テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
223
48
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「はいはーい。注目♪ これから二人には、写真を撮った後に配信で対決してもらいまーす!」
「……これで終わりじゃないのか……」
「当たり前でしょ? 勝負なんだから」
ガックリと肩を落とす蓮とは対照的に、美月はウキウキとカメラの位置を調整している。
「二人とも~、表情硬いよ。笑って、ほら!」
「……笑えと言われてもな……」
「……」
蓮が弓弦に視線を向けると、相手も同じことを考えていたのか、ばっちりと目が合った。
そこへ――
「はい次、距離もっと詰めて! 肩だけじゃなく腰もグッと! そうそう、顔はさらに寄せて!」
美月がテンション高く指示を飛ばす。そこに銀次もカメラを構えながら横から乗っかってきた。
「おーいいねぇ、その恥ずかしがってる顔! 堪んないっす。 じゃあ次は、ちょっと際どいポーズ行こうか。ほら、蓮さん、弓弦君の顎、クイってやっちゃってくださいよー」
「……おい。完全に俺たちをおもちゃにしてるだろ」
「同感です……」
諦め半分でぼやく二人をよそに、美月と銀次は生き生きと目を輝かせる。
「そんな事ないですって! こんな美味しいシチュエーション、俺が逃すわけないでしょ。大丈夫! 俺が万倍に面白おかしく仕上げてバズらせますから!」
「そうそう! これ絶対伝説回になるわよ〜!」
本人たちだけがズーンと沈み、美月と銀次は楽しげに盛り上がっている。
「……銀次君はともかく、君の姉さんは、随分とノリノリじゃないか」
言われた通りにポージングをしながら、蓮はげんなりとした表情で弓弦に話しかける。普段撮影をしている時も元気だとは思っ
ていたが、今日は一段とテンションが高い気がする。
対する弓弦も同じようなことを思ったのか、困惑気味に苦笑いを浮かべた。
「姉さんに悪気はないんです。番組を盛り上げるためにはどうしたらいいかを一番に考える人なので……大目に見てやってください」
自分たちの女装対決が番組の視聴率に直結するとは到底思えないが、そこまで言われてしまうと無下には出来ない。
「まぁ、この格好で街を歩けとか言われなかっただけでもマシか」
「ですね。あとは……放送事故にならないよう祈るばかりです」
「ああ、全くだ」
弓弦とアイコンタクトを交わし、お互いに小さく溜息をつく。
すると、突然、弓弦がプッと吹き出した。
何故笑うんだと、蓮がムッと眉根を寄せると、弓弦は慌てて表情を引き締めようとするが、堪えきれずにまたクツクツと笑みを零す。
「酷いな。笑うだなんて」
「すみません。……案外可愛いなと思ったら、急に可笑しくなって。良く似合ってますよ」
「……褒められた気がしないのは何故だろう」
「嫌味に決まってるじゃないですか」
なぜそんなことを言われなければならないのか。考えてみても理由が思い当たらず、釈然としない気分のまま撮影は進んでいった。
一通り撮り終えたところで、美月から指示が飛ぶ。
その言葉に従い、蓮と弓弦は再び位置につき、カメラマンのシャッター音がスタジオに響き渡る。
「お疲れ様。後は編集してHPにアップしておくわね。投票期間は一週間くらいでいいかな? どうなるか楽しみ」
上機嫌に笑う美月に、蓮と弓弦は引き攣った笑顔を返した。
「……黒歴史が一個増えた気分だよ」
「それについては同感です。大体、なんで私がこんな格好を……」
ブツブツと文句を言い合いながら、更衣室として使っている空き部屋へ向かおうとしたその時――。
突然、目の前の扉が開き、中から出てきた人物とぶつかりそうになり、蓮は思わず足を止めた。
「おっと、失礼」
「いえ、こちらこそ。考え事をしていたもので」
反射的に謝罪を口にすれば、相手の男も同様に返してくる。パチッと目が合い、一瞬の沈黙が流れた。
――どこかで見た顔だ。
だが、誰なのかがどうしても思い出せない。
「あの、俺の顔に何か付いてますか?」
「えっ? あぁ、何でもないんです。すみません」
どうやらじっと見つめてしまっていたらしい。不思議そうな顔をされて、蓮は慌てて誤魔化すと、余所行きの顔を作った。
「それならいいんですが、貴女みたいな綺麗な女性に見つめられると、悪い気はしませんね。どうですか? 折角のご縁ですし、これからお茶でも――」
……これは、俗にいうナンパというやつでは?
最初は誰に言っているのかわからずにキョトンとしていたが、自分に向かって差し出された手に、ようやく理解が追いつく。