きな目で真っ直ぐに彼を睨み、二人の間に熱く張りつめた緊張感が漂う。颯人は彼女の意思の強そうな目で見つめられゾクゾクとする。


「もういい加減にしてください。私に構わないでと言ったでしょう」


蒼はやたら颯人と距離を取ろうとする。彼が彼女の心に一歩でも踏み込もうとするとすぐに逃げていく。


だから彼女が心を開くまでひたすら辛抱強く待った。


だが彼女は怯えて頑なに心を閉ざしたままで、いつまで経っても距離が縮まらない。


これからは距離を置くことも、地味な姿で自分を隠そうとすることも、彼から逃げることももう許さない。彼女の閉ざされた心をこじ開けるには少々強引な手を使うしかない……


「蒼、もう逃さないよ」


颯人は不敵に微笑むと、怯える蒼を見つめた。



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