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聖次
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麗太
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「準備が終わりました」
クロフォード国に来て数時間後――。私は純白のドレスを着せられていた。
嫁げとは言われたけれど、まさか相手の人と対面する前に結婚することになるとは考えてもいなかった。
私は今日、会ったこともない人と結婚するんだ。どんな方なのかも聞いていないから、見た目も性格もわからない。
ただ……間違いなく、“セシル”という厄介者を引き取るのだから何かしらの理由があるのだろう。
奴隷のようにこき使われえるかもしれない。人質なのだからと、埃だらけの狭い部屋に押し込められるのかも。それにもし、相手の方がだいぶ年上の方で特殊な趣味を持っている方だったら、ペットのように扱われるかもしれない。
私は今までいろんな貴族を見てきたからこそ、問題のある人はまともではないと思っている。
元々逃げるつもりなんてなかったけれど、もう、後戻りはできない。
「セシル様のご入場です」
付き添いもいない私は、目の前で開かれた大きな扉を一人でくぐり、前に進んだ。
まっすぐ前を見つめると、逆光に当たっていて顔は見えないが、すらっとした人が立っているのが分かる。
何で人質を受け入れなきゃいけないんだ。そう冷たい視線を向けられると思っていた。
「長旅お疲れ様でした」
思ってもいなかった言葉を向けられて、私は思わず顔を上げる。すると、男は私に向かって微笑んだ。
「ジルベルトと申します。この度セシル様の夫として任命されました」
「……」
なんだ、この人は……。私は全く想像していなかった反応にぽかんとするしかない。
最初だけ良い顔をしておいて、あとでどん底に突き落とそうという魂胆?
それとも愛想よくしろと命令されている?
そして、この表情からは何を考えているのかが全く読めない。
「よろしくおねがいします……」
私はそう答えることしかできなかった。
「では始めます」
牧師さんはそう言って私とジルベルトの手を取りながら、言葉をつらつらと並べていく。夫婦になるにあたっての心がまえみたいなものなのだろう。きっと、そんなもの私達には必要がない。
そう思っている私は、長ったらしいその言葉を右から左へすべて聞き流していた。
問題のある貴族……、そして人質の姫……。そんな二人の結婚を祝いたいという人などいるはずもなく、私たちと牧師さん以外はいないこの場で、私はこの男――ジルベルトと夫婦になる誓いを立てた。
結婚式はあっさりと終わり、私はそのままジルベルトの馬車に乗せられて家に案内された。この協会は、領地内に合ったらしく、家まではそんなにかからずについた。
「どうぞ?」
ジルベルトの紳士的なエスコートを受けて、馬車を降りた私は目の前に広がる光景に少しだけ目を見開いた。
ここでも私の予想とは違うことが起きたのだ。
馬小屋みたいなところに住めと言われるのか、それとも奴隷のように最低限のモノしか与えられないのか……そう思っていたのに、私を出迎えたのはたくさんの使用人の方だった。
「おかえりなさいませ」
その言葉が私に向けられたものだと言うのは、使用人たちの視線でわかる。
そして案内された部屋は、馬小屋でも物置でもなく、広くて手入れされた一室だった。
「セシル様はこちらの部屋を使ってください。私の部屋は隣にありますので、何かありましたらいつでも来てくださいね」
ジルベルトの隣の部屋。そして、きちんと行き届いた掃除。人質ではなくて、本当に妻として扱おうとしてくれているの?
「ありがとうございます」
無表情のままお礼を言うと、疲れているだろうからゆっくり休んでとジルベルトも使用人も部屋から出て行った。
私は恐る恐る、ふかふかなベッドに手をつき横になる。
「あったかい……」
セシルとして生きるようになってから、こんなに暖かく接してもらったことはない。だけど、それもすべて偽りだ。
私はセシルではなく、ミアなのだから――。
本来、ジルベルトから向けられたものはすべて本物のセシルのモノ。私自身に向けられたものではない。だから、この暖かさに身をゆだねてはだめだ。
私が偽物だとわかったら、この優しさは一変するだろうから……。
ここは前世で私を殺した国。気を抜いてはだめだとわかっていたけれど、ここの居心地の良さと久しぶりの温かいベッドにつられた私は、私は重たくなる瞼には耐えきれずにゆっくりと眠りに落ちていった。
セシルの部屋を出た後、私は側近に問いかけた。
「どう思った?」
「なんというか……感情のないお方ですね」
やはりそうか。初対面であいさつしたときから一切表情が動かない。それも、なんだか人生をあきらめているかのような――。
大事に育った王女とは思えない行動だ。もちろん、礼儀作法や仕草などはとてもきれいだけれど、感情とのギャップに違和感がある。
「少し調べる必要がありそうだな……」
セシルとの結婚に私を指名してきた女王陛下のヴィオレッタの魂胆はある程度予想できる。
きっと私を縛り付けておくためなのだろう。だけど、セシルが相手として選ばれた経緯はよく知らない。
きっと何か理由があるはずだ。
ヴィオレッタの狙いと、セシルの育った環境の問題は別物だといいんだけど……。
結婚までさせておいて、すぐに何か言ってくると言うことはないだろうから、少しは余裕がある。
「セシル様の様子をしっかり見ておくように伝えてくれ」
「かしこまりました」
国内ならまだしも、国外の情報を調べるには少し時間が必要だ。それに、セシル本人から情報を得たほうが正確なものを知ることができる。
あそこまで感情を消すんだ。きっと何かふさぎ込むような出来事があったのだろう。それも、よっぽどのモノが……。
人質とはいえ、せっかく私のもとに来たのだから、嫌なことからは離れられたはずだ。
すこしでも心を開いてもらいたい。セシルが本来の自分を取り戻してほしいと思った。
コメント
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うわあ……重くて温かい、不思議な感覚になりました🥀 ミアが「この優しさは本物のセシルに向けられたもの」って自分の居場所を認められないのが本当に切ない…。 でもジルベルトが「心を開いてほしい」って考えてるところ、実は二人とも探り合ってるみたいで今後にゾクゾクします🤍 人質婚から始まる関係性、どう変わっていくのかすごく気になります!