今朝も元気に散歩へ出かけ、木剣振って朝食を済ませた。
順調にいけば今晩か明日の晩にはサーメクスへ渡ることができるだろう。
しかしながら、俺は今『時間軸』について悩んでいた。
以前の話になるが、どこぞの帝国から召喚された勇者の工藤さんは、俺が転生した時点よりも遥か昔 (数百年前) に転移した事になっているからだ。
つまり、俺たちが 地球→サーメクス 間を転移した場合、時間のズレというのがどのように現れるか分からないのである。
最初は簡単に考えていた異世界転移だったが、地球とサーメクスでは次元が違っているかもしれない。浦島太郎のようになって、誰も知らない世界に帰るのは辛いものがある。かわいい盛りのハルに会いたいのだ。
まあ、今回は女神さまから依頼ということだから、何かしら手は打ってあると思いたいが……。
人間の身である俺からすれば、とても心配なのである。
んっ、そうか!
わからなければ、聞きに行けば良いじゃないか。
「シロおいでー!」
俺は玄関で靴を履きながらシロを呼んだ。
そして、シロと一緒に例の祠へ転移する。
女神像が安置されている祠に向かって片膝を突き、胸の前で手を組んだ。
目を閉じて、静かに祈りを捧げていると、
{新しいメールが届きました。インベントリーを開いて内容を確認してください}
例のガイダンスのような声が脳内に響いてきた。
おおっ、なんぞや?
俺はその場で立ちあがると、インベントリーのメニューを開いてみた。
すると、メニューの一番には【神メール】という新しい項目が増えている。
点滅してるのは新着メールがあるからだろうか?
Eメールのような感じだな。
とりあえずはポチッとな。神様メールを開いてみた。
スレッド表示の一番上に ”件名:帰還について” とある。
下の本文に目を移し読んでみると、
[ユカリーナです。心労をおかけしましたね。サーメクスへ戻られる際はこちらに渡った時点 (同じ日付け同じ時間) に戻れるよう設定しましたので何も問題は起こらないはずです。また何かあったらメールしますね]
[p.s お詫びとしてプレゼントを入れておきました。先史文明が残したものを再現したものです。どうぞお役立てください]
そっか、杞憂だったのか。
でも、同じ日付け同じ時間って……どゆこと?
俺たちが向こうを出た時点で時間を止めているのか?
それとも、こちらから戻る時に時空を曲げて日時を合わせているのか?
「………………???」
ダメだ、深く考えちゃいけないやつだ!
ありのままを受け入れる。それでいいじゃないか。
んっ、プレゼント。何かもらえるの?
え~と、この宝箱のアイコンかな。
――ポチっとな♪
すると宝箱が消えて、インベントリーの項目が1件増えた。
その項目には ”シルバーイヤリング” ×10 と出ている。
さっそく取り出して、――鑑定!
”シルバーイヤリング:多用途言語翻訳:アーティファクト”
おおっ、アーティファクト!
『再現した』とメールには書いてあるけど? コピーしたってこと……。
ま、いっか。
言語翻訳とは、これまたタイムリーだね。
……いや違うな。
『しっかり見届けてますよ』てことだろうな。
心配症なのかな?
