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#漫画原作希望
正式な依頼を受ける前に、ネコロマンサーとしての資質を見たいと、マキネが言い出した。
しぶしぶ承諾したリクトは、マキネと共に某河川敷へと来ていた。
犬の散歩をする人。
ジョギングをする人。ちらほらと人影が目に入る。
降霊儀式を目撃されてはならないというルールがあるため、比較的“人目につき易い”場所をリクトが指定したのだった。
ひと通り河原の清掃を済ませると、リクトは降霊の準備を進める。
霊の媒介に使うぬいぐるみ、絶滅生物図鑑などを広げたレジャーシートの上に並べた。
「ガングロギャルとか、でっかいビーバーとか呼ばねぇでくだせぇよ!?」
今日もきょうとて縄で縛られたマキネは、恨めしそうな顔でリクトを見上げた。
以前お試しで召喚したビーバーが去ったあと、びしょ濡れになった部屋の掃除を手伝わされたことを根に持っているらしい。
ちなみに、マキネを簀巻きにするか、縄で縛るかはリクトの気分次第だ。
「問題ない」
とは言ってみたが、変な動物が現れることをリクトは期待していた。
絶滅してしまった動物など滅多にお目にかかれないからだ。
若干目が泳いでしまった気がしたリクトは、マキネに悟られないように顔を背ける。
数種の図鑑の中から絶滅生物図鑑を手に取った。
パラパラとページをめくる。
そっとまぶたを閉じ、適当なページに指を差し込む。
目を開き、図鑑の挿絵を確認する。
なにかイヤな予感がするが、まあ、いい……。
「来い、ホモ・エレクトゥス」
上空には黒い雲が立ち込め、急に辺りが薄暗くなる。
今にも泣き出しそうな空模様だ。
何かの暗示か?
リクトがそう考えた時だ。
「朝比奈・スーパーどぅらぁぁぁ~い!」
身長百六十センチのガタイの良い男性が、絶叫とともに現れた。
土色の肌。短髪で面長の顔。
太い眉毛に濃い体毛。
原人という言葉がピッタリか。
乾杯の瞬間に召喚されたようだ。
おじさんの持つビールジョッキが、マキネの顔面をとらえた。
「ウチの顔で乾杯すんじゃねぇ! いてぇんだよ、コノヤロー!」
鼻を強打したマキネは、涙目で地面を転がりまわる。
「これは痛いな」
ボソっと呟くと、たまにブリッジをして痛がるマキネを、リクトは静かに見守る。
マキネがぼやいた「スーパーどぅらぁぁぁ~い! って、ビールのCMかよ!」という文言をききつつ、リクトもぼやく。
想像以上に濃いオジサンだな。
召喚時に叫んだ『来い』が『濃い』になったのか?
やはり失敗だったのか?
別のフレーズが良かったのかもしれないな……。
頭を抱えたリクトの口から落胆のワードがにじみ出る。
ホモ・エレクトゥスは、今から約十万年前に絶滅したとされる人類の仲間である。
普通のおじさんに見えても致し方ない。
「なんでこのおじさん、武器を持ってるんすか? 駆け出しの冒険者っすか? 攻撃力は“1”くらいっすかね?」
マキネの目には、おじさんの持つビールジョッキが、薬草とセット販売されていそうな“こん棒”に見えたようだ。
「無課金の勇者じゃないのか? 盾を買う前にまず服を装備してほしいが」
全裸のおじさん(ホモ・エレクトゥス)は、右手にビールジョッキ、左手に土鍋のフタを携えている。
良くいえば剣闘士。
悪くいえば見当違いの遣唐使。
ハメをはずし、勢いで服を脱いじゃった現世のおじさんを居酒屋から呼び出したのか?
