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「この間学園の見学に行って来たけど、面白ろそうな生徒がいたよ。君の弟くんと聖女候補の少女。国王にベッタリだった公爵家のお嬢様」
綺麗な金髪をかき上げて、座り心地の良いソファーに座っているのは隣国、ガリアン帝国の皇太子、ハリアー・リーガ・ガリアンである。
アルアドネはつい先程まで、父王のところで引退の話をして来たところである。
表向きは世代交代の国王引退としているが、武力で解決させない為に、ボンハーデン家当主であり宰相のフォード・ボンハーデンが全てのシナリオを書いたのである。
国王の息が掛かり、金の流れを思いのままにしていたオーガスタ学園理事長は学園運営費の横領、数カ所の領国各領主を税収の横領罪で全ての者を捕らえた。その中で学園理事長が国王宛で金を流し、それ相当の見返りを貰っていたと言う。
フォード・ボンハーデンは玉座の前に向かうが国王の護衛騎士に剣を向けられ行手を阻まれた。それをボンハーデン家の騎士が主人が動ける様に阻止し、フォードは国王の前に対峙したのだ。
「国王陛下、先ぶれで書状の方を送らせて頂いてご存知かと思いますが、あなたを拘束します」
国王は玉座の椅子にどっぷりと座り、不機嫌にフォードを見下ろしている。不機嫌のわけは書状の内容もそうだが、気に入らない帝国の皇太子がアルアドネのところに来ている。そんな時にこの書状を受け取った事に苛立っていた。
「なぁフォードよ。朕はこんな紙に書いてある内容で拘束するなど、おぬしが反逆を企てたとしか思えん」
そう言うと書状を破り捨てる。
「朕のした事は国王として民の為を思っての事である。他の領主達は私服を肥やし朕も心が痛む。それぞれに厳罰を与えるとしよう。それと、学園理事長は誠にけしからん。理事長は教育の場を利用して、金を使っていたとは。更に、朕に罪をなすりつけ、見返りなど出した覚えもない。その醜い顔を朕は見てみたいぞ」
フォードは一つ咳払いをすると淡々と話し始めた。
「反逆とは滅相もございません。陛下そろそろ世代交代と致しませんか?」
「世代交代だと?」
「このままですと、あなた様の首を落とさなくてはなりません」
「何を!」
国王は握り拳を作り玉座から立ち上がり声を上げた。
「誰かおらぬか!!」
しかしその声には誰も答えず。
「陛下、もう一度申し上げます。世代交代という事で話をまとめたいのですが」
フォードは両腕を後ろに回し、手を組んで静かに立っている。声は冷静で淡々としていた。
「嫌じゃ」
「陛下」
「嫌じゃ嫌じゃ…」
国王はバタバタと足を踏み鳴らし、玉座の後ろに隠してあった剣に手をかけ、剣の鞘を抜きフォードに向けて投げた。
フォードはその鞘を交わし、剣を向ける国王を呆れ顔で目を向ける。
「誰が世代交代などするものか」
そう言って剣を振り上げると、フォードの肩に向けてそれを下ろした。
フォードは両腕を後ろに回したまま微動だにしていない。
国王の剣がフォードの肩を斬りつける瞬間、ガツンという重く鈍い音が響き渡り、剣は宙を回りながら床に落ちた。
国王は苦々しく奥歯で歯軋りをすると悔しそうに言った。
「ジョーンズ・ララドール?!」
国王の剣を軽々自分の剣で弾き飛ばしたのはララドール当主であり国王陛下直属の騎士、通称キングナイトの団長ジョーンズ・ララドールである。
フォードは緊張を解くように一息ついてから口を開いた。
「陛下、私を斬っても、あなたの罪は消えません。それと、新国王よりお土産だそうです」
そう言うと後ろに控えていた騎士に合図をおくると、騎士は木箱を国王の前に置き、蓋を開け中を見せた。
「なんだこれは」
「どえぞ中をご覧下さい」
フォードがそう言うと国王は箱の中を覗く。
「ひぃぃぃ〜!!」
その中には見覚えのある顔をした首であった。
国王は恐怖と気持ち悪さで玉座の後ろへ逃げ隠れ、あまりの気持ち悪さに胃の中のものを吐き出した。
フォードは顔を背け、先程国王が言っていた事を嫌味の様に言う。
「その醜い顔を見てみたいとおっしゃいましたが、新国王の アルアドネ様がお持ち下さいました。理事長の首です。あなた様もそろそろ観念なさって下さい。この様になる前にご自分から引いて下さい」
フォードは柔らかく言葉を使うが、内容はとても冷ややかである。
国王は観念したかの様に肩を落とし、項垂れて小さく言葉を吐いた。
「分かった…」
フォードはホッと安堵して、後ろで控えていた長男のロイドーラ・ボンハーデンに言った。
「新国王をお呼びしろ」
理事長の首は父王へ宛てた脅迫である。
