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僕は、アンナの部屋を出て、自室に戻ろうと渡り廊下を歩いていた。中庭を散歩していたのかジョージアが寮に向かって歩いているのを発見したので、思わず渡り廊下から声をかけてしまう。
「ジョージア様、今、お帰りですか?」
突然声をかけた僕に驚いたのか、ジョージアは声のする方へと視線を向け声の主を探していたので、手を振っておく。気づいてくれたのか、ばっちっと目があった。いつかアンナが言ったようにジョージアは、綺麗な蜂蜜色の瞳をしている。見惚れてしまいそうになるのを微笑んで誤魔化した。
「今から、そっちに行きますから、少し待っててください!」
頷いてくれたため、僕はそこから駆けていく。合流する直前に、ふうっと一息入れて息を整えた。
「お待たせしました。少しお話したいことがあるのですが、お時間よろしいですか?」
「もちろんだよ。部屋を用意しよう。ついてきてくれ」
そう言って、前を歩くので、僕はついていく。すると、振り返り隣へと指し示す。心得たと隣を歩くことにした。
「そのよそよそしい敬語もいらないよ。同じ年なのだし、普通に話してくれてかまわない」
妹の入学から1年が経ち、僕らは『アンナの話』をきっかけに少しずつ話をするようになったのだが、僕はいまだにジョージアに対して敬語だった。特にこうしてくれと言われていなかったので、ずっと敬語で話していたのだが、どうも堅苦しいのは嫌だそうだ。
ジョージアの部屋に通され、まずは、雑談を始める。これは、相手がどんな状態なのか状況判断するためだ。機嫌が悪かったり、体調がすぐれなかった場合、日程だけ決めてお暇するつもりだった。
「ジョージア様は中庭に? 」
そういった瞬間、何がまずかったのか睨まれる。少し考えて、敬称がいけなかったのかと反省する。
「チューリップという花が見ごろだと先ほど妹が話していたけど、散歩に行ってたの?」
少々馴れ馴れしいかと思ったが、及第点のようだ。侍女にお茶を用意してもらい、茶菓子が出てきたので一口ずつ口にしている。ほんのり甘いクッキーだった。甘いのがあまり好きでないらしく、ジョージアらしい茶菓子だ。
「あぁ、そうだ。ローズディアやトワイスで咲くものではないらしい。ここの庭師が特別に取り寄せたらしくって、見に行ってきたところ」
ジョージアが他国の花に興味があるとは、あまり信じられなかった。
「花好き?」
「……あぁ、そうだな。割と花は好きだ。特に興味が惹かれるものがないし、趣味らしい趣味もないからなぁ」
「そうなんだ? 意外といえば意外かな?」
「花は何も言わないからな。ただ、そこに咲いているだけだ。まぁ、庭師が手入れをしっかりしないと、綺麗なものは咲かないだろうけど。他国には、太陽に向かって咲く大輪の花もあると聞いているよ。変わった花に興味があるんだ」
「変わった花ね」
僕は含んだ言い方をしてしまったが、何も感じなかったようで、ジョージアは優しく微笑んでいた。
「あぁ、そうだ。花は花でも、我が国が誇る薔薇は格別だと思っているよ。その中でも青薔薇は別格とね」
「青薔薇とは、そのままの意味? 技術的に青い薔薇は難しいという話を聞いたことあるけど、ローズディアでは、完成しているのか?」
ジョージアは、ふっと不敵に笑う。まさに青薔薇が似合いそうな貴公子だ。
女の子たちが騒がないわけないよなぁ……。本当にアンナはどんあ相手を結婚相手にと望んだかわかっているのだろうか? 男の僕でも、どきどきしてしまうんだぞ?
心臓が脈打つのを「静まれ……静まれ……」と心の中で何度も呟く。
「我が国では、すでに完成している。他国には輸出されていないが、我が家の庭にもあったはずだよ」
ここの中庭は、季節折々の花が咲いている。僕もたまに気分転換を兼ねて中庭をぶらついているのだが、まだ、青薔薇は見たことがなかった。それこそ、去年あたりから他国の花も輸入して咲かせることもあるのだが……、未だにだ。
「まだ、青薔薇は機密性が高いから、もうしばらくは、他国には出回らないはず」
僕の表情を呼んだのか、先に答えを言われてしまう。
「是非とも、一度お目にかかりたいものだ」
「サシャも興味が?」
「さぁ、どうだろう?」
苦笑いに似た複雑な笑顔を向け、困惑させてしまった。母がこの様子を見ていたら、きっと、嘆いたことだろう。
「そうそう。我が家にも珍しい花があるのだけど、ぜひ、ジョージアに見ていただきたいと思って。我が家に招待したいのだが、どうだろう? 空いている日取りを聞いてもかまわないだろうか?」
ジョージアに訝しまれるが、僕はめげない。ここで、めげると、アンナに僕の将来の奥さんを紹介してもらえないから。話の切り口が悪かっただけ……と、引き下がることだけはしない。ここで諦めるとアンナに叱られるだろうし。なにより、寂しい卒業式になるのは必然だ。
何か気が付いてくれたのか、ジョージアが話を進めてくれる。先程、アンナと日程調整をするために決めた日を提示したところ、「いつでも大丈夫だ」と返事をもらう。
「公爵家にはないと思う珍しい花だよ。これが、なかなか手の焼く代物でね? でも、そこも含めてとても可愛いんだ。是非とも、ジョージアに見てほしいと思ってね!」
僕は、『花』の名前は言わない。ジョージアもまさか、アンナリーゼだとは思っていないだろう。
手の焼く代物なんて、本人が聞いたら、僕はしばらく再起不能にさせられてしまうに違いないが、きっとジョージアは、それが何だったとしても黙っていてくれるだろうと願う。
「それじゃあ、その日程のどこかで招待状を送るよ。楽しみにしていて!」
話はそれだけだったが、アンナの話を少ししてから、ジョージアの自室から退出することにした。