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「こんにちはー」
 私、七瀬蒼は、元気よくペットホテル「Paw Hotel and Daycare 」 のドアを開けた。
 ここのオーナー、千歳佳奈さんは50代前半のとても優しい女性。このペットホテルを営む傍らこの地域に小さなボランティアグループ「Paw Rescuers」を立ち上げて、保健所に捨てられた犬を保護し里親や犬を一時期預かってくれるフォスターさんを探している。
 保護された犬は、引き取り手が見つかるまでしばらくこのペットホテルの空き部屋で過ごしていて、私はここで犬の世話をするボランティアをしている。
 元々犬が好きで、子供の頃から家族でこのようなボランティアをしていた。もちろん子供の頃から飼っていた犬は全て保護犬だ。アメリカから帰国後、早速ここでボランティアを始めた。すでに2年も犬の保護を手助けしている私は、佳奈さんとはすっかり仲良しだ。
 「いらっしゃい〜。あれ?今日は来ないと思ってたけど。今日から新しい仕事じゃなかった?」
 佳奈さんがびっくりしたように奥から出てきてた。
 「明日からね。新しい職場で働き出したら週末まで来れないかと思って今日来たの。ココアとポテトは元気にしてる?」
 ココアは2週間前保健所から保護された高齢のミニチュアダックスフンドで、里親が見つかり今週末新しい家族の元へと行く予定になっている。ポテトも先週保健所からここにやってきたラブラドールだが、大型犬で高齢な為かなかなか貰い手が見つからない。
 「そうね、調子は良さそうだけど、まあ二匹ともおばあちゃんだからほとんど寝てばかりね。そう言う蒼ちゃんはどう?未だあの変な男に追いかけられてるの?あまりしつこいようだったら警察に行ったほうがいいんじゃない?」
 「ありがとう。まあ先週引っ越したし、しばらく見てないから大丈夫かも。もしかしたら諦めたのかもしれないし……」
 「本当?もう気をつけてよ。最近ストーカーで怖いニュースもよく見るし」
 「うん。多分大丈夫。とりあえずココアとポテト散歩に連れてくね」
 私はココアとポテトを連れ出すと一緒に近くの土手をノロノロと散歩した。
 小さなココアと大きなポテトがよちよちと歩く姿は可愛くて心温まる。高齢になったから面倒見きれないと保健所に自分の犬を捨てに行く人の気が知れない。
 
 散歩をしながら、先々月まで勤めていた高嶺コーポレーションのことを振り返った。ここには約2年勤めたが、今考えると出だしから良くなかったような気がする。
 私は祖父がアメリカ人で小さい頃からほんの少し日本人離れしたような顔をしている。
 筋の通った鼻や大きな目と長い睫毛、ほんのりと茶色い髪、それに思春期を過ぎてからは人よりも少し大きくなった胸。その派手な容姿は良くも悪くもどうしても目立ってしまう。その為中学生の頃からやたら男子に時には大人の男性から絡まれた。
 高校1年の時に両親が仕事でアメリカに駐在員として派遣され、それから大学卒業するまでをニューヨークで過ごした。アメリカにいる間、わりと平和に学生生活を送ったが、その後両親は私が大学2年の時に日本へ帰ってしまい、私も卒業してから日本に帰国した。
 英語が少し話せることと両親のつてもあり、帰国後大企業の高嶺コーポレーションに入社した。
 でもこの容姿と体つきでどうやら目立ってしまったらしい。女性社員からは妬まれ、男性社員から常にいやらしい目で見られるようになった。
 その後色んな男に言い寄られ、時には中年の部長からセクハラまがいの事までされた事がある。
 そんな中、上司である朝比奈さんは私に真摯に向き合ってくれ、変な男達から私を守ってくれた。仕事も新人の私に丁寧に教えてくれ、徐々に仲良くなり一緒に映画など観に行くような間柄になった。
 朝比奈さんは私より五つ年上で、彼のしっかりした大人の雰囲気が好きだった。男の人や恋愛に億劫になっている私に無理強いなどせず、辛抱強く私が彼に徐々に心を開くのを待ってくれた。そのうち付き合って欲しいと言われ、しまいにはプロポーズまでされた。
 しかし今から二ヶ月前、事件が起きた。