それとも、追い剥ぎに遭遇したのか? と勘繰るリクト。
「いや~、参っちゃったな~。新人歓迎会で乾杯しようとした瞬間に呼ばないでよ~。ナベが良い感じで仕上がってきたとこなになぁ。あ、そうそう。ナベで思い出したんだけどさ、ニッポンの三大汁ものってなにか知ってるかい?」
急なクエスチョンに、リクトは思考を巡らせる。
マキネも同様に答えを考えているようだった。
だがしかし、おじさんは、リクトらに考える猶予を与えない。
「正解はね、豚汁・ブラ汁・ガマン汁だね」
真っ裸のエレクトゥスおじさんは、股にぶら下がった何かをプランプランと揺らす。
上司にしたくないランキングの上位に顔を出しそうだ。
「ブラじる? おい、海外に進出してんじゃねぇか! それと、ガマン汁って世界共通でしょうがぁ!」
すぐに正解を発表されたマキネは、えらく不機嫌そうだ。
どうでもいいが、宴会ってなんだよ。マキネ、おまえも言ってることがおかしいぞ。
おじさんとマキネの言動で、今の空模様のごとくリクトの表情が曇る。
攻撃しますか? と問われたなら、リクトは間違いなく〝はい”を選択する状況だ。
すでに絶滅した動物(人)とはいえ、アクの強い普通のおじさん。
全力で攻撃して良いものかとリクトは悩む。
一方のマキネは、興味津々の様子でエレクトゥスおじさんを見ている。
ふと、リクトにある衝動が湧き上がる。
コイツら一回なぐりたい……。
「マキネ。なんでこのおじさんは日本語を喋ってるんだ?」
「いまさらかよ、ウチに訊くなってばよ!」
マキネの言う通り、いまさらな感じは拭えない。
お試しを含め、いままでリクトが呼び寄せた動物は皆、そもそも難しいとされる言語である日本語を自由に操っていた。
チート能力でも授かったのだろうとリクトは考えていたため、あまり気にすることはなかったのだ。
どう答えたものかと思案している様子のマキネに、リクトは催促するように顔を向ける。
「二百メートルの崖から落ちても死なないウチを見て何か思わなかったすか? 結論を言うとファンタジーってことっす。深く考えんじゃねぇよ!」
マキネにも分からないようだ。
リクトは、動物に潰されてド短足になったマキネを繫々と眺める。重点的に脚を観察する。
「なるほど。それはファンタジーだな」
「リクト、てめぇどこ見て言ってんだコノヤロー!」
「ファンタージなオマエの脚だ」
よく考えれば、外国の偉人を降霊した場合、大抵日本語を話している。
翻訳機的なものが都合よく機能しているのだろうと、リクトは納得した。
「興が冷めた。帰ってもらうか」
「そうっすね。次から指差しで適当に呼ぶのはヤメてくだせぇよ!」
やれやれ……。
加齢臭と獣臭が合わさった匂いがリクトの鼻を刺激する。
一万円札を賽銭箱に誤って投入してしまったときのように、リクトはガクリと肩を落とした。
リクトは除霊しようと、おじさんの後頭部をハリセンで強めにひと殴り。
とみせかけて、マキネに振り返るリクト。
「体調はどうだ?」
「絶好腸(チョー)っす。ちなみに、お腹の具合がいいってことっすよ」
リクトはマキネを持ち上げる。
「準備はいいか?」
リクトは、マキネの尻をおじさんの顔に押しあてた。
察したマキネが腹に力をこめる。
「やさしくしてね……」
マキネが頬を赤らめる。
「善処する」
リクトが静かにつぶやくと、マキネの体を、くの字に折り曲げる。
同時にマキネの肛門から「ブッ!」という濁った音が出る。
泣く子も黙るマキネ・ガスである。
「夜景を見たいなら、空いてる午前中に行くのがオススメだよ!」
モロにガスを吸い込んだおじさんは、意味不明なことを言いながら、白目を剥いてぶったおれた。
いまのマキネはもはや生物兵器だ。
澄ました顔で泳いでいた魚が、鬼の形相で気絶している。
地面に目を向ければアリがひっくり返っている。
マキネの放った極上の臭気によって、河原が地獄と化した。
ガスを発射した張本人であるマキネも気絶している。
そんなマキネの屁だが、なぜかリクトには無効だった。
少し目がしょぼっとするくらいで済んだのは、毒耐性があるからだ。
このままでは人類が滅亡してしまう……。
そんなことを考えながら、リクトはマキネ目がけて自家製の消臭スプレーを吹きかけた。
「おっと、除菌・消臭、除霊もできるんすか? 凄いっすねそのスプレー」
意識を取り戻したマキネは、すぐに状況を把握したようだ。
大きく口をあけ、澄んだ空気を一杯に吸い込んだ。
おじさんも目を覚ましたようだ。
なにか言い残したことがあるのだろう。リクトに視線をあてる。
「次回、『アオノミライ 第5話 認定試験』お楽しみに!」
消えゆくおじさん。
「なんの予告だよ! ってか、だれに向けて言ってんだよ!」
放屁するマキネ。
マキネのおかげで、辺りの空気がどんよりと淀む。
たまらず、リクトは消臭スプレーをマキネに噴射。終わったとみせかけて、もうひと吹き。
「なにげに傷つくんすけど……」
尻を押さえるマキネ。
「そうか、それは悪かったな」
言いながら、リクトはもう一撃スプレーをマキネにぶっ放す。
気が付くと、辺り一面は消臭スプレーのスパイシーな香りに包まれていた。
文化的な薫りをスーハーしながら、リクトたちは帰路につく。
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