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蓮side
図書館で小野たちと出会ってから約一か月が過ぎた。
最初は一週間おきだったペースが、4日おき、2日おきと徐々に狭まり、真山の掃除期間が終了した今となっても小野、真山、僕の3人で帰るのが当たり前になった。
ある日、真山が欠席で小野と2人で帰ったことがある。
「カメラ?」
「そう、この前おじいちゃんが使ってたもの見つけたの」
「へぇ、随分物持ち良いんだね」
「ね、私も思った」
「どんなの撮ってんの?」
「え?ん〜…内緒。というか見せられるものじゃないし」
「なんだそれ、首に下げてるからてっきり見せてくれるのかと思った」
「残念でした〜、でも納得いった写真撮れたら見せるよ」
「まだ納得いってないんだ?」
「ぜんっぜんまだまだこれからって感じ」
「ふはっ、じゃあ楽しみにしてる」
「うん、待っててね」
そういうと僕らは、お互い別々の帰路についた。
背中で彼女がシャッターを切る音が聞こえる。
きっと、彼女なりの納得いく写真を探しているのだろう。
そのファインダー越しに見える世界は、いったいどんなものなのだろう。
どれほど美しいものなのだろう。
そう思うと、不思議と胸が熱くなった。
苦しくなった。
けれど、心地良い苦しさだった。
アスファルトを朱色に染めあげる夕焼けを、
幾度となく目にした夕焼けを、美しいと思えるくらいに、この瞬間が好きになった。
ふと、振り返ると小野も同じように夕焼けをファインダー越しに見つめていた。
真山から連絡が来たのは、その日の20時過ぎぐらいだったと思う。
「ん?…えっ、真山からだ…」
確か今日は熱で休んでたはず。
一体何の用だろうと疑心暗鬼になりつつ、応答ボタンを押す。
「はい…?」
「遥がっ、遥が倒れた!!」
「え、?ちょ、落ち着けよ、」
「良いから早く芦川の病院!!緊急病棟!!」
それだけ言い残して電話は切られる。
小野が倒れた…?
さっきまであんなに元気だったのに…?
悪い冗談だと思った。
けれど、得体の知れない何かに背中をドンっと強く押された感覚がして、小銭と定期、携帯を引っ掴んで家を飛び出す。
初めて行く病院だというのに正直、どういうルートでたどり着いたか全く覚えていない。
「真山っ…!」
緊急病棟の待合室に、真山はいた。
「野上…」
「小野は?どうしたんだ…?」
真っ赤に泣き腫らした目を見て、ことの重大さに改めて体が強張る思いだった。