コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
宝像国ー
朝陽が昇る手前、牛頭馬頭は国王邸に侵入していた。
タタタタタタタッ。
ブシャッ、ブシャッ、ブシャッ!!
バタンッ。
気付かれないように警備兵達を次々に斬り、国王の寝室に向かった。
ズルッ、ズルッ、ズルッ。
床に倒れた兵士達を引き摺りながら、国王の寝室の前に到着する。
国王はイビキをかきながら、深い眠りに入っている様子だった。
キィィィ…。
牛頭馬頭はゆっくり、国王に近付き、鉄又を振り下ろした。
ブンッ!!
グシャッ!!
「ゔっ!?あっ、ぁあっ!!!」
「黙れ、黙って死んでくれ。」
ブンッ!!
叫び出しそうな国王を黙らすように、鉄又を何度も振り下ろした。
グシャッ!!
グシャッ!!
グシャッ!!
「はぁ、はぁ、はぁ…っ。」
荒くなった息を整え、牛頭馬頭は兵士の腰から剣を抜いた。
スッ。
動かなくなった国王に跨り、髪を掴み、剣の刃を首元に置く。
そして、思いっ切り剣を引いた。
ブシャッ!!
朝陽が登り始めた頃、宝像国の国王邸の中を走っていた。
タタタタタタタッ!!!
バンッ!!
百花と小桃が寝泊まりする部屋の扉を、白虎は乱暴に開ける。
「ちょ、ちょっと、何…?小桃!?どうしたの!?」
ベットで眠っていた百花は体を起こし、小桃の姿を見て驚いていた。
「百花!?お前、帰って来てたのか。今まで、どこにいた!?」
「そんな事よりも、小桃の手当が先でしょ!?ベットに寝かせて。」
「…。」
白虎は背中に乗せていた小桃を、ゆっくりベットに寝かせる。
百花は持って来た救急箱を開け、小桃の服を脱がし手当てを始めた。
「お嬢は、お前の事を探しに行ってこうなったんだ。百花、どこに行ってたんだ。」
「小桃と入れ違いになっちゃったみたいね。私が花の都を出た時に、小桃が行っちゃったのね。」
「違うな、百花。お前とはかなり、長い付き合いだ。百花の匂いが変わった事くらい、分からない筈がない。」
「へぇ。」
シュルッ、シュルッ。
消毒し終えた傷にガーゼを貼り、その上から包帯を巻く。
適当な服に着替えさせ、小桃に布団を掛ける。
「お前から、知らぬ男の匂いがする。」
「白虎、私が言った事を覚えてる?」
百花はそう言って、煙管を咥え、煙を吸い込む。
「小桃の事を頼むって。」
「お前、もしや…。」
ドタドダドタドタッ!!!
バンッ!!!
「小桃!!ちょっと、聞きたい事があるんだけど!!」
扉を乱暴に開け、部屋の中に入って来たのは三蔵だった。
「ちょっと、待て!!いきなり部屋に入る奴がいるか!!」
猪八戒が慌てて、三蔵の腕を引く。
「お前等…。お嬢は寝ておられるんだ!!!静かにせぬか!!!」
ビリビリビリッ!!
