「ーく、雫!!」
「うあっ!な、何?」
「もー、何?じゃないよ!急に寝ないでよー、話終わってないんだからあ。ま、あと10分で下校時間だし、気持ちはわかるよ。」
「あはは、ごめんごめん、陽向。で、なんだっけ?」
「だーかーらー!怪奇現象の話!昨日のニュースでもやってたじゃん、高校生誘拐事件!しかもこれで今月4回目!みんな揃って鶴ノ橋川が最後の目撃情報なんだってさ!」
「えぇ〜何それ怖いんだけど。ほんと陽向はオカルト好きだね。」
「あったりまえじゃん!明後日オカルト同盟のみんなと一緒に観に行くんだぁ、鶴ノ橋川。あぁ〜楽しみっ!」
「えっ、何それ絶対ダメなやつだよ、やめときなよ!」
「大丈夫だってぇ、相変わらず怖がりだなぁ、雫はぁ〜。私たちももう高1だよ?青春楽しまなくちゃ話にならないでしょ!」
そうだけど、と言おうとしたけど、こんなふうになったらもう誰も陽向を止められない。
「今がーじゃ、なくて、鈴井、これ、職員室まで持っていってくれないか?」
「はーい!」
私は荻田先生に言われるがままに、重い教科書たちをいそいそと運ぶ。そんな時、廊下の脇からこんな話し声が聞こえてきた。
「ねえ、知ってる?3組の今川雫、先週親が離婚して苗字鈴井になったらしいよ」
「ええ、まじで?3組って荻Tんとこっしょ?」
「そうそう、荻田先生のクラス。」
「なんか元々3組って冴えない感じだったよねぇ〜、オカルト中毒の人もいるんだっけ?」
「えー何それウケるーw」
あんな戯言には耳を傾けなくていい、と自分に言い聞かせる。高校生にもなって陰口言うとか、よっぽど暇なんだろうな。
キーンコーンカーンコーン。キーンコーンカーンコーン。
今日最後のベルと共に、下校のアナウンスが流れる。職員室に教科書を置いて、下駄箱へ向かう。どうせ今日も美彩乃さんはまだ家に居ないんだし、そうだ、あの場所へいってみよう。
わずかに残っている海岸線を歩きながら、海を見つめる。いや、海じゃなくて、いつまで経っても引かない潮。12年前の地震と津波で、私が住んでいた村は壊滅してしまった。
その時私の両親は地震で落ちてきた家から、私をたった一人残して天国へ旅立ってしまった。美沙乃さんは、私の親の親しい友人だった。村に住んでいた時から、時折、家に遊びに行く仲だった。もう、美沙乃さんに引き取られて11年半。
最初は、ご主人も一緒に仲良く暮らしていた。でも、あることをキッカケに二人の仲は徐々に悪くなっていき、美沙乃さんご夫婦は、ちょうど今日から一週間前に離婚してしまった。
そんなことを考えていると、急に波が私めがけて推し寄せてきた。9月序盤のひんやりとした海水が、私の全身を包み、冷たい海へ引き摺り込んでゆく。
いやだ、助けて。。。息が、もた、ない。。誰か。。
最後に覚えているのは、誰かが私の腕を掴んだ感触だけだった。
次に私が目覚めたら、私は海岸線の上に寝そべっていた。どれくらいの時間が経過したのだろうか。もう、空はすっかり赤く、赤く染まっている。
「目が覚めた?」
二つの白い素足が私の視界の上の方に見える。
「ローズマリーの香り。。?」
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