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アオノミライ ~ネコロマンサーと掃除機が、絶滅どうぶつの魂を今日も集める! 【能力の無駄づかい編】~
第8話 - 第5話-1 認定試験(バルバドス・アライグマの使い方)
3
3,685文字
2026年04月27日
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2026年04月27日
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あいかわらず何もない自室でリクトがくつろいでいる時だった。
「ちわ~っす。マキネたんで~っす!」
唐草模様の大きな風呂敷包みを背負ったマキネが、盗人のごとくリクトの部屋に主に無断で上がり込んできた。インターフォンを鳴らしてもリクトがまともに取り合わないからだろう。
「帰れ」
ダイアモンドにでも穴を開けそうなリクトの鋭い視線がマキネに飛んでゆく。
「リクトくん、つれないっすね~。サーベルタイガーにかじられた仲じゃないっすか」
けものに齧られたのはマキネだけだ。
頭からすっぽり齧り付かれ、引きはがすのに苦労した記憶がある。
まったく怪我をしないマキネにはかなり驚かされた。
そんな歩く防弾チョッキのようなマキネが、リクトの邪悪な言霊と視線をことごとく弾き返す。
足音だけは大きい、小さな巨人マキネ。小走りでリクトの前までくると、スライディング正座をしてみせた。
「どうやって入ったんだ?」
ドアにはカギが掛かっていたはずだが……。
眺めていた図鑑を閉じると、リクトは棒的なものでマキネをつつく。
「ピッキングっす!」
「ドアチェーンはどうした?」
「ちょん切りましたよ、中に入れないんで」
「どうやって切った?」
「なに言ってるんですか? 目からビーム出したんですよ。信じるか信じないかはアナタ次第っすけど。いてえ、顔はやめてくだせぇって……。棒を鼻の穴に入れんのはヤメテけろ……」
チェーンカッターの柄の部分でド突かれるマキネの顔は、失恋してイメチェンしたOLのように清々しい。
「仕方ないな」
リクトは険しい表情で、マキネのスマホを手に取った。
「イチ、イチ――」
「スタイリッシュに土下座するんで、け、警察だけは……」
はじめてのお使いをするゾンビのように、前に突き出した腕をカクカク・プルプルさせるマキネ。
水たまりができるほど、体中から汗が噴き出している。
「嘘だ。時報だ。何の用だ?」
「オメエはラッパーか! あんだよ、人が悪いなもう~。ネコロマンサー認定試験をしにきやした」
マキネはリクトに向き直り、これみよがしにガサガサと音を立てる。キャットフードと開封済のドッグフードをリクトに手渡した。
「なんだこれは?」
「リクトくん用ドッグフードっす。一番の好物っしょ?」
「二番目だ。で? この高齢犬用とは何だ。次は仔犬用にしろ」
リクトはマキネの顔面を分厚い本でガシっと挟み込んだ。
「ウチはフェイスブックか! あ、やめて。ギブギブ……・そんじゃ、ちゃちゃっと試験やっちゃいましょう。ネコロマンサーになっても掟を破るんじゃねっぞ!」
マキネは、フリーハンドで書いたと思しきガタガタの魔法陣を床に広げる。
「なぜチラシの裏に描いた?」
「ウチの部屋にチラシがあったからっす。コーヒーこぼして汚れちまいましたけど。ま、おかげで魔法の効果は三割引きっすけどね」
名言っぽいことを呟きながら、マキネが魔法陣のシワを伸ばす。
「魔法陣は降霊に必要なのか?」
「要るわけねぇだろ。ウチのテンションを爆上げしようと思って。グヘヘ」
オマエが盛り上がっても仕方なかろうに……。
リクトは魔法陣が書かれたチラシをクシャっと丸めた。
軽く舌打ちをすると、ゴミ箱へむけて放り投げる。
「徹夜で描いたのに酷いっすよ。リクトくんてばよ~」
紙クズが放物線を描いてゴミ箱にダイブする姿を目で追っていたマキネは、その場にヘタリ込む。
「頑張ってあのクオリティか?」
リクトは無表情な目の奥に寂しげな光を宿らせる。
「え? リクトくん、いまなんか言いました?」
「何も言ってない」と返すと、リクトは軽く舌打ち。
「おっと~。なんすか? このハゲ!」
リクトの頭部を見たマキネが声を張り上げた。
「俺にケンカを売ってるのか?」
「違いますってば。リクトくんの頭にある『ミステリーサークル(十円ハゲ)』のことっすよ。そういえば、ミステリーサークルって不思議な自転車みたいで楽しいっすね」
「別に。そのミステリーハゲは治るのか?」
「なんでまた、円形脱毛なんかこしらえてんすか?」
「軽いイメチェンだ」
リクトの抜け毛の原因は、まぎれもなくストレスである。
