……紗月 (さつき) の回想と妄想から入ります……
その日学校が休みだった私は、巫女として朝から家 (神社) の手伝いをしていた。
午前中にやる仕事といっても、もっぱら境内のお掃除ばかり。
たまに授与所に呼ばれて、お札やお守りをお渡しするぐらいかな。
”夏越の祓” の神事は週はじめに終わっているので、今日は参拝者も少なくのんびりとしていた。
「紗月、ちょっと行ってくるからなぁ。何かあったら電話してくれ」
「うん、わかった。いってらっしゃーい」
お父さんは近くのホームセンターへ出かけていった。
最近、地震が多くなったから祭壇などを補強するための金具がいるのだとか。
さーて、お掃除のつづきを……
――ドクン!
心臓がはねたような感覚にとらわれた。
『え、なに? また地震!?』
そのわりにはスマホの地震警報は鳴らないし、いつまでたっても地面が揺れることもない。
「…………?」
なによ、脅かさないでよねぇ。
私は天を仰ぎながら文句をいった。
見上げれば、澄みきった青空が広がっており、
それを横切るように、すぅーと真っすぐに一本の飛行機雲が走っていた。
『今日はいい天気になりそうね~』
しばらく飛行機雲を観察したあと、目線を参道へともどした。
すると、鳥居の先にある石階段に男の人と一匹の白いわんちゃんが背を向けて座っているのが見えた。
『散歩の途中なのかな? そうだ! お茶席も設けてあるし、せっかくだからお茶を飲んでいってもらおう』
あぁ、びっくりした~。
まさか、外人さんだなんて思わないよぉ。それにかなりのイケメン。
お茶を飲むようにお誘いしたら、『まずはお参りからだろう』ってことで、一緒について境内を案内した。
すると、なんていうか……、すっごく日本人っぽいの。
拝礼する姿なんか亡くなったおじいちゃんにそっくり、すごくほっこりしちゃった。
それからお茶を出し、話を聞いてみたらびっくり。だって異世界から来たなんて言ってるし、なにそれー。
わたしの読んでたラノベの主人公みたいで興奮マックスだよぉ。キャー!
シロちゃんと異世界で転生して、その異世界からこっちの世界に転移してきた? それって今流行の異世界転移?
何言ってるのか良くわからないけど、とにかく凄いの!
それで行くあてもなく困ってたみたいで、ゲンさんとシロちゃんは、しばらくこの老松神社に逗留することになった。
………………
あれから、まだ一月も経っていないけど、私を取り巻く環境は大きく変わろうとしている。
イケメンのゲンさんに可愛いシロちゃん、そして何んといっても慶子 (けいこ) さんの存在が大きい。
あれで私ぐらいの孫がいるということだけど、全然そんな風には見えないよ。
だって、祥子 (しょうこ) おばさんよりも若い感じなんだもん。
祥子おばさん (45歳) は家のお父さんの姉で、子供は男子 (成人) が二人いる。
そうそう、このまえ慶子さんとカラオケに行ってきたんだけど、歌がすっごく上手いの! ついつい聞き惚れちゃった。
それに私の話もよく聞いてくれるの。すっごく優しくて、なんだかお母さんができたみたい……。
でも、今はライバルなの。
――恋の?
違う違う、ダンジョン探索のよ。
「どちらが先にゴブリン・キングを倒して10階層をクリアするか競争ね!」
慶子さんが冗談めかして言ったことだけど、
そんな途轍もない目標に向かって、ふたりでチャレンジ中なのです。
私は学校に通っているから少し出遅れた感はあるけれど、そこは若さで挽回するんだから!
そして、いきなり飛び込んできた異世界旅行。
海外旅行の経験もない私がだよ。
きゃ――――っ! バタバタバタバタ! (ベッドでバタ足)
馬車とか乗れるのかな。宮殿を見てみたいな。そして王子様。婚約破棄!?
きゃ――――っ! きゃ――――っ! きゃ――――――――――っ! バタバタバタバタバタバタ!
