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第5話
「再会の海斗」
ゆいなとの再会から数日後。
祐介は胸がずっとざわついていた。忘れた記憶、あふれ出す感情、そしてこれから会う「海斗」という存在。
――会った瞬間、自分はどんな顔をすればいいんだろう。
――自分は本当に、昔の“俺”に戻れるんだろうか。
そんな思いを抱えたまま、約束の日が来た。
夕方。
公園に到着すると、先に来ていたゆいなが大きく手を振っていた。
「おーい!祐介!」
彼女の隣には、一人の男がベンチに腰掛けている。
短く切りそろえられた髪、精悍な顔立ち、どこか落ち着き払った雰囲気。
それが海斗だった。
祐介が歩み寄ると、海斗は立ち上がり、真剣な目で祐介を見据えた。
数秒の沈黙。重い空気。
けれど――次の瞬間、海斗は少し笑って言った。
「……お前、全然変わってねぇな。」
その言葉に、祐介の胸の奥がじんと熱くなる。
記憶は曖昧なのに、懐かしさが込み上げてきた。
「久しぶり……だな。」
祐介は震える声で答えた。
海斗は小さくうなずき、祐介の肩を軽く叩いた。
「ゆいなから聞いた。記憶のことも、全部。」
「……あぁ。」
「でもよ、思い出せなくてもいいんだよ。お前が“今ここにいる”ってだけで、俺たちは嬉しいんだから。」
祐介は俯きながら、ゆっくりとその言葉を噛み締めた。
やがて3人はベンチに並んで座った。
懐かしい話をするゆいなと海斗。祐介はその声を聞きながら、記憶の断片を必死に手繰り寄せる。
笑い声。夏の夕暮れ。誰かと一緒に走った景色。
少しずつ少しずつ、ぼやけた画面のように映像が蘇る。
その中に、ひときわ強い輪郭で浮かぶ“少女の顔”があった。
――りあ。
自分の胸が高鳴るのを祐介は感じた。けれど、声には出さない。
ただ、心臓の鼓動が自分に問いかけてくる。
しばらくして、沈黙を破るように海斗が言った。
「なぁ祐介。」
「ん?」
「お前……ゆいなからも、りあちゃんからも好かれてたよな。」
祐介は一瞬、呼吸を忘れた。
海斗は真っ直ぐに祐介を見据えた。
そして、淡々と、それでもどこか優しい声で言った。
「んで、りあちゃんとお前、両思いだったし。」
夕暮れの空に、その言葉だけが重く響きわたった。
▶︎ 第6話へ続く