「お前そんな弱かったっけ。ちょっと前までは研究所内無敗のチャンピオンで、懸賞金すら賭けられてたぞ」
「それはあくまで過去の話だろう。まだ人間だった頃の話だ。変わる事もある」
「そんな簡単に変わるかなぁ……あ、分かった!」
かつての宿敵は立ち上がり、先生から当てられるのを待つ子供のように手を挙げた。
「手加減してるんだろ?本気でやれよ、人生最期のお遊びなのに」
「人生最期?物騒な」
「なんで知らない体で突き通せると思ってんだよ。あのガキに殺してもらう予定なんだろ?」
「何を言ってるのかさっぱりだが」
「あっそう。……あんなんに任せちまっていいのか?ブラコン復讐魔にまともな奴がいるとでも?」
「復讐は面白いからな、一度は体験させてやりたいものだ」
「へっ、お前が言うと説得力上がるな。でもそれを俺に言うかね」
「これもある意味復讐だな、jealousy。もし俺がもっと行動力があれば、俺も衣川と同じ動きをしてただろう」
「衣川の動きって、自分を犠牲にしてそれ以外を助けるってことか?ふざけてんな」
「まぁ、お前とは真逆の考え方だよな」
「てか、お前にも弟いんじゃん。ほんと衣川と似てるわ」
「俺はそこまでブラコンじゃないからな。あいつは弟一本で復讐計画を組み立てるイカレ野郎だが、俺はそれ以外にも様々な要因があって復讐を選んだ。その要因の一つが弟ってだけで」
「色々理由ないとあんなんはできないか」
「お前もされる側の分際でよくそんなのんきでいられるな」
「される側?された側、だろ?いや、”されかけたけど相手がポカしたからされてない側”か」
「……」「機嫌悪くなってんねぇ」
「……話は変わるが、坂巻をポンコツAIにして良かったのか?」
「あんな奴要らない。研究の邪魔をしてくるなんて」
「お?珍しく分かりやすい嘘を吐くな、”水面さん”。確かに当時は研究熱心だっただろうけど、今となってはこんな研究やめたいと思ってんだろ。おじいちゃんになってボケちまったか」
「……まぁ……そうだが」
「俺がいなくなるからせいせいしてんだろうな。ブラコン復讐魔×2で、誰も悪くない戦争をするのに、邪魔が入らなくなった」
「その通りだ」
「最高の協力じゃね?それ。なんかうまくいく予感する」
「お前はどっちを応援してるんだ」
「うーん、bloodとしてのお前は大嫌いだし、meutrueとしての衣川は大嫌いだ。でも、”水面辰”としてのお前は大好きだし、木更津霧斗としての衣川も大好きだ。つまり何が言いたいのかって言えばーー」
「ーー復讐魔としての二人なら、最高に面白そうでいいねってことかな」
「そうか、お前らしく最高にイカれてる」
「あざます。……んじゃ、俺は地上に降りてくる」
「そんな気軽に地上に降りるなよ。まぁいいが。お前の目的は体を手に入れることだけだしな」
「そ。いやぁ、ああいうギャルはあんま好きじゃないんだけど、いい表情見せてくれたし、及第点。本当は清楚な委員長ポジの女が(放送禁止)な事知っていく段階が好きなんだけど」
「さっさと落ちて死ね」「下ネタに厳しいな。じゃね」
相変わらずのへらへらした笑顔で、あいつは下に降りて行った。
あいつの顕現の目的だけに使われた命があると思うと心底残念だ。
きっとまだこれからがあった命だろうに。
あの時俺があいつを殺せていたら、こんなことにはならなかったはずなのに。
しばらくして、衣川が話す声が聞こえてきた。
あいつも、側だけ見れば輝煌大成側なはずなのだが、中身は俺そっくりだ。
俺を殺そうとして来ているのに、彼を応援したいのは、自然と親近感のようなものを奴に抱いているのだろうか。
俺が成し遂げられなかったことを成し遂げてほしいと。
命を賭して、大切な何かを守る事。
*
「あの……天竺さん?」
「どうした?」
「いや……さっきまで話しかけてたんですけど、返答がなくて」
「え、あ、わりぃ」
「あ、いえ、特に重要な話題ではないので」
「そうか」
「「……」」
僕たちがこんなに気まずい雰囲気になっているのには、理由があります。
数時間前、僕たちはemptyに出会い、なんやかんやで甲板から脱出しました。
そのemptyに会った時、色々でミサンガみたいな見た目のブレスレットをもらいました。
で、どうやらそのブレスレットが天竺さんに関係しているらしく、色々話しかけてはいるのですが、あまり返事を返してくれず、どこか上の空のような感じなのです。
なので、会話が成立せずに困っているのです。
ブレスレットについて聞きたいのは山々なのですが、話してくれないほどデリケートな問題なら聞くのも間違っているかと思い、中々あと一歩が踏み出せていない状態です。
「えっと……どこ行きましょうか」
「え?あ、そうだな……とりあえずは、衣川の所いって報告しようぜ」
「そうですね。ここはおそらくjealousyの部屋近くだと思いますし、衣川さんの所に帰るのはできそうですね」
「お前単体だとできないだろ?道覚えてるのか?」
「えっ……あ……」
「あっちな。行こうぜ」
結局聞くことは叶わなかったわけですが、一旦目標を立てられてよかったです。
とはいえ、自分の方向音痴は直さなきゃなとは思いますが……でも、逆に言えば無言タイムを無くしてくれたのでよかった……と言えばよかった……のでしょうか。
そして、この後僕たちは予想だにしない事態に直面します。
それは衣川さんの所がある通路に僕たちが差し掛かった時のことです。
僕と天竺さんは、全く同じタイミングに足を揃え、立ち止まりました。
そこはただの廊下のように思えました。
