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雨の日のバス停。
ザァザァと響く音が耳に残る。
少し跳ねてピチャッと落ちる水を見て、私はぼんやりとあくびをした。
「…はぁ」
ため息をついて、これからのことを考える。
あーまじかァ…雨とかクソダリィんだよな…
まァでも、この状況っつーと、少女漫画とかでよく見るヤツだよなァ…
そう、私はここで約30分程待っている。
バスは2本くらい見過ごした。
私は”運命的な出会い”をいつも待っているのだ。
そんなクソしょうもないことを考え出したのは、私が小5のときだ。
ある少女漫画で、雨のバス停でぼんやり待っているヒロインと、傘を忘れたずぶ濡れの男子が恋に落ちるという、まぁ、言っちゃ悪いが”よくある”展開だ。
だが留意してほしいのは、私がコレにとんでもなく惹かれたということだ。
私はこの”よくある”展開を貶しているワケではない。褒めたたえている。上から目線だけど。
だから私はそんな運命的な出会いを待っている。
私は幼い頃からずっと、物語のお姫様に憧れていた。
高校生になるまでに死ぬほど努力した。
モデル体重、体型維持のため、ご飯のメニューはいつも私が考え、家族全員分私が作った。
何か特技がほしいと思い、様々な習い事を習った。
勉強も死ぬほど頑張った。
元々短い睫毛は、幼い頃から愛用のまつげ美容液で伸ばし、ナチュラルメイクだって覚えた。
さすがに完璧だろう。
「…」
あれ?待って、何かいる。
え、え、え!?
来たんじゃない!?この展開、物語じゃない!?
傘も差さずにスタスタとこちらのバス停へ近づいてくる。
白シャツに、黒いダボッとしたズボン。黒い靴、黒髪。
肌はとてもじゃないが、白い方だ。
ツンとした鼻に、血色感が薄れた唇、目は二重だが、切れ長で、少し髪がかかっている。
雨に濡れているせいか、少しシャツが透けていた。
「…ぇッ……」
っと、危ない。つい本音を言ってしまうところだった。
「あの…これ、使ってください。」
私は自分の上着を脱いで、ホイッと彼に渡した。
入るかは知らん。まぁ、見た目をどうにかしろという考えは伝わっただろう。
マウンテンパーカーだし。
一応男女問わずのやつだから着れると思うけど…
「…」
男はジィッと私から受け取ったソレを見つめて、チラッと私の目を見て、その後また視線をパーカーに戻した。
「…ありがとう。」
彼はパーカーを着ることにしたらしい。
トンっと持っていたカバンを落とし、ゆっくり、丁寧な仕草で着ていく。
指は細くて、でも骨ばっていて、私よりは絶対大きい。
その後、彼は髪をかきあげて、雑なオールバックを作った。
そしてゆっくりとした動作で私を見る。
鼻が高い。筋が通ってて綺麗。
睫毛長いなこの人…やっぱえッ
「洗っ…て、返す、よ。お名前、うか、伺っても、いい…かな?」
「ふぇ、あ、佐藤藍です。」
危ない。危険がアブない。何かえッですねとか言えねぇ、死ぬぅ…
彼は、 パチパチっと2回瞬きしたあと、「さとうさん。」と反復した。
「お家は…ダメだな、俺が、ふ、不審者に…なっちゃう。連絡先も…やめ、た方がいいね……」
独特な喋り方で、所々言葉に詰まっている。
彼が首を捻りながら考えているのが可愛すぎる。何これ私を秒で虜にするじゃないか。
「あの、SNSのDMとか…」
「あぁ、そ…れか。い、いいね。」
その後は黙って、カバンからスマホを取り出し、私にQRを出してきた。
読み取ってフォロー。
相互の文字を見て、彼はスマホをカバンへと放り込んだ。
バスがゆっくりとやってくる。
雨の音は先程よりも騒がしく、空はグレーでいよいよ濃かった。