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「美月は俺が好きなんだろ?」
息が出来ない程緊張していたのに、返って来たのは全くの想定外の答えだった。
まさかの質問返しに、最高潮に高まった緊張が身体から抜けて行く。
「昨日の夜言ったよな?」
……ちゃんと覚えてるんだ。朝は聞いてませんって顔してたくせに。
何だか思っていなかった方向に話が流れてしまった。かなり勇気を出して切り出したのに……。
「何で黙るんだよ」
「別に……」
「もしかしていじけてるとか?」
いじけてるって……私そんなに子供っぽくないけど。
でも、実際はいじけてるも同然かもしれない。期待した答えが返って来なくて不機嫌になってるんだから。不安で緊張しながらも、幸せを願っていたから。
もっと平然と余裕の態度でいたいけど、雪斗の言葉にいちいち振り回されてしまう。
店を出てから気分はなかなか浮上しなかった。
寒さに吐く息が凍えそうなのに、雪斗に寄り添う気になれない。
そんな気持ちは態度に出さない様に気をつけていたつもりだけど、隣を歩く雪斗にはあっさり見破られてしまったようだった。
頭上から小さな溜息が聞こえて来る。
「仕方ないな」
「え?」
仕方ないって何が?
顔を上げようとするのと同時に、ふわりと身体を抱き締められた。
「ゆ、雪斗?」
急にどうしたんだろう。
夜で人通りが少ないとはいえ、外でこんな事……。
人目が気になって慌てて雪斗の腕から抜け出そうとしたけれど、背中に回された腕は強すぎて身動き出来ない。
どうしよう……今日はそんなにお酒も飲んで無かったはずなのに、どうして?
「嘘だよ」
混乱する私の髪に、雪斗は顔を埋める様にして囁いた。
「え?」
嘘?
ますます訳が分からない。
「寂しいから付き合おうって言ったの無かったことにするから」
「え……」
無かったことにって……。
今度こそ声が出なくなった。
無かったこと……この付き合いも無くなるって事?
どうして?
さっき一緒に住もうって言い出したのは雪斗なのに。
その後核心に触れようとしたり、勝手に落ち込んだりしたから?
重たくなった?
いろいろな思いがグルグルと頭を回り呼吸が苦しくなる。
ズキズキと胸が痛い。
私、雪斗に振られるの?
雪斗の胸に埋めた視界が涙で滲みそうになる。
泣きたくないけど、抑えれないかもしれない。
「好きだよ。初めから」
「え?」
「一緒に過ごすうちに、ますます好きになった」
雪斗の声が遠くで聞こえるようだった。だって信じられない。
「寂しいだけで付き合った女に俺がこんなに尽くす訳ないだろ?」
少し怒ったような雪斗の声。それがじわりじわりと心に染み入って、全身に広がって行く。
雪斗が私を好きだって言った。
「……!」
さっき止まった涙が結局零れて、どうしても止まらなくなった。