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世界が終わったあと、
何もなかった。
光もなく、闇もなく、
時間すら、凍りついたかのようだった。
ただ、彼らの愛の残響だけが、
まだその「無」の中心で脈を打っていた。
——セラフィエルの光。
——リシアの闇。
——ネレイアの祈り。
それらは区別を失い、
静かに、混ざり合っていく。
やがて、
無の底から微かな“息”が生まれた。
それは言葉でも、音でもない。
けれど、確かに“生”の気配だった。
灰のような粒子が、
静かに宙を舞う。
そこに、ひとつの“核”が芽吹いた。
それは、かつてセラフィエルが差し出した天の心臓の残滓。
それを抱いたリシアの魂の破片が、
新しい形を得て融合する。
——愛が、世界を焼き、そして種となった。
微光が広がる。
暗黒の海の中で、それはまるで朝のように揺らめいていた。
その光から、生まれた“存在”がいた。
少女とも、神ともつかぬ輪郭。
彼女の瞳は、金でも黒でもなく、
黎明のような淡い白桃色に輝いていた。
彼女は言葉を知らなかった。
けれど、心が語るままに呟いた。
「……ここは、始まりの場所?」
彼女の声が響くたび、
凍りついた世界がわずかに震えた。
そこに、誰の影もない。
けれど、風が流れ、音が戻り、
ひとつ、またひとつと“形”が生まれていく。
大地が息を吹き、
海が溶け、
空が開いた。
——再誕。
それは“創造”とは違う。
かつての世界の焼け跡から、
新しい“意思”が芽吹く瞬間だった。
少女は掌を見つめた。
そこには、金でも黒でもない柔らかな光が宿っていた。
「わたしは……誰?」
誰も答えない。
だが、胸の奥に微かな声が囁く。
セラフィエルの声とも、リシアの声とも違う。
けれど、そのどちらの温もりも確かに感じる。
——「お前は、私たちの“選択”だ。」
少女は目を閉じた。
涙が一粒、頬を滑る。
それは悲しみではなく、祝福のように淡かった。
やがて、彼女は歩き出す。
灰の中を、裸足のまま、黎明の方角へ。
遠くで、世界の鼓動が再び鳴り始める。
空にはまだ太陽は昇っていない。
けれど、その地平線の果てに、
ほんの一筋の“曙光”が走った。
その光は誰のものでもなく、
誰のためでもなかった。
——ただ、愛の果てに残された“祈り”そのものだった。
少女は微笑む。
「ありがとう。あなたたちがくれた命で、わたしは世界を創る。」
その声が、最初の風となり、
世界を満たした。
そしてその日、
—新しい“曙の女神”—が誕生した。
名は、まだない。
だが、彼女の存在そのものが、
愛の再定義だった。
光と闇が、初めて手を取り合った瞬間。
そこに、—神話の“夜明け”—が訪れた。