テラーノベル
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カイは彩花を観察し続けた。彼女のリストに記された「死の日」が近づくにつれ、彼の心に奇妙な変化が起こり始めた。彼女が笑うとき、彼女が泣くとき、彼女が絵筆を握るたびに、カイの胸に小さな波が立った。それは、死神が持つべきではない感情だった。
ある夜、彩花がアパートの屋上で星空を見上げていたとき、カイは思わず姿を現した。人間の目には見えないはずの彼だったが、彩花は驚くべきことに彼の存在に気づいた。
「あなた、誰?」
彼女の声は弱々しかったが、どこか力強かった。カイは言葉に詰まった。死神が人間に話しかけられることなど、あり得なかった。
「ただの…通りすがりの者だ」と、カイは答えた。嘘だった。彼は彼女の死を待つ者だった。
その夜から、カイと彩花は奇妙な交流を始めた。カイは彼女のそばにいるために、死神としての力を抑え、人間の姿を装った。彼は自分を「カイ」と名乗り、彩花のアパートの近隣に住む画家だと偽った。彩花は彼を疑うことなく受け入れた。彼女は孤独だった。病によって友人も家族も遠ざかり、絵だけが彼女の心の支えだった。
カイは彩花の絵に心を奪われた。彼女の描く風景には、生きることへの渇望と、死への静かな諦めが混在していた。カイは彼女に尋ねた。
「なぜ、こんな絵を描くんだ?」
彩花は微笑んだ。「生きてる証を残したいから。私の命が消えても、この絵は誰かの心に残るかもしれないでしょ?」
その言葉は、カイの心に深く突き刺さった。死神である彼には、生きる意味も、残すものもなかった。だが、彩花の言葉は彼に「生きること」の美しさを教えてくれた。
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