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𝒔𝒑𝒊𝒌𝒂
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꒰১_かお_魂上_かさ_໒꒱
27
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朝。
シェアハウスのリビングには、重たい空気が流れていた。
原因は昨夜。
ほんの些細なことだった。
配信後、片付けを巡って言い合いになり、お互い引くに引けなくなった。
「別に今じゃなくてもよくない?」
「今やれば終わる話。」
「疲れとる。」
「俺も疲れてる。」
「……」
「……」
結局そのまま会話は終わり。
「もう知らん。」
「好きにして。」
そんな言葉だけ残して、それぞれ部屋へ戻った。
普段なら一晩寝れば何事もなかったように話し始める二人。
けれど今回は少し長引いていた。
朝になっても、空気はぎこちないまま。
朝食。
テーブルには焼いた食パンと目玉焼き。
mlが無言でコーヒーを飲んでいる。
少し遅れてsoがリビングへ入ってきた。
「……」
「……」
目が合う。
すぐ逸らす。
「おはよう。」
小さく言ったのはsoだった。
「……おはよう。」
mlも返す。
それだけ。
会話は終わった。
食事中も静かだった。
普段なら、
「それ一口ちょうだい。」
「嫌。」
「ケチ。」
「自分の食べろ。」
そんな何気ないやり取りがあるのに。
今日は皿の音しかしない。
同じ空間にいるのに、どこか遠い。
食べ終わると、二人ともそれぞれ支度を始めた。
今日は午前中から撮影。
同じ現場へ向かう予定だ。
「……」
「……」
準備を終えて玄関へ向かう。
それでも会話はない。
靴を履く音だけが響く。
「先行く。」
soが短く言う。
「うん。」
mlも短く返す。
玄関のドアに手を掛ける。
その瞬間。
二人とも動きが止まった。
「……」
「……」
数秒の沈黙。
そして。
soが振り返る。
「……来い。」
「……。」
「早く。」
ぶっきらぼうな言い方。
命令口調。
それでも。
mlは何も言わず、一歩近付いた。
soは少しかがむ。
mlも少し背伸びをする。
そして。
ちゅ。
軽く唇が触れる。
ほんの一秒。
それだけ。
「……行ってきます。」
「……行ってらっしゃい。」
また短い会話。
それでも。
さっきまでより少しだけ空気が柔らかくなっていた。
二人には付き合い始めた頃から決めていることが一つある。
喧嘩をしていても。
忙しくても。
眠くても。
家を出る前の「行ってきます」のキスだけは絶対に欠かさない。
どちらが悪いとか。
どちらが謝るとか。
そういう問題じゃない。
これはもう。
習慣だった。
車の中。
運転席のso。
助手席のml。
相変わらず静かだ。
ラジオだけが流れている。
赤信号で止まる。
「……」
「……」
ふと。
soが口を開いた。
「朝。」
「ん?」
「ちゃんと来たな。」
「習慣だから。」
「……そっか。」
また静かになる。
現場へ着く。
仕事中はさすがにいつも通りだった。
カメラが回れば笑う。
メンバーと話す。
スタッフとも打ち合わせをする。
周りから見れば、いつもの二人。
でも。
休憩時間になるとまた距離ができる。
隣には座らない。
必要最低限しか話さない。
その様子を見ていたlpが首を傾げた。
「喧嘩?」
「まあ。」
soが答える。
「珍しいな。」
「そうでもない。」
「でも今日ずっと喋っとらんやん。」
「……。」
「……。」
図星だった。
lpは二人を見比べる。
「でも朝普通に一緒来たやん。」
「来た。」
「しかもしおん機嫌悪そうやのに。」
「悪い。」
「何で一緒なん?」
soは少しだけ考えてから答えた。
「約束だから。」
「約束?」
「喧嘩してても一緒に行くし、行ってきますもちゃんと言う。」
「へぇ。」
lpは少し驚いた顔をした。
「ちゃんとしてんな。」
「そこだけはな。」
それ以上は話さなかった。
夕方。
撮影が終わり、家へ帰る。
玄関に入っても、まだ少し気まずい。
soは荷物を置き、そのままキッチンへ向かう。
mlはリビングへ。
数分後。
「……。」
冷蔵庫を開けたsoが小さくため息をついた。
牛乳が切れている。
「……。」
買い忘れた。
昨日買う予定だった。
喧嘩になって、そのまま忘れていた。
「……。」
その時。
後ろから小さな声。
「ごめん。」
振り返る。
mlが立っていた。
「昨日。」
「……。」
「俺も言い過ぎた。」
しばらく沈黙が続く。
やがて。
soは肩の力を抜いた。
「俺も。」
「……。」
「片付けくらいであんな言い方することなかった。」
「俺も意地張った。」
「うん。」
「ごめん。」
「ごめん。」
ほぼ同時だった。
二人とも思わず笑ってしまう。
「これで終わり?」
mlが聞く。
「終わり。」
「早い。」
「長引かせても疲れる。」
「確かに。」
また少し笑う。
その夜。
寝る前。
ソファで映画を見ながら、lpが何気なく言った。
「そういや朝喧嘩しとったんやろ?」
「してた。」
soが答える。
「仲直りしたん?」
「した。」
「早。」
「まあな。」
「でも朝普通にちゅーしてたやん。」
その言葉に。
mlが少しだけ笑う。
「それは別。」
「別?」
「喧嘩してても。」
soが隣で言葉を続ける。
「“行ってきます”と”行ってらっしゃい”だけは、後悔したくないから。」
何があるかなんて誰にも分からない。
だからこそ。
意地を張ったまま送り出したくない。
それだけは、二人が付き合い始めた日に決めた約束だった。
喧嘩をしても。
腹が立っていても。
顔も見たくなくても。
玄関で交わす小さなキスだけは、今日も、明日も、きっと変わらない。
コメント
1件
うわあ、この話……すごく良かったです。喧嘩してるのに「行ってきます」のキスだけは絶対に欠かさないっていうルール、本当に素敵だなって思いました。あの朝の一瞬のやりとりだけで、お互いの大事にしたい気持ちが全部伝わってくる感じがして。最後の「後悔したくないから」ってセリフにぐっときました。習慣って、形だけじゃなくて中身があるからこそ続くんだなあって思える、温かいお話でした。