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「ねぇ、どう?」
馬車に乗り込む前に、リディアはスカートを両手で広げながら回って見せた。昨日は地味なドレスで失敗したので、今日は思い切って平民の娘の服をエマに頼んだ。扮装しているようで、少し気分が高揚する。
「どうって、何が?」
「何って、何時もと違うでしょう⁉︎」
その言葉にディオンは訝し気な表情でリディアを、頭からつま先までゆっくりと見遣る。
「……」
「どう?」
「いや、何時も通りの馬鹿面だけど」
「最低‼︎」
リディアはディオンの頬を平手打ちして、怒りながら先に馬車に乗り込んだ。叩かれたディオンも、不満気に頬を押さえながら後を追う。
「お前さ、大好きなお兄様の頬を叩くとか何事だよ」
「誰が、何時、何処で、私が、ディオンを、大好きなんて言った訳⁉︎」
「いや、言わなくても分かるよ。だってお前は俺の事、好きだろう?」
余裕たっぷりの笑みを浮かべ、真っ直ぐにリディアを見遣る。視線が重なり、思わず頬を染めるとあからさまに目を逸らした。
「莫迦っじゃないの‼︎」
「はいはい。素直じゃないな。本当、可愛くないよね。そんなんじゃ、嫁の貰い手はやっぱりないな」
「う、煩いっ」
痛い所を突かれて、それ以上反論出来ない。自分でも可愛くないのなんて分かっている。それに今は良いが、何時迄も兄に甘えている訳にはいかない事も。
(ちゃんと、自分の嫁ぎ先を探さないと……)
ディオンだって何れ、妻を迎えなくてはならない。そんな時、何時迄も行き遅れの妹が実家にいたら重荷になってしまう。相手側も良く思わない筈だ。
(ディオンが、結婚ね……)
兄の隣に並ぶ女性はどんな人なんだろうか……。優しくて、器量も良くて、勿論家柄も良いだろう。品があって賢く、誰が見ても淑女の鑑と呼べる、そんな女性が兄には相応しい。
(自分とは真逆だわ……)
リディアは唇を噛んだ。何故か分からない、でも悔しくて悲しくて、苦しい……。
「リディア」
不意に名前を呼ばれた瞬間、身体がふわりと浮いた。
「えっ、ちょっと⁉︎」
ディオンに持ち上げられたと気付いた時には、既に兄の膝の上に座っていた。突然の事に目を見張る。
「また、お尻痛くなっちゃうからね。優しいお兄様がクッションになってあげるよ」
「べ別に、大丈夫だから! 下ろしてよ! 子供じゃないんだから!」
子供扱いされていると思うと、無性に腹が立った。リディアはディオンの膝の上で暴れる。
「大人しくしなさい。危ないだろう」
「ゔ……」
反射的にリディアは止まった。と言うか原因は貴方なんですが⁉︎ と思いつつも、長年染み付いたものは今更直りそうにない。
ディオンは、大人しくなったリディアをギュッと抱き締めると、そのまま目を伏せた。
「ちょっ、と……」
「着くまで……少し、寝かせてよ……」
文句を言おうとするが、本当に眠ってしまったディオンに口を噤む。そう言えばまだ病み上がりだった。仕方がない。少し寝かせてあげるか、とリディアは大人しく抱っこされる事にした。