いやいや、モニターするのは当然のことかな……。
安心してください、わかってますよ。 (とにかく明るい安○)
家に戻った俺は、買い物の計画を立てている。
と言っても、ほとんどの物は昨日までに終わらせており、あと大したものは残ってない。
本を何冊かと筆記具ぐらいだな。
この辺にある大きな書店か……。
天神にある紀○國屋書店にでも行ってみるか。
シロにはお留守番を頼み、俺は天神地下街の駐車場へ転移した。
地下街に通じる扉のところで光学迷彩は解除した。
それで書店にやってきたのだが、目的の本は3種類。
蒸留酒の作り方・和紙の作り方・植物図鑑だ。
店員さんに場所を尋ねながらも、1時間程で本は買い揃えることができた。
俺は買った本を紙袋に入ったまま背中のデイバッグに押し込むと、タイミングを見計って光学迷彩をはる。
さて、どこに転移しようかと迷ったが、神社から程近いホームセンターへ飛んだ。
マウスパッドを買ったり、慶子 (けいこ) とPUグローブを買いにきたりと、最近ちょくちょく利用しているのだ。
店のカゴに、ノート・レポート用紙・ボールペン・ソーラー電卓などを入れていく。
自転車コーナーではマウンテンバイクが欲しくなったが、こちらで乗るにしても目立つので止めておいた。おまわりさんに職質されるのは色々とまずいからね。
そういえば、以前読んだラノベだけど、オートバイを異世界に持ち込んだというのがあったなぁ……。
だけど俺にはシロがいるからね。スピードだって何倍も速いんだぞ~。
それに、ガソリンやメンテナンスにしても大変そうだしね。
ちょっとしたお土産に良いかなと100円ライターを50個大人買い。
ボードゲームやトランプ類は慶子たちの担当だな。
そういえば、クルーガー王国にオセロはまだ無かったよな~。
麻雀なんかも流行らせてみたいと、密かに企んでいたりする。
だって、インベントリーを持っている俺はイカサマし放題なんだよねぇ。フフフッ♪
子供におもちゃを買っていくのは、お父さんなら仕方がないよね。
ウォーターガンなんてどうだろう。メアリーが絶対よろこぶよな。家には温泉施設もあるし、みんなで水遊びするのも楽しそうだ。
これで必要なものは大体揃ったかな。
アイスまんじゅうを食べながらホームセンターから出てくると、道の向こう側には【ほか弁屋】の看板が見えている。
あっ、ほか弁屋かぁ~。
お昼に食べようかと、唐揚げ弁当を2つ買っていくことにした。
………………
弁当の袋をぶら下げて神社に向かって歩き出す。
今日は天気もいいし、このまま今夜にでも渡れそうだけど、みんなの準備はどうなんだろう?
参道の石階段を上り、鳥居を潜って境内へ入っていく。
すると何処にいたのか、シロが駆け寄ってきて俺を出迎えてくれた。
尻尾を振っているシロの頭を撫でながら、
「今日のお昼はほか弁屋の唐揚げ弁当だぞー」
俺が弁当の袋を掲げながら家の中へと入っていくと、それにつられるように、シロはちんちんしながら二足歩行でついてくる。
――まったく器用なやっちゃ。
それからは居間で唐揚げ弁当を食べ、インベントリー内のものを確認したり、パソコンで調べものをしたりして夕方まで過ごしていた。
今日の月の出は午後7時30分。
みんなの話を聞いてみないと何とも言えないが、今日サーメクスへ渡る可能性もあるとみて、ネットで調べてみたのだ。
向こう (サーメクス) からはいつでもこちら (地球) に来れるんだよなぁ。
こちらから渡る場合は満月の晩でないとダメなのか……。
ということはだ、
体内のMPがどうこうという問題ではなく、取り巻いてる大気中の魔素自体が足りないということになるのかな。
それに満月はどう作用するのだろうか。
月が満ちると魔素も満ちる?
月の光が魔素の活性化を促すのかもしれない。
それって狼男の伝説にも関係あったりするのかね~。
そういえば居たなぁ、家にも狼男が。
――狼には変化しないけど。(笑)
それから、今日の女神さまの話 (メール) だ。
あのメールの文からすると、こちら (地球) に来ている間は向う (サーメクス) の時間は止まっていることになる。
サラッと書いてあったけど、これって大変なことだよね。
長く生きる俺やシロにとっては、さほど大きな問題にはならないが、他の人間は気をつけてあげないとな。
何を? って、自分だけ年をとるのは嫌だよね。
まあ、旅行感覚で、1~2ヵ月程度なら問題にはならないけど。
サーメクスと地球を行き来できると知ったら、マリアベルはどうしたいだろう……。
元の家族のことは、あまり話そうとしないマリアベルだけど、生きて会えるのならやっぱり帰りたいよなぁ。
死は突然のことだったと思うけど、家族とは話したかっただろうし。
前に聞いた話だと、実家は東京にあるようだ。
本人の気持ち次第になるが、できたら連れて行ってあげたいな。
………………
いろいろと考えている間に、玄関の方がガヤガヤと騒がしくなっていた。
買い物へ出ていた二人が帰ってきたようだ。
7月28日 (火曜日)
次の満月は7月29日
ダンジョン覚醒まで40日・100日
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