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「半年の間にですか? どうも話が見えないのですが」
「はっきり言えば、身元不明の死体って事ですよ。うちの役所には、ホトケさんの住民票も何もないんで、名前ぐらいは分かっても、どこの誰なのか、さっぱり分からない。そういう事なんです」
「それにしても数が多いですね」
「ここ五、六年ですかね。東京や大都市からいつの間にか流れてきて、うちの市に住み着いたらしいんです」
「転入の手続きをしていないわけですか?」
ちょうど交差点の赤信号で車を停めたところだったので、市役所の職員は大きく上半身を回し、正源に顔を向けた。
「和尚さん、老後破産って知ってますか?」
「はあ、聞いた事はあるような」
「都会で定年とか、まあ引退しなきゃならない年になって、年金が少ないとか、そもそももらえないとか、経済的にどうにもならなくなる高齢者が多いでしょ?そういう人たちがこっそりうちみたいに、物価の安い田舎にひっそり引っ越して来るんですよ」
「それなら転入手続きをなぜしないのでしょう?」
信号が青に変わり、車を発進させながら、前に向き直った職員が答えた。
「多分、借金取りから逃げて夜逃げして来たとか、そういう連中が多いんでしょうね。ほら、住民票移すと居場所ばれちゃうでしょ? あと、出稼ぎ労働者らしい外国人の身元不明死体もありましてね」
正源はそれ以上質問するのは、やめた方がいいと思った。車のエアコンは効いていたが、急にじわりと汗がにじんできたような気がして、夏物の袈裟のたもとを少しパタパタさせた。
職員もあまり話したい話題ではないようで、そのまま口を開かず運転を続けた。
山あいの目的地は森に近い、そこだけ平坦な場所だった。建設業の作業着姿の男たちが数人、無線操縦の無人パワーシャベルの横で、手持無沙汰気に二人を待っていた。
車から降りると、そのパワーシャベルで掘られたらしい、直径二メートルほどの深い穴が見えた。
折り畳み式のキャンプ用の椅子に座らされて十分ほど正源が待っていたら、軽トラックがやって来た。市役所の職員が合図をすると、作業着の男たちは軽トラックの荷台から、分厚いビニール袋を下ろして穴の傍まで運び始めた。
一つ一つの黒い袋はちょうど大人が両掌で抱えられる程度の大きさだった。正源が数えてみると、袋はちょうど三十三あった。
コメント
1件
うわ、第9話めっちゃ重い…。正源さんの視点で淡々と進むのに、黒い袋が三十三って数字がゾッとする。老後破産や夜逃げ、外国人の身元不明死体とか、社会の隠れた闇をえぐってくる感じがすごい。エアコン効いてるのに汗が出るって描写、ちゃんと伝わったわ。これからどうなるんだろう、続きが気になる🔥