白虎は稲妻を纏いながら、三蔵を威嚇する。
「悪いな、三蔵が。どうしてもって、聞かねーからよ。寝てるなら、出直すわ。」
沙悟浄はそう言って、白虎に謝っていた。
「何、聞きたい事って。」
ムクッと体を起こした小桃は、頭を抑えながら三蔵達に視線を向ける。
「お嬢!!まだ、寝ていないといけません!!」
「うるさくて寝れないよ、白虎。何、三蔵。」
「悪いが、百花と白虎は席を外してくれ。」
「は?何を言ってるんだ、貴様は!!!」
三蔵の言葉を聞いた白虎は、大声を上げる。
「私達がいたら、駄目な話?」
「あぁ、2人には悪いけど…。」
「分かった。白虎、行くよ。」
「百花!?」
「良いから、行くよ。」
百花は嫌がる白虎を部屋から出し、廊下を歩いて行った。
「小桃、単刀直入に聞くけど…。経文を持ってるって、本当なのか?」
「誰から聞いたの。」
「俺達の旅の目的は、経文を集めて、天竺に行く事なんだ。昨日、哪吒から小桃が経文を持ってるって聞いたんだ。」
三蔵は、昨日晩の事を沙悟浄達に話をしていた。
そして、小桃に話を聞いてみようと言う事になり、
部屋に訪れていた。
「哪吒?あぁ、小桃に喧嘩売って来た女か。」
「その傷は…、哪吒と戦ったのか?」
「小桃が持ってる経文を奪いに来たの。渡すつもりは無いよ、アンタにも。この経文…、魔天経文(マテンキョウモン)は悟空に渡すんだから。」
小桃はそう言って、三蔵を少し睨み付けた。
*魔天経文 「魔」や「陰」を司り、「攻撃」に属する。*
「三蔵に渡しても一緒じゃないのか?そもそも、小桃と悟空の関係って…?」
「小桃と悟空は、500年前に会ってるの。須菩提祖師と共に旅をしていた悟空とね。」
猪八戒の問いに小桃は答える。
その言葉を聞いた三蔵達は、驚きを隠せなかった。
「滞在期間は短かったけど、悟空は妖怪から小桃を守ってくれたの。この経文は、須菩提祖師が小桃に託した物。いつか、悟空が花の都に来たら渡してくれって。それから500年間、ずっと守って来た。悟空に渡す為に。」
「須菩提祖師が!?小桃に何で、渡したんだ…?」
三蔵はそう言って、小桃に問い掛ける。
「小桃は、悟空を落とした奴等を許せない。あの人が、何で…、罪人として封じられなきゃいけなかったの…っ。小桃は、あの裁判の光景を忘れた事は、一度もない。」
「「…。」」
小桃の言葉を聞いた猪八戒と沙悟浄は、口を閉じる。
「天界人達は悟空を見て、物を投げ付けながら暴言を吐き、神達は悟空の言葉を聞かなかった。悟空が、須菩提祖師を殺したなんて、有り得ない事なのにっ。あの人の心が壊れる瞬間を、黙って見るしか無かった…。」
小桃は思い出すように、目を閉じる。
須菩提祖師が殺され、悟空が罪人として裁かれると聞いた小桃は、白虎の背に跨り、天界に向かった。
空を登り、天界に到着した小桃と白虎は、裁判場に向かった。
だが、小桃が見た裁判場の光景は酷いものだった。
悟空を見て嘲笑い、物やゴミを投げ、誰1人として悟空の言葉に耳を傾けなかった。
小桃はその時から、神や天界人を嫌った。
そして、悟空を陥れた張本人達の事を憎んだ。
「小桃も、あの裁判を見ていたのか。あれは、本当に酷いものだった。」
「見てた…って、沙悟浄も見ていたの。」
「あぁ、俺と猪八戒は元は天界人だった。」
「っ!!」
カチャッ…。
スッ!!
小桃は刀を抜き、沙悟浄に刀を向ける。
「ちょ、小桃!?何してんの!?」
突然の小桃の行動を見て、三蔵は止めに入る。
「お前等も、悟空を嘲笑ってたの。」
「違うよ、小桃。俺と沙悟浄は、毘沙門天に口を出して、下界に落とされたんだ。今は、半妖として生きてるけどね。」
「口を出した…って、悟空の味方をしたって事?」
「あぁ、俺達も悟空がやったとは思ってないよ。毘
沙門天と牛魔王が仕組んだ事も知ってる。」
猪八戒と沙悟浄の言葉を聞いた小桃は、刀を下ろした。
「ごめんなさい。」
「良いって。小桃ちゃんが如何に、悟空の事を好きか分かったよ。」
沙悟浄は軽く笑いながら、小桃の行動を許した。
「…。だから、経文は渡せないの。」
「分かった。俺達は無理矢理、小桃から奪おうとは
思ってないよ。ありがとう、話してくれて。」
三蔵がそう言うと、廊下から悲鳴声が聞こえて来た。
「キャァァァァァ!!」
「っ!?な、何だ!?」
「外に出てみようぜ。」
バンッ!!