「治りますけど、根本的な原因を取り除かないと再発の危険性はあるっすね。このハゲ」
「原因はオマエだと思うが」
「まあまあ、すぐ治療しますから」
マキネは、リクトの頭頂部を見つめる。
「毛根の女神よ! ウチに力を貸したまえ~。生えろ~、禿げろ~。もとい、生えろ~! キミの本気をウチに見せるがいいっす!」
言いながらマキネは、怪しげな粉を振りかけ、患部にギュウギュウと親指を押しあてる。
聖人のなせる業なのか、マキネには治癒の力があるらしい。
「粉の分量間違えたっすけど、これで良しっす」
リクトの頭頂部の空き地に、みるみる毛が生えてくる。こんもり生えてくる。
四十センチ程になると成長が止まった。
「カットしろ。とうもろこしのヒゲみたいで鬱陶しい」
「いや、このままってことで。切るのが面倒くせえ! ま、すぐ縮むと思うんで。そこがミステリーハゲってことで。クスクス」
「そうか」
「そうかじゃないっしょ!」
なぜかマキネがヒステリック気味に声を発した。
♰
「認定試験とはなんだ?」
リクトは興味がなさそうだ。
数秒間ジト目でリクトを見たあと、まあいいやとマキネは話しを進めた。
「ネコロマンサーの適正をみる試験っす。リクトくんが霊を呼べるか見極めたいんすよ」
「問題ない。以前、成り行きで受けたネクロマンサーの試験は、パーフェクトだった」
「かなり適正がありそうっすね。ただ、実際に霊を呼べるかは別の問題っすよ」
「そうか。はやく始めてくれ」
「そんじゃ、実技について少し説明するんで、ちゃんと聞いとけっすよ~」
マキネは鼻をホジりながらリクトをみやる。
二百文字程度で済むところを十倍に膨らませて長々と説明するマキネ。
リクト宅の白い壁に油性マジックで文字を書きだす。
「ということで、大丈夫っすよね?」
ひと通り説明を終えたマキネがリクトに問う。
「オマエの字は汚くて読めん。話しも全く聞いてなかったが問題ない」
リクトは壁を見つめ、アゴに指を添える。
「もう一度説明すっからぁ~。よく聞いとけぇ~や。ボケてんじゃねっぞ! バカシーバ!」
マキネは、ロシア情緒あふれる毒息を吹き出した。
さらに“すっからぁ”が巻き舌気味だったことが、リクトを少しイラつかせる。
「やっぱ、めんどくせえから説明は省略で。そんじゃ、試しに“普通のたぬき”の霊を呼ぶってことで。動物図鑑の写真を見てイメージしてくださいな。練習なんで人形に降霊してみてくだせえ。もう一回言う。普通のたぬきさんを呼ぶんすからね!」
マキネは自身に酷似した人形(マキネ人形)を床に置いた。
「なんだこれは?」
リクトは怪訝そうな表情で人形を見やった。
なぜだか、怒りのようなものが湧いてくる。
「可愛いっしょ? いやいや、リクトくん。マキネ人形を踏まないでくださいってばさ。何だか切ない……。じゃ、やってみてくださいな。ああ、人形を踏んだままでオッケーなんで。あ、首がとれちゃったっすね……」
マキネが見守るなか、リクトは動物図鑑を見ながら、たぬきの姿を思い描く。
「来い! 黄緑のたぬき!」
突如現れた球状のモヤが、マキネ人形の“鼻の穴”に吸い込まれる。
人形が膨らみ、丸いフォルムへと変わった。
変わり果てた人形を見たマキネが、別の意味で大笑いしている。
「なんすかこれ? “おそば”じゃないっすか!」
「そうだが?」
リクトは“黄緑のたぬき(カップそば)”を呼んだのだった。
「たぬきの姿をイメージしたっすか?」
「もちろんだ。ただ、さすがにドッグフードは飽きたんでな」
「え? もしかしてそれしか食べてないっすか?」
「オマエのおかげで収入がゼロだからな」
「それで“カップそばの霊”を呼んでみたんすか?」
「そうだ」
「なにげに凄いっすけど。でも、霊(死んでいる)だけに、賞味期限が五年前に切れてるっすね。お箸も付いてないので残念ってことで」
顔をほころばせるも、どこか不満そうなマキネ。降霊に失敗すると人形が使えなくなるからだ。
「今度はちゃんと動物を呼び出してくださいな。その人形高いんすから。大事だからもう一度言う! 高いんすよ、その人形!」
渋々、もう一体の人形を差し出すマキネ。
「まだやるのか?」
「もちろんす」
「この人形はいくらなんだ?」
人形をド突きながら、リクトが口を開いた。
「軽自動車が買えるっすかね。まあ、ウチそっくりに作ってもらうと結構高いんす。そうでなければ三千円くらいなんすけどね。テヘッ!」
チッ。軽く舌打ちをしたリクトが、マキネ人形を大きく蹴り飛ばす。
当のマキネは、五年前に賞味期限の切れたカップそばをすすり始めた。
コイツ(マキネ)は絶対腹壊すだろうな。そう思いながらリクトは、たぬきの霊を首のネジ曲がった人形に憑依させるのだった。
マキネ。そばを喰らうなら箸を使え。それは俺のボールペンだ。