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◇◇◇◇
バリスハリス王国。ヴァルディウス王国。
そして、どちらにも肩入れしないと宣言したエリシュニカ聖教国。
三国の国境が交わる広大な平原がある。
本来ならば、誰のものでもない土地だった。だが今は違う。
そこは、戦争をするための場所になっていた。
乾いた草原を切り開き、踏み固め、兵が並ぶための空間を整えた。
戦争はエルピアータの差し金で国技となり、見世物になった。
平原の遠くには、木造の観客席が組み上げられていた。
聖教国の貴族や他国の使節たちが、戦場を見下ろしている。
旗が揺れ、ざわめきが風に乗る。
他国にとっては娯楽。だがここに立つ兵にとっては、生死が掛かっている。
平原の一方には、バリスハリス王国軍。
整列する数千の兵。
もう一方。
ヴァルディウス王国軍。エルピアータ帝国軍の兵もいる。
その数は、バリスハリスの明らかに倍以上。
旗の数も、槍の列も、果てしなく続いている。
平原は隠れる場所もない。
森も丘もない。
奇襲も伏兵も使えない。
ただ、正面からぶつかるだけの戦場。
つまり兵の数が、そのまま勝敗を決める。
馬上からそれを見渡し、レオニスは呆れたように息を吐いた。
「勝ち目がないとは、こういうことを言うのか」
隣に控えるダルフィードが、静かに答える。
「はい。勝ち目などありません」
迷いのない声だった。
「しかし」
眼鏡の奥の瞳が細くなる。
「王の『勝つ』という言葉を、現実にするために我々はいます」
レオニスは小さく笑った。
「そうだったな」
風が吹いた。
平原を渡る風は強く、無数の旗を鳴らす。
槍の穂先が鈍く光り、鎧が微かに軋む。
レオニスは馬を進めた。
兵の前へ。
剣はまだ抜かない。
ただ、戦列を見渡す。
緊張した顔。唇を噛む兵。拳を握りしめる若い騎士。
そのすべてを見たあとで、王は口を開いた。
「顔を上げろ」
声は大きくない。
だが、戦列の端まで届いた。
ざわめきが止まる。
「敵の数を見るな」
兵たちの視線が、ゆっくりと王へ集まる。
「お前たちは今、ヴァルディウス王国と戦う」
レオニスは遠くの軍勢を見た。
青い旗が無数に並び、まるで海のように広がっている。
「ヴァルディウスは強い」
静かな声。
「兵は多く、国は広い。そして奴らは、俺たちよりも戦争を知っている」
わずかな沈黙。
「だがな」
レオニスの声が低くなる。
「だからといって、奴らが俺たちより強いわけじゃない」
風が吹き抜ける。
王の外套が揺れた。
「この戦は」
レオニスはゆっくりと言う。
「国のための戦ではない」
兵たちが息を飲む。
「たった一人だ」
声がはっきりと響く。
「この国の、たった一人を助けるための戦だ」
ざわめきが広がる。
「負ければ、全部取られる。国も、誇りも」
レオニスは笑った。
「そして俺は、愚王として語り継がれるだろう」
兵を見渡す。
「だからこそ言う」
その瞬間。
剣が抜かれた。
鋼が空気を裂く。
「この戦いは」
剣先がヴァルディウスを指す。
「勝つ」
断言だった。
レオニスは馬を一歩進める。
「見てみろ。最前列にいるのは兵だ。ヴァルディウス王国。エルピアータ帝国。王が二人もいるくせに、最前列に立っているのは兵ばかり」
声が低く響く。
「国を背負う覚悟のない王に、俺たちが負ける道理がない」
兵たちの目が変わる。
「守るものがある者は折れない。守る場所がある者は逃げない。大切な人を悲しませたくない者は、最後まで立て」
剣が空を切る。風が鳴る。
「そして俺は」
レオニスは兵を見渡す。
「そんなお前たちの王だ」
沈黙が落ちた。
戦場が静まり返る。
次の言葉は、静かだった。
「安心しろ」
兵を見つめる。
「前を向けば、王がいる」
剣を掲げる。
「俺を目掛けて走れ! それが叶う限り、お前たちに敗北はない!」
声が戦場を震わせる。
そして。
「進め!!!」
王の声が、兵の胸を貫いた。
兵の雄叫びが集まり、平原のあらゆる音をかき消した。