コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
その夜。
本部の地下通路。リヴァイは、地下倉庫へ向かうイリスを待ち伏せていた。彼は、この数日間の「兵士としての規律」と「個人的な感情」の板挟みから解放されることを望んでいた。
イリスが、掃除道具を持って通路に差し掛かった瞬間、リヴァイは壁の影から出て、彼女の目の前に立ちはだかった。二人の距離は、ゼロに近い。
「…兵長。」イリスは、驚きで掃除道具を取り落としそうになったが、なんとか堪えた。
リヴァイは、腕組みを解き、両手をだらりと下げた。その姿勢は、彼が防御を完全に捨てていることを示していた。彼の瞳は、もはや「兵士」ではなく、**「所有欲と独占欲」**に満ちていた。
「話は、俺からする。」リヴァイは、ささやくような低い声で言った。その声には、一切の苛立ちや自己嫌悪はなかった。ただ、抑えきれない愛着だけが滲んでいた。
「あの夜のことだ。目を覚ました時、お前が俺の腕の中にいる。それを確認した瞬間、俺は…二度と手放したくない、と思った。」
彼は、飾り気のない、生の感情をそのまま言葉にした。
イリスは、緊張で唾を飲み込んだ。彼女は、彼の感情の直接さに圧倒されていた。
「兵長…それは…」
リヴァイは、イリスの言葉を遮った。彼は、一歩も動かずに、その場に縫い付けられたイリスの顎を、指先でそっと持ち上げた。
「逃げるな。目を逸らすな。」
彼の指先の冷たさが、イリスの皮膚に触れる。
「俺は、お前を突き放そうとした。反射的にな。兵士としての規律が、そうしろと命じたからだ。だが、俺の身体が、それを拒否した。」
リヴァイは、その顔を、イリスの顔にさらに近づけた。互いの息遣いが、はっきりと感じられる。
「お前の**『拒絶への微かな恐れ』**を見た時…俺は、お前の『脆さ』を、俺が壊すことを、絶対に許せなかった。」
彼は、言葉を選ばなかった。それは、**「俺が、お前を傷つけるくらいなら、自分が規律を破った方がマシだ」**という、究極の献身と所有欲の告白だった。
イリスは、もはや兵士としての応答を保てなかった。彼女の顔には、戸惑いと、リヴァイの剥き出しの愛情に触れた喜びが浮かんだ。
「リヴァイ…」イリスは、初めて彼の下の名前を呼んだ。
リヴァイの瞳に、激しい感情の波が湧き上がった。
「…イリス。」彼もまた、イリスの名を、命令ではなく、愛着をもって呼んだ。
「俺は…お前のことが好きだ。人類の存亡なんてクソ喰らえだ。俺の**『安堵』**は、お前の腕の中にある。もう、それを否定するつもりはねぇ。」
リヴァイは、そう告げると、イリスの掃除道具を持たない方の手を、力強く、しかし優しく掴んだ。
「俺は、お前を**『大切』に思っている。そして、俺の『安堵』**を壊すな。お前も、あの夜、俺の温もりを手放したくなかったんだろう?」
それは、質問ではなく、確認だった。リヴァイは、イリスが自分と同じ感情を抱いていることを、もう知っていた。
イリスは、涙ぐむような表情で、静かに頷いた。
「…はい。私は、リヴァイの隣にいることが、最も安全で、最も安らぐ場所だと感じました。」
彼女は、掴まれたリヴァイの手に、自分の手を重ねた。二人の手は、地下通路の薄暗闇の中で、固く結びつけられた。
リヴァイは、その瞬間に、「人類最強の兵士」という重い鎧を、完全に脱ぎ捨てた。彼は、イリスの手を引いて、自分の身体を彼女の全身に密着させるように抱き寄せた。
「…わかった。俺とお前は、一蓮托生だ。お前の**『脆さ』は、俺が守る。そして、俺の『安堵』**は、お前が守れ。」
その抱擁は、命令であり、誓いであり、そして、深い愛の表出だった。二人の間に、もはや兵士としての壁は存在しなかった。