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「…フリード…」
「なんだよ」
椅子に座るナリアが囁く。
椅子は二つしか用意されておらず、恐らくナリアと主人の物だ。
横に立つ俺は、そっと身を屈めて耳を傾ける。
「いい?今から私は、人外を差別する貴方の買い手。私は、貴方を嫌ってて、貴方は私に反抗的。 わかった?」
「は…でも」
俺が反論する前に、ナリアは再び正面に顔を向け、背筋を正した。
俺もそれに釣られて姿勢を戻す。
いいか、俺。今から俺は態度の悪い奴隷だ。なるべく反抗的に、そして程よく礼儀よく。
ここで殺されるわけにはいかない。
足音が近づいてくる。
さぁ、ご対面と行こうか…館の主人さん。
「随分と、久しぶりだな。ナリア・グラスレット」
「貴方もね。お元気そうで良かったわ。」
目の前に現れたのは、口髭を生やし、片方の目にメガネをかける“いかにも”な男。
こんな見た目の男を目の前にしても冷静を保てるのは、“英才教育”の賜物なのだろう。
おっかねぇな。
「見てわかる通り、私ね人外を買ったの。」
そう言って、ナリアは俺の方に視線を向ける、
「でも、この子ったらあまり態度が良くなくってねぇ…もし良かったら、お宅の人外を借りて、コイツに色々と叩き込もうと思って。」
目の前の男は、表情一つ変えず、こちらを見つめる、
「…目的はもう一つあるの。はじまり街区、私は数えることしか来た事ないわ。それに…この人外…方向音痴で…しかも反抗的で案内してくれないの…」
相変わらず、彼の表情は変わらない。
「だからね、ここに詳しい貴方のところなら。案内してくれるんじゃないかと思ってね…どう?貸してくれない?」
そう言うと、彼は小さくため息をついた。
眉間に皺を寄せ、明らかに不機嫌になっている。
交渉の余地はないか…
半分諦めている俺に対し、ナリアは彼から視線を逸らそうとしない。
「…わかった。家のを貸そうじゃないか。」
折れた。
「ありがとう」
「ただし、一週間以内には返すこと。来週には“用事”があるんでね」
「わかった。一週間ね。」
「馬小屋にあいつは居る。さっさと連れて行ってくれ。グラスレットの“お嬢様”」
「……ありがとう。また来るわ。」
そう告げて席を立った。
「…行くわよ。」
「…またかよ」
我ながら酷い演技だ。「態度がわるい」と行ったら他にできることがあるだろうに。
「なに?私に逆らうって言うの?
“ご主人様”よ」
そんな俺に対してナリアはすっかり自分の役に溶け込んでいる。
演技だとしても怖い。あんな鋭い目で睨まれたら、石になってかたまりそうだ。
ナリアの後に続いて、馬小屋に向かう
アイツが気難しいだって?素直に交渉してくれたじゃないか。必死に役を演じようと意気込んだ俺がバカみたいだ。
「私、あの人の事…気難しいって言ったわよね。」
ナリアが小声で言った。
「そうでもなかったな」
「…それがわかるのは今からよ。
グラスレットの一族は、この家に“貸し”があるの。だからよ、あんなに素直なのは。」
つまり目の前にいる幼い少女は、権力でねじ伏せた、と。
おっかねぇな、ほんと。