三蔵と猪八戒は部屋から出ると、国王の寝室の前で使用人達が集まっていた。
2人は使用人達の所へ行き、声を掛けた。
「どうしたんだ?」
「さ、三蔵様っ!!こ、国王様がっ!!」
血生臭い匂いと甘い香りが、三蔵の鼻を通った。
「ちょっと、退いてくれ。」
「あ、あの??」
「良いから、退いてくれ。」
三蔵は使用人達を退けさせ、国王の寝室に入る。
そこには首のない国王の死体と、兵士達の死体が転がっていた。
血生臭い匂いが吐き気を誘う。
「殺されたのか?この妖気の濃さ…、ついさっきか。」
「三蔵、この妖気…。鈴玉のか。」
「でも、何の目的で…。国王を殺したんだ?」
「嫌な予感がすんな…。」
三蔵と猪八戒が話していると、使用人達が話し出した。
「み、見て!!そ、空が…っ。」
「紫色になって行ってる?」
「おい、あれ見ろ!!!」
ドンドンドンドンドンドンッ!!
太鼓の鳴る音が、空の方が聞こえて来た。
三蔵と猪八戒は慌てて、部屋の外に出て見ると異様な光景が広がっていた。
空一面に広がる紫色、大量の朧車に乗った妖に太鼓を叩く鳥の妖怪の姿が、空を覆い尽くしていた。
「何だよ…、これは…っ。」
「妖が乗り込んで来たんだろ。」
そう言ったのは、百花だった。
「宝像国に妖は入って来れないように、結界を張ってた。その結界が、美猿王が解いちゃったみたいね。」
「美猿王が!?」
「花の都にも、妖達が乗り込んで来てる。2人の大妖怪が戦を始める気よ。」
「三蔵さん!!!」
百花の言葉の後に、黒風の大きな声が聞こえた。
「黒風!?それに、陽春と緑来も!?どうして、ここにいんだ!?」
「アンタ等に用があったのよ。それよりも頭は?一緒じゃない訳?」
陽春はそう言って、三蔵の問いに答える。
カツカツカツ。
「懐かしい妖気がすると思ったら…、お前等どうした。」
「あ、頭!!って…。何で、お姫様抱っこしてるの!?」
陽春は沙悟浄に指を指しながら、叫んた。
何故なら、沙悟浄は小桃を抱き上げ、歩いて来ていたからだ。
「え?あぁ、動けないって言うから運んで来た。」
「スゥ…、スゥ…。」
小桃は沙悟浄の腕の中で、小さな寝息を立てて眠っていた。
「それよりも、俺達に用って何だ?急ぎの用なんだろ?」
「は、はい。皆さん、今からここは…。大きな戦場になります、美猿王と牛鬼がやり合います。僕は、皆さんにいち早く宝像国から出て欲しいと言いに…。」
沙悟浄の問いに黒風は答えた時だった。
「それは無理だろ。」
「え、え!?あ、貴方は…?どう言う事ですか?」
「出れないように結界が張られてる。私等の事も消すつもりなんじゃない。どの道、私等は戦うか死ぬか選ばないといけない。」
百花の言葉は、この場に居る者達に重くのし掛かる。
「我はお嬢を守る為に戦うまでだ。お前等はどうにかして、ここを出ろ。お嬢を我の背中に乗せよ、沙悟浄とやら。」
「分かったよ。」
沙悟浄は優しく白虎の背中に、小桃を下ろす。
「三蔵、どうすんだ。残るか?出るか?」
「猪八戒、俺は悟空を取り戻す。」
「は、はぁ!?アンタ、正気なの?」
三蔵の言葉を聞いた陽春は、思わずギョッとしてしまう。
「本気に決まってるだろ。悟空は俺達の仲間だ、仲間の体で好き勝手させてたまるか。良い加減、美猿王には悟空を返してもらわねーと。」