アルアドネは証拠だけでは父王には甘いと考え、学園に行く用事を済ませる前に理事長室に足を運んでいた。理事長はランドリュース・ボンハーデン率いる国防軍、第二軍隊によって捕らえているところであった。ランドリュース・ボンハーデンは学生のかたわら国防軍に属していて、この事はあまり知られていない。そこへアルアドネは理事長室に剣を片手に現れた。腕を後ろに回され縛られた理事長の足を蹴飛ばし、転ばせると 顔色も変えず理事長の首をはねたのだ。第二軍隊の兵士達はあっと声を上げたが ランドリュースはそれを、やれやれと言ったふうな顔である。そして、その辺にあった布を手に取りアルアドネが持つ剣を受け取ると、滴る血をその布で拭き取った。アルアドネは転がった頭を見て鼻先で笑う。
「これを親父の土産に持っていけ」
アルアドネは返り血がついた上着を脱ぎ捨てると、ランドリュースに向けて言った。
「エリナーミアに会ってくる」
ランドリュースはアルアドネの上着を拾うとニヤッと笑いを浮かべるて、
「フラレて来てください」
「俺がか?まさか」
「そのまさかですよ。自信がおありの様ですが泣かないで下さいよ」
「では、優しい男を演じて落としてくるとしよう」
アルアドネはニヤリと笑って理事長室を出て行った。
「でぇ〜、フラれたのか?」
ハリアー・リーガ・ガリアンはケラケラと笑った。そんな彼を睨みつけると、アルアドネは自室に控えているメイドからシャツを受け取ると、今着ている血の付いたシャツを脱ぎ新しいシャツに腕を通した。
「まさかララドール家に先手を取られているとは、まんまとボンハーデン家に情報操作されていたよ」
アルアドネはため息を付く。
「それは置いといて、ハリアーこのタイミングでコンタノールに来たのは、お前の影がうちのお家騒動を聞きつけて来たのか?」
ハリアーは顎に手を当てると眉間にシワを寄せて言った。
「それなんだが、影の情報は情報なのだが、ハデスリード・ララドールが風魔法で送られて来たメッセージで情報をくれたのだ」
「ハデスリードが?」
ハリアーは頷くと続ける。
「最初は罠か何かかと思ったが、今思うとプライドの高い父王を牽制していたなんて事は考えすぎだろうか?」
アルアドネは考えを膨らませている。
ハリアーが言った事が本当なら、帝国に対して思うところがある親父は、苛立っている状態で書状を受け取ったら、まともな思考が出来ない。
「考えすぎか?」
「ん?どうした?」
アルアドネは首を振って
「なんでもない。それよりお前は1ヶ月後の戴冠式にそのまま出席するのか?」
ハリアーはあっさりした感じで
「いや、一旦帰る。親父に報告しておかなくちゃならないし」
「まぁそうだろう」
「俺としては親父と共に来るのも有りだと思うぞ」
とハリアーはニヤニヤ笑う。
「それは有り難い。この即位は正解だと民にアピールが出来るな」
「だろ?父王の時うちの親父はコンタノールに来た事は無かったからな」
暫くしてドアを叩く音がした。そして声が掛かる。
「アルアドネ様よろしいですか?」
ロイドーラ・ボンハーデンである。
「ロイドーラか、入れ」
ドアが開き、ロイドーラ・ボンハーデンは頭を下げ、
「帝国の小さい太陽にご挨拶申し上げます」
ハリアーはため息を付くと言った。
「ロイドーラ、そうかしこまるな」
「有り難うございます」
アルアドネはメイドにお茶を命じロイドーラに言った。
「今日はご苦労だった」
「いえ、私より父がした事ですから。それより、今夜のご予定ですが、民の前で即位の知らせを出すのは如何ですか?」
「ああ、そうだね。民の前に出る事は必要不可欠のテーマだ。出来れば婚約の発表も考えていたが」
と小さく笑う。
「アルアドネ様、くどいですよ。冗談にならないのでやめて頂けると助かります」
「まったくお前は」
「それと父からの伝言です」
「?」
「オーガスタ学園の理事長の任命に関して、「有難くお受け致します」との事でした」
アルアドネは笑い出し腹を抱えている。
今分かった。フォード・ボンハーデンの真の狙いはオーガスタ学園の理事長の座だ。まったくボンハーデン家は、エリナーミアに対して過保護を超えた粘着質だ。
理事長をあの場で処理させたのは、フォード・ボンハーデンの一言だった。「アルアドネ様、父王様の気持ちを固めるには脅しとして、見せしめの物が 必要です。できれば、吐き気がする程の恐怖を与えられる物を騎士に持たせて下さい」俺は安直で「首」と解釈した。そして理事長の椅子については、俺が理事長室を血で汚した事で、気の弱い貴族共は尻込みする事を計算していた。全ての計算は自分が理事長の席に座り、娘の側にいたいと言う、なんとも気持ちが悪い父親愛なのだ。
「ロイドーラ、お前もフォードと同じ気持ちか?」
ロイドーラは何を今更と言いたげに、
「エリナーミアの為ならば、国相手でも我が家は反旗をひるがえします。それとララドール家も元国王家であった事を忘れなき様お願い致します」
と鋭い眼光を見せた。
それを見たハリアーはその鋭さにドキッとしたが、遠回しにエリナーミアに手出しをするなと言われたような気がした。
ハリアーとアリアドネは顔を見合わせて、
「わかったよ」
と項垂れるのである。