でも、ただの廊下ではないと分かりました。なぜなら、
下に転がっている二つの死体があるからです。
それが示すのは、ここで戦闘が行われていたという事実。
そして、やはり目を引くのは、それら二つの死体の身元でしょう。
「これは……さっき出会ったemptyと、それから」
「花芽?だよな。なんでこの二人が」
「二人亡くなっているっていうのも妙ですよね。この二人を殺せる何者かがいるのでしょうか」
「それか……相打ちとかか」
「相打ちだったら、この二人は敵対しているってことですかね。それでここで戦っていて、相打ちしたと」
「なんかどっちでもしっくりこねぇな。こいつらだって相当強い奴らだし、この感じからすると一撃で二人持ってく奴なんているか?」
「うーん、でも相打ちって……確率的にどうなんですか」
「……おい、もし仮に相打ちじゃなかったら、二人を襲った犯人が近くにいるかも知れねぇし、さっさと逃げるぞ」
「あ、そうですね。急ぎますか」
敵に警戒しつつ、僕たちは衣川さんに指定された場所に着きました。
そこは、僕たちが初めて出会い、そして僕たちが生き返るきっかけを作ってくれた、死体安置所でした。
「よぉ、衣川。任務完了してきたぜ」
「え、マ?えぐwwwwww」「そんな喋り方でしたっけ……」
「いや、でもマジで助かったわ。ありがとう。盗んできてくれたってことだろうけど、見つかったりしなかった?」
「……どうだろ?」「見つかった気もしますけど」「どゆこと??」
「いや、emptyに見つかってはいた」
「でもそのemptyが……えっと、亡くなっていたんですよ」
「亡くなった?お前らが殺したんじゃなくて?」
「はい、帰る途中にemptyの死体と花芽の死体が転がっていて」
「花芽の……死体?」
衣川は、口元に手を持っていき、しばらく固まった後、いつも通りの笑顔に戻った。
「そうです。だから二人が誰かに殺されたのか、それとも相打ちしたのかだと思うんですけど」
「衣川、何か知らないか?」
「……お前らになら話してもいいか。俺と花芽は一時的に協力関係になってて、俺は花芽にemptyを殺すように指示してた。でも、花芽はemptyほど強くないから、負けちゃうかもって思ってたんだけど」
「え、じゃあ二人は相打ちってことですか」
「だな。俺からの指示を忠実に守ってくれたってことだな」
「お前一体どんなこと企んでんだ。よっぽどの事じゃないと、こんな大掛かりなことしないよな。それに、俺らに取らせに行ったやつを何に使う気なんだ?俺らに協力させてんだから、教えてくれてもいいだろ」
「えー……いや、まあいいか。つっても、だいぶ長いから全部話してたら計画に間に合わなくなる」
「じゃあ、せめてどんな計画かだけでも教えろよ。その計画の経緯とかはいいから」
「それアリだわ。……俺の計画には二つの目標がある。一つ目は、bloodに復讐すること。二つ目は、俺の弟二人を脱出させることだ」
「お前、弟いたのか」
「そ。messiahと星斗が弟なんだけど、俺の計画がうまくいけば二人とも助けられる。でも、その計画には多くの邪魔が入る。代表的なのはambitionことイカレシスコンな」
「ambitionって妹いるんですか」
「いる……というか、”いた”だな。でも本人は死んだことに耐えきれなくて、色々人道に反することばっかしてる。だからいろんな頭のねじがぶっ飛んでて、厄介な野郎になってるんだ」
「でもそれが弟さんにどんな関係があるんですか?」
「messiahの中にいる黄楽天ってやつ。そいつがこの飛行船を動かす電源みたいなやつだから、そいつを奪えば好き勝手出来る。そのせいで、ambitionはmessiahを監禁して、少しずつ取り込む気だ」
「やば」「えぐ」「仲良しかよ」
「だから、真っ先にambitionをつぶす。終わり次第、bloodを殺せば、計画は完遂だ」
「bloodって神化人だろ、殺せんのか?」
「俺はもともと神器専用の殺し屋、神殺し屋だったからな。殺し方は全然おっけーですわよ」
「……待って、黄楽天がmessiahの中にいる限り、飛行船は動き続けるってことじゃないですか?そしたら、飛行船から脱出するのは無理に等しいですよ」
「そ。それでお前らにとって来てもらった神化香を使う。あれを神器に使うと、神器と神化人を引きはがせる。器を失えば、黄楽天は弱い神化人だから能力を使えない。よって、飛行船は墜落する」
「確かに、そしたらいけるか」
「お前らが取って来てくれてよかったよ。おかげで計画を完遂できそうだ。ambitionをボコる準備も出来たし、そろそろ出発か」
「じゃあ、僕たちは何をすればいいんでしょうか」
「えー……うーん、あんま戦えないだろうし、blood戦の実況でもしててくれれば」
「特にすることない感じですかね」
「暇になるな。ま、困ってるやついれば助けよう的なノリでいいか」
「じゃあそれで頼んだわ。……もう出発する、じゃあね」
「あ、はい」
「助かった。弟二人をどうぞよろしく」
衣川さんは、少し大げさに手を振って踵を返した。
僕たちもそれに合わせて死体安置所を出てしばらくすると、何かを叫ぶような声が聞こえ、
そこに行ってみると、
「お前らは一体……?」
「お前が星斗ってやつか……!」
「木更津さんと、指揮さんですかね。ともあれ、その傷は……」
銃弾で打ち抜かれたような跡がある指揮さんと、それを抱えた星斗さんがいました。
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