マフラーとコートが手放せない季節。街は赤と緑で彩られていた。
コートのポケットに手を入れ、冷えた風になんとか耐える。
「サンタさん来るかな〜」
「え」
プレゼント何頼もうかな呟いている真冬に、思わず声が漏れた。真冬はまだサンタ信じてるのか。
ふと足を止める。
数歩先を歩いている真冬は鼻を赤くしながらクリスマスソングを歌っていた。
女っ気がない真冬でも、今年は彼女を作るのではないかと思っていた。真冬と出会って2年目の冬。また一緒に過ごせるとは思ってなかった。
「ん?どした陽向」
俺が立ち止まったことに気付いて真冬が振り返った。
「…いや、真冬はほんと元気よなと思って」
「陽向は名前の割に静かだよな」
「こんな寒かったら誰でも静かになるわ」
マフラーに顔を埋めながら言った。
「俺は“真冬”だからな。冬が俺の見せ場なの」
ドヤっとした顔を向けてきた。三日月形の目を見つめる。数秒見とれた後、ふっと体の力を抜いた。
「あっそ」
素手で足元の雪を掬う。手の熱が奪われていく。
両手で包み、雪玉を作った。
それを真冬目掛けて投げる。
「った!!」
「ははは!」
体勢を崩し、倒れ込んだ。
「ここ!ここめっちゃ痛い!陽向!」
「油断してるからだよ」
「はぁ〜?」
急いで立ち上がり、真冬も雪玉を作った。
俺へ投げてきた雪玉をひょいとかわす。
「どこに投げるかバレバレですよ真冬さ〜ん」
にやにやと笑ってやった。
それが合図となり、二人で雪合戦をした。
俺の作った雪玉の一つが真冬の顔に当たってしまった。
後ろへ大きく倒れ込んだ。
「真冬!?悪ぃ、大丈夫?」
真冬は両手で顔を押えている。
「…真冬?」
「な…っにすんだよ陽向!!!」
急に叫ばれたことに驚き、少し身を引いた。
「顔は反則だろ顔は!!」
キャンキャン吠える犬のようだと思いながら、文句を言っている真冬の話を聞き流していた。
真冬の頬が、頬の温度で溶けた雪で濡れていた。
拭おうと手を伸ばした。
「うひゃっ」
頬に触れた瞬間、真冬が声を上げた。
「…っはは!何今の声!聞いた?」
「おう」
笑みを浮かべる真冬の前で、俺の心臓はバクバクとなっていた。
サンタさん、友達の、なんて事ない声を聞いて、心臓が激しく鼓動する俺は、悪い子でしょうか。
「陽向手冷たっ!」
真冬が俺の手を取り、自分の頬へ当てた。
合法的に頬に触れることが出来る今を堪能しよう。
真冬の頬をむにぃっと伸ばした。幼い子供のように伸びた。
「なんらよ!」
「はは、ガキ」
怒った真冬に雪を掛けられたので、頬を解放してやった。
「ガキのお前に教えてやるけど、サンタはいねぇよ」
「知ってるわ。お子様な陽向くんのために嘘ついてやったんだよ」
感謝しろ、と付け足された。
宛もなく、片思い相手と雪道を散歩中。
今年のプレゼントはこれで十分だと思った。
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