紗月の妄想は続いていくのであった……。
7月27日月曜日。
間近に迫った異世界 (サーメクス) 渡航に備え、
今日はダンジョン探索を休んで、昼からは買い物にあてている。
「お昼は一緒に食べましょう」と慶子も出てきていた。
ダンジョン探索を開始してからこれまで、二人をみっちりと鍛えてやりましたわー。
慶子はいよいよ8階層へ突入。
ホーンラビットコロシアムまであと少しのところまできている。
もう動きが老人のものではない。
参道の石階段も一つ飛ばしであがってくるしな。
顔も体つきも一段と若返えり、40代といっても通りそうだ。
本人はルンルン気分なのだが、『あまり目立つことはするんじゃないぞ!』と、しっかりクギを差しておいた。――やれやれ。
そして、もうひと方。
ほらほら紗月も降りてきなさい。
景色がいいからって屋根には登っちゃダメでしょ。猫じゃないんだから。
はぁ――っ、もう!
こんな時期は目立ったらダメなんだってばよ。
慶子がLv.8に、紗月はLv.4にと、この短期間で二人ともよく頑張ったとおもう。
それで紗月が1週間がんばって上げたステータスがこちら、
サツキ・シンリョウジ Lv.4
年齢 17
状態 通常
HP 22⁄22
MP 10⁄10
筋力 12
防御 10
魔防 9
敏捷 13
器用 10
知力 11
【スキル】 魔法適性(聖・火) 魔力操作(1)
【称号】 巫女、
【加護】 ユカリーナ・サーメクス
うん、いい感じで上がってるな。
コボルトやゴブリンとも単体なら問題なくさばけるようになったし、戦いには慣れてきたみたいだね。
槍術のスキルが生えたらフロアボス (5階層) に挑戦してもいいかも。
みんなのステイタスを一通り確認していたら、びっくり!
慶子の魔力操作が3になっているのだ。
(……これは)
茂 (しげる) さんと紗月は未だに1のままである。
3者とも同じ時期に女神さまから加護を授かっているというのに……。
みんなも頑張って訓練はしているようだから、これは才能の違いということなのだろうか?
シロをちらっと見やったが、『な~に?』と舌をだして尻尾をふっている。――可愛い。
昼までには、まだ時間があるな。
慶子に結界魔法を教えることにした。
この結界魔法というのは魔法の素養があれば誰でも使うことができるが、適性を持つものであれば幅広く強固な結界を展開することが可能になる。
ドーム型の結界を出して、パーティーみんなを守ったりできるのだ。
シロと慶子を呼ぶと、何故か紗月までが俺のそばに寄ってきた。
まあ、興味があるなら近くで見させておくか……。
って、だから近いから! 紗月の肩を両手で押しかえす。(汗)
まずは掌の上に10㎝の立方体を作る訓練だ。
「魔法は一にも二にもイメージだぞ。確りとイメージすることで維持できる時間や消費するMPに違いがでてくるからな」
最初はどのようにイメージを固めるのか、なかなか掴めないものだ。
そこで、手を繋いでイメージを流してやったり、一緒に魔法を発動させて練習していくのだ。
何回か魔法の発動を失敗したあとで、
「じゃあ、今度はシロと一緒にやってみて」
そう促してみた。
慶子は大きく深呼吸したあとシロの背中に左手をのせて、
「結界!」
すると、右掌に立方体の結界が形成されていた。
――成功だ。
結界魔法もしっかりと習得できたようだ。
あとは地道な訓練を重ね、出来ることを増やしていくしかない。ガンバレ!
慶子は回復魔法の適性も持っているが、こちらは怪我をしてないと魔法をかけたときの状態が確認できない。
なので、向こうへ渡ってから孤児院の子供たちを治療してもらうことにしよう。
外で遊びまわる子供たちは、どうしても生傷が絶えないからね。
さて、昼食の時間になったが。
今日はみんなで冷やし中華を作ることにした。
錦糸卵の係、野菜やハムを切る係、麺を茹でて氷水で冷やす係に別れて手早く調理していった。
そして、茂さんがネリネリしてくれた和辛子を器のへりに乗っけてみんなで頂く。
もちろんシロも一緒だ。
「「「「いただきまーす」」」」
はぁ――――っ、これは旨い!
ふんわり甘い錦糸卵、やわらかいチャーシュー、シャキシャキのきゅうり、つるつる麺の喉ごしも良い。
冷やし中華って、この季節には最高のご馳走だよね。
7月27日 (月曜日)
次の満月は7月29日
ダンジョン覚醒まで41日・101日
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