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ハロー、統合宇宙開発局の窓際職員だったジョン=ケラーだ。
私が異星人、ティナと交信して数日間はまさに激動だったよ。
統合宇宙開発局は上から下まで大騒ぎだし、報告を受けた政府もまた大騒ぎになった。
直ぐに極秘扱いになったが、初動が遅れたな。こんな前代未聞のスクープは誰がやったか知らんがメディアにリークされ、更にインターネット上にバラ撒かれたようだ。いやはや、耳の早い人間はどこにでも居るものだね。怖いなぁ。
さて、ここで問題になったのは最初の受信からしばらく私一人で対応して誰も上に報告しなかった件だ。まあ、私が報告して無視されたのが真相なのだがね。
当然あの若い上司は焦ったよ。彼は私に、制止を振り切って私が独断で行ったことにしろと言ったよ。
つまり、罪を擦り付けてきたのだ。冗談ではない。
これまで散々冷遇されてきたのだ。何の恩義もないのに、そんな真似をする道理もない。当然私は監査官にありのままをぶちまけた。
ついでに日頃の冷遇っぷりも暴露してやった。
この問題はティナのメッセージにある私以外とはやり取りをしないと言う文章で更に大事になった。要は、異星人に不信感抱かせた可能性が高いことを示しているのだ。大問題だな。
結果、若い上司を含めて私の報告を無視した連中は軒並み左遷される事になった。ザマァミロ、だな。ティナ様々だよ。
ここまでだったら奇跡を神に、いやティナに感謝しただろう。長年の鬱々とした気分が少し晴れたようなものだからね。だが現実は非情である。
異星人との接触を期に、政府の中に専門機関である異星人対策室が設立された。異星人問題に対して適切な助言を政府に行い、問題の最前線に立つことが目的なのだが……。
なにがどう間違ったのか、私が初代室長に選ばれたことである。最初に断言しておくが、私は小市民である。
ハリウッドスターを遠目に見る機会すらなく、まして政府の人間など関わりを持ったこともない。精々役場の役人くらいか?
そんな私が異星人問題の第一人者等と煽てられて室長に抜擢されたのだから堪らない。
当たり前のようにホワイトハウスの重要な会議に参加させられるし、ホワイトハウスの側に事務所まで用意される始末。
しかも配属された者達は私を追い抜いていった天才・秀才達なのだ。
……ここ数日は胃痛が収まらず、胃薬が親友になりつつある。どうしてこうなったのだ?叶うならば頭を抱えて深いため息を吐きたいくらいだ。
「ケラー室長?」
だが、そう言うわけにはいかん。大統領からの意見を請われたのだ。何か言わねば私は破滅である。
「直接メッセージをやり取りさせていただいた者として、友好的な彼女とはより良い関係を築くべきであると考えます」
「室長はエイリアンと対話をしたつもりかね?」
「将軍、お言葉ですが先ずは偏見を無くした方がよろしいかと。先ほども先生方が仰られましたように、我々と彼らには悲しい程の差があります。とても太刀打ちできません」
「確かに太刀打ちできない技術格差があるのだろう。しかし我々は国と国民を守る盾だ。常に最悪を想定する必要があるのだよ」
軍人さん達の意見も分からないではない。常に最悪を想定するか。確かに今回の出来事は前代未聞だ。SF映画が現実に起きたようなものだし、私だってまるで夢を見ているような心地なのだ。
「これをご覧ください。ティナがメッセージと共に送ってきたデータです」
私がチップをプロジェクターに差し込むと、立体的な銀河が映し出された。いや、驚いたよ。こちらの規格に合わせたデータを送り付けてきたんだからね。
ただ、このデータを再生できるのは一度限りだ。まあ確かに友好の証ではあるのだろうが、自らの存在を堂々と明かすのは問題があるのだろう。
一度再生したら内蔵されているデータは完全に廃棄されると書かれていた。
……記述された文章は半ば機械的で、ティナが書いたとは思えない。彼女以外にも居るのだろうな。
「室長、これは?」
「はい、大統領閣下。これは我々が住まう天の川銀河です。我々の太陽系はここ」
レーザーポインターで示してみる。
「そして、こちらがティナの言う惑星アードの位置です」
銀河の反対側だな。
「これは……」
科学者の先生方も顔をひきつらせているな。いや、私もか。
「天の川銀河は直径が10万から12万光年だと推定されております。アードは銀河の反対側、約10万光年の位置にあります。中心部には巨大なブラックホールいて座A*があります。その影響を避けるために迂回するとなれば、更に距離は広がります」
ううむ、自分で言うのもなんだが途方もない距離だな。
皆が固まる中、科学者の一人が発言した。
「参考までに、太陽系の最も近くにある恒星アルファ・ケンタウリまで4.5光年となります。光の速さで4年半掛かる距離ですな。そして、我々にその場所へたどり着く技術はありません。まだ理論段階の話であります」
うむ、皆さん絶句しているな。よしよし、私個人としては異星人と友好関係を育みたいのだ。それこそ宇宙のロマンだからね。
「結論から申し上げれば、我々は異星人の来訪を待ち機嫌を損ねぬよう最大限の配慮をしなければいけません。でなければ、地球は滅びるでしょう」
「それほどの格差がある、と言うことかね?」
「はい、大統領閣下。どうか誠意ある対応を。メッセージのやり取りでしかありませんが、私は彼女に親愛を感じました。上手く事を運べば、我々人類にとって素晴らしいものが手に入るでしょう。相手は遥かに優れた技術を持つのです。技術供与、あるいは品物一つでも解析できれば……」
「科学の飛躍的な発展が期待できます。また交流を我が国が主導すれば、他国への牽制にもなりますな」
よしよし、賛同してくれる人が多いな。正直心臓はバクバクだし冷や汗で背中はびっしょり。そして胃が痛い。早く終わって欲しい。
「分かった。将軍達の懸念も理解できる。相手は完全に未知の存在ではあるが、先ずは友好的な歓迎を行おう。国民にはまだ伏せておいてくれ。来訪されたら記者会見を開いてお披露目といこう。もちろん相手が許可すれば、だがね」
この日、少なくともアメリカ合衆国は歓迎しつつ動向を探ると言う方針が決まる。
ジョン=ケラーと言う中年男性の精神面と肉体に多大なダメージを与えたのは間違いなく、薄くなっていた毛根が更に死滅して育毛剤を買う羽目になるのである。