テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
K side
るい様が、日に日に大人しくなっていく。
大人しい、というより静かだ。
ただ、考え事をしているだけなのだろうか。
それとも、俺が気に障ることをしてしまったのか…。
でも、もしそうだったら…時々微笑んでくれたり、寝る前に抱き締めてくれたりしないだろう。
言えない事の多いお立場だ。
軽率に声はかけられない。
もう少しだけ、るい様の様子を見よう…。
R side
K「おはようございます」
かのんが、柔らかな笑顔を浮かべながら部屋に入ってくる。
R「あぁ、おはよう」
その表情を見て、この仕事に慣れてきたんだなと感じる。
それはとても良い事なのだが…。
顔馴染みになった家臣と立ち話をしているのを時々見かける。
仕事以外の時間だから、問題ない。
だが、自分の心の底に何か嫌なものが積み重なっている気がした。
昼休憩の今、この時間も他の奴と話している。
いい加減、俺も慣れなければ…。
横目でかのんの姿を確認する。
会話を続けながら、かのんがふっと笑う。
その瞬間、そいつの肩に触れた。
R「…っ」
軽く触れただけだった。
なのに、心の中を掻き回されたような気がした。
R「……かのん」
K「…はい…っ…」
苛立った声に、 かのんが慌てて走って来る。
R「…稽古の道具、出しておいてくれ」
K「分かりました…っ」
足早にかのんが部屋を出ていく。
俺から触れることはいくらでもある。
だが、かのんからはーー?
きっと、帰還した夜だけだ。
傷付いて帰ってきた俺を、心配していただけなのかもしれない。
ーー夜。
そっとかのんの身体を抱き寄せた。
かのんが、伏し目がちに身を寄せてくる。
少し身体を離し、唇を重ねる。
いつの間にか、これが消灯前の習慣のようになっていた。
いつもなら、この後おやすみと言い、かのんが部屋を出ていく。
だが今日は、昼間の光景が頭を過ぎってしまった。
動揺した自分が情けない。
忘れたい。
そう思っている内に、口付けが深くなっていた。
K「ッ…ハァ…るい様…っ」
かのんも自分も呼吸が浅くなっていく。
同じ想いなのだろうか。
そう、思わされる。
だが最後には、身体を押し返されてしまう。
大事にしたい。
困らせたくない。
なのに、止めたくなかった。
逃れようとするかのんの後ろ頭を押さえる。
…チュッ…チュプ…ッ…
K「ッ…ハァ…んッ…」
かのんが口を固く結んだ。
だめだ、と態度で示してくる。
胸が苦しくて仕方ない。
それを誤魔化すように、かのんの首元に顔を埋める。
迷わず舌先で首筋を舐め上げた。
K「…ぁッ…ッ…!」
その瞬間、かのんの口から甘い声が微かに漏れ、 身体がビクンと震える。
K「るい…さま…ッ…ほんとに…だめ…」
さっきよりも強い力で押し返される。
どうして…。
真っ白になった頭の中に、あの夜の言葉が浮かんだ。
ーー世話役の仕事。
R「…ふっ…」
乾いた笑いがこぼれる。
R「……これも…仕事か…?」
かのんが一瞬、意味がわからないという顔をする。
そして、目を大きく見開いた。
K「…違います…っ」
縋るような目で見つめられた。
だが、俺はもう、目を合わせられなかった。
R「今日はもう…戻ってくれ」
K「でも…」
R「……一人になりたい」
部屋が少しの間、静まり返った。
かのんの呼吸が震えているのが聞こえてくる。
K「……わかりました……おやすみなさい……」
襖が静かに閉まる音がして、俺は頭を抱え込んだ。
何を焦っているのだろう。
かのんに苛立ちをぶつけて何になる。
R「…っ…」
益々惨めになっていく。
膝の上の手に、力がこもった。
K side
仕事…?
違う。
でも、そう思われても仕方なかった。
俺が中途半端に、るい様を受け入れたから。
るい様に迷惑をかけたくないと思いながら、自分が傷つくのも怖かった。
誤解を解きたい。
でもどうやって?
るい様に好きと伝えるのか。
いや……、そんなこと出来ない。
翌日、元の持ち場へ戻るよう伝えられた。
胸の奥が痛くなる 。
るい様に拒まれたと思うと、悲しくなった。
でも、仕方ない。
それ以外の言葉が見つからなかった。
全て自分のせいなのだから。
「おかえりーっ」
仲間が声をかけてくれる。
いつもと変わらない雰囲気だ。
「早かったな」
K「あ…うん…」
周りはるい様が回復したからだと思っている。
「元気ないなー!…あ!今夜城下町で飲むんだが、お前も来るか?」
K「えー…俺…酒は…」
昔、一度だけ失敗してから 全く飲んでない。
「大丈夫大丈夫、一杯だけ、な?」
K「うん…じゃあ…少しだけ」
仲間の中に入れば、心が軽くなるかもしれない。
そう思って行くことにした。
ーー夜。
少し遅れて飲み屋に到着すると、もう皆は出来上がり始めていた。
「あ!きたきた!!!」
大きな瓶が卓上に何本も置かれている。
腰を下ろすと、隣の奴が徐ろに俺の杯に注ぎ始めた。
「じゃあ、乾杯ー!」
恐る恐る口に近づける。
ゴクン…
K「…っ…」
あまり美味しくない…。
遅れて身体がじんわりと温まる感じがした。
杯が空くとすぐに酒を注がれる。
K「待っ…、今日は少しだけで…」
「いいから!」
そのやり取りを何度か繰り返す内に、頭も身体もぼーっとしてきた。
K「……あっつぅい…」
襟元をぐいっと掴んで緩める。
その時、るい様から預かっているお守りも一緒に引っ張ってしまった。
K「…ぁ……」
るい様が帰還した日、返そうとしたらまだ持っていて欲しいと言われた。
それからずっと預かっている。
でも…。
K「もぉ…かえさなくちゃ…」
立ち上がるが、 足元がふらついてしゃがみ込んでしまった。
「おい、大丈夫か〜?」
K「うん…帰るぅ…」
「あぁ、気をつけろよー」
皆酔っていて、こうなっている俺の事は誰も気にしていない。
ふぅ、と息を吐いてもう一度立ち上がる。
歩いてみると、危なっかしい千鳥足だった。
でも、るい様に大事なものをお返ししなきゃいけない。
明日でもいいのに、何故か今じゃなくてはいけないような気がした。
コメント
3件
ほんとに毎回毎回最高です😭👏✨るいさんの嫉妬がいいですねぇ🤭💖泥酔かのんはヤバいですねこれ😳💗色々すれ違って離ればなれになっちゃって胸が苦しいです😖🥲 いつも通知の中にさちこさんのお話あるとめっっちゃ嬉しいです笑ほんとにありがとうございます🥹💞 次のお話もお待ちしております😆︎💖
第17話、読ませていただきました…。るい様の「これも…仕事か…?」のところ、グッと胸が痛くなりました。それに対してかのんが「違います」と必死に否定するのに、目を合わせられなくなってしまう切なさ。お互い想い合っているのにすれ違うもどかしさが、靜かで丁寧な心理描写で綴られていて、とても引き込まれました。最後の酔った勢いでお守りを返しに行こうとする流れ、どうなるのか気になります…!さちこさんの書く繊細な距離感の変化が、いつも素敵です🌷
80