「美猿王を止める事が、悟空を取り戻すチャンスになるだろうからな。」
三蔵と沙悟浄の言葉を聞いた猪八戒は、声を出す。
「まぁ、最初から俺達は出るつもりはねーよ。俺達は、4人で三蔵一行だからなぁ。そうだろ?三蔵、沙悟浄。」
「三蔵さん達なら、そう言うと思ってました。僕達も手伝うつもりで来ました。悟空さんを取り戻しに。」
猪八戒の言葉を聞き、黒風も言葉を吐く。
ただ、その様子を陽春と緑来は黙って見つめている。
2人の容姿を不思議に思った沙悟浄は、ジッと視線を送る。
美猿王は、朧車に乗り宝像国に到着していた。
空を覆い尽くしていた妖達は、美猿王が呼んだ妖怪達だった。
「兄者、他所の女と何かしたでしょ。」
「何もしてないけど?」
「嘘!!兄者から知らない女の匂いがするんだもん!!嘘だ、嘘だ!!」
邪の言葉を聞いた天は、口を閉じる。
そして、ポロポロと涙を流し始めた。
「だ、だって、兄者が…。構ってくれないんだもん!!」
「おいおい、ちゃんと構ってるだろ?」
「他の女の事を考えてる!!兄者の事は何でも分かる!!」
「あぁ、良い餌になりそうだなって思っただけだ。」
天の涙を指で掬いながら、邪は言葉を続ける。
「餌って、何?」
「さっき、毘沙門天側の女がいてね。利用価値がありそうだったから、声を掛けたんだ。ただ、それだけだ。僕は天以外に可愛がる女はいないよ。」
「兄者…、ごめんなさい。」
「良いよ、天も椿って野郎を喰って、お腹が膨れたか?」
「うん!!腹八分目って、所かな。」
ゴロンッ。
天はそう言って、邪の膝に頭を乗せる。
「邪よ、お前は昔から天にだけは、甘いな。」
酒を飲みながら、美猿王は2人に視線を向ける。
「えぇ、妹ですからね。五月蝿くて、すみません。」
「構わん。お前等には、存分に暴れて貰うからな。それまでは、休め。」
「楽しそうですね、王。」
邪は、美猿王の持っていた空のグラスに酒を注ぐ。
トプトプトプ…。
「牛鬼を殺し、経文を手に入れると思うと、心が踊るものだ。」
「王、1つ聞きたい事があるのですが。」
「言ってみろ。」
「力の半分も取り戻されていませんよね?」
美猿王は酒を飲み干し、言葉を吐く。
「あぁ、今の俺は完全に力を取り戻した訳ではない。須菩提祖師と言う爺さんに名前を付けられ、一
時的に封じられてしまった。それから、これだ。」
キンッ。
そう言って、緊箍児(キンコジ)を指で弾く。
「これが厄介でな。腕を斬り落としても、戻って来る。」
「それは…、何ですか?見た所、普通の金の腕輪のように見えますが。」
「こればっかりは仕組みが分からん。だからこそ、お前等が必要だ。邪、俺の役に立てよ。」
「僕達は、貴方だから付いて来ている。王を失望させない働きをしますよ。」
「丁。」
美猿王達の乗ってる朧車の上に、鎌を持った丁が座っていた。
「ハッ、美猿王。」
「お前等も同様だ。俺の役に立つは働きをしろ。」
「御意。」
「まずは、こちらに飛んで来てるゴミを片付けろ。」
スッ。
カァ、カァ、カァ、カァ、カァ、カァ!!
バサバサバサバサ!!
丁は鎌を構え、飛んで来ているカラスを睨み付ける。
「蹴散らす。」
ブンッ!!
そう言って、大きく鎌を振り上げた。