コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
孫悟空ー
目の前に広がる異様な光景は、何なんだ。
「妻の命を延ばした。」
俺の問いに、弱々しい声で答えた。
爺さんのそんな姿を、俺は見たくなかった。
「延ばしたって、どうやってだよ。爺さん、言ってたよな?どれだけ大切な人が死んでも、生き返らせちまったら…。その人は生まれ変わる事が出来ないって…。」
「あぁ…、良く知ってるね。私が言った?お前にか?」
しまった。
この事を言われたのは、もっと先の未来の事だ。
ズキンッ!!
痛ってぇな…っ。
やっぱり、これも爺さんに関わる事だからか。
頭に鈍痛が走る。
「悟空…、その刺青は…。どうして、お前が?」
俺の体に彫られた赤いトライバルを見て、驚いていた。
不老不死の術の事を言っても良いのか?
そう思った時、再び鈍痛が走った。
ズキンッ!!
やっぱり、言っちゃいけない言葉だったか。
思わず顔を顰めてしまう。
「大丈夫か?顔色が悪いぞ。」
「何でもない。」
「そうか…、私の作った術の紋章とよく…、いや、同じ物なのか。」
爺さんは俺の体にに触れ、ジッと見つめた。
「作った術って、何だよ。」
「妻の体を見てみろ。」
爺さんに促されるまま、化け物の体に視線を向けた。
あの女にも、俺と同じ赤いトライバルの刺青が入っていた。
それは、不老不死の術を受けた者の証だ。
いや、待てよ。
この術は、天帝達が作り出した禁断の術の筈だ。
天帝が爺さんに託し、爺さんはずっと守って来たって言ったよな?
じゃあ、爺さんは俺に嘘を付いていたのか?
「悟空は不老不死…、なのだろう?」
「そうだよ、アンタが…。いや、そんな事はどうでも良い。作ったって、どう言う意味だ。」
「この術は…、私の念力で作り出した物なんだ。」
「は?念力?」
「式神を作るのと同じ要領だよ。私の血液と花妖怪の血を使い、念を込めながら巻物に記した。ただ、それだけだ。」
花妖怪の血を使った…、だと?
「花妖怪を殺して、血を奪ったのか?」
俺の言葉を聞いた爺さんは、口を閉じた。
「悟空。あの妖怪から、花妖怪の気配がする。それも、大量の血を奪ったのだろう。でなければ、あんなに花妖怪の気配はせぬ。」
嫌な予感がした。
雷龍の言葉を聞いて、爺さんの胸ぐらを掴んだ。
ガシッ!!!
「殺したんだろ?なぁ、どれだけの花妖怪を殺したんだよ!?アンタは…、悪妖以外の妖を殺していたのか!!」
「…。」
「黙ってんじゃねーよ。アンタは、人と妖が共存する事を望んでいたのに…。何やってんだよ!!」
「そうでもしないと、宇轩が…。宇轩が壊れてしまいそうだったからだ。」
壊れそうだった?
「妻は私と同じ、陰陽師だった。宇轩は私よりも、妻の方に懐いていてね。あの子の心の支えは、妻だけだった。だが、そんな妻が…、百花仙子の毒を喰らってしまった。」
百花仙子、毒花を自由自在に使う花妖怪だ。
だが、百花仙子は人間に害を出す妖ではなかった筈。
どうして、人間に毒を盛った?
「妻を死なせてしまえば、あの子は死んでしまっていた。私は、妻と息子を失いたくなかった。花妖怪達には、すまない事をしたと思っている。」
「何人殺した。」
「….、30程…。」
「っ!!」
ゴンッ!!
言葉よりも先に、拳が出ていた。
爺さんを殴り付けた俺は、大きな声を上げた。
「アイツは、この姿の母親を見て喜んだのかよ!?さっきの顔を見たか?今にも泣きそうな顔してたろうが!!!アンタがやらなきゃいけなかった事は、アイツの側にいて、傷を癒す事だっただろ!?」
「っ…。」
「爺さんのやった事は、確かに宇轩が喜ぶ事だったかもしれねぇよ。だけどな、アンタは宇轩の側にいなかっただろ。母親だけを生かして、宇轩を1人にした。結局、アンタがやってる事は、宇轩の心を殺
してんのと一緒だよ。」
「悟空…、私は間違っていたのか?こうする事でしか、私と宇轩の繋がりが切れてしまうと思ったんだ。」
爺さんの目から涙が、零れ落ちる。
アンタが教えてくれた事なんだよ。
人の心に寄り添い、言葉を交わさなくても通じ合う事を。
親父、アンタも母さんを生き返らせたかったのか。
生まれ変われなくなっても、二度と会えなくなっても…。
化け物になったとしても、言葉を交わせなくても、
抱き締められなくなっても…。
「ただ、私達の側にいて欲しかったんだ。生まれ変わっても、会える保証はない。だったら、化け物になっても良いから、一緒にいたかった。辛かった、君を失った時から。」
爺さんはそう言って、牢屋に閉じ込めてる化け物に寄り添う。
人を愛するって、何なんだ。
そこまでしてでも、一緒にいたい相手なのか?
分からない。
爺さんを弱くする程の愛なのか?
「あ、あぁあ、あ、ああ、、あ。」
「ごめん、ごめんね。君をこんな姿にしてしまって。」
「あ、あな…、あが、あががが。」
化け物の前で、爺さんは小さく蹲った。
「チッ。」
この場から逃げるように、俺は地下を後にした。
タンタンタンタンッ。
階段を上がり、扉を開け庭に目を向けた。
シュッ、シュッ、シュッ。
大きな木の下に座って、何かを書いてる糸目の男がいた。
糸目の男は顔を上げ、俺を視界に入れた。
「やぁ、少し話さないか。」
「俺は話す事はねーよ。」
ビュンッ!!
俺はズボンのポケットにしまっていた如意棒を取り出し、糸目の男に向かって延ばした。
キィィィンッ!!
糸目の男の前で、如意棒が止まった。
いや、止められた。
「物騒だな、美猿王。いや、今は悟空か。」
「何で、俺の名前を知ってる。」
「知ってるよ、君の事も。君が忘れてる記憶も、君を恋焦がれてる女の子の事も。」
俺が忘れてる記憶だと?
そんなもの、あったか?
「おいで、桃でも食べながら話そう。」
「チッ。」
俺は渋々、糸目の男の横に腰を下ろした。
「ふふ、素直だね。」
「うるせーな。」
「アイツはね?罪滅ぼしの為に君を連れて、花の都を訪れた。」
シュッ、シュッ、シュッ。
巻き物に描かれていのは、俺が爺さんと短い旅をしている場面だった。
何で、俺と爺さんが行った場所を知ってんだよ。
コイツは一体、何者なんだ。
「愛は人を狂わせてしまう。それは、良い意味でも悪い意味でも。」
糸目の男はそう言って、俺に切った桃を渡して来た。
「愛って言うよりも、呪いだろ。あれは、異常だ。」
「そうだね、アイツは愛に溺れてしまったんだろ
う。だけどね、君と出会って変わったんだよ?」
「俺と?何で…?」
俺の言葉を聞いた糸目の男は、桃を口に運ぶ。
「須菩提祖師の孤独を、君が埋めたからさ。花妖怪を殺してしまった事、アイツの中では大きな罪だった。少しでも、罪を償う事が出来るように君を連れた。覚えてない?」
「…、花の都…。」
そう呟くと、頭に映像が流れ込んだ。
俺は爺さんと共に、花の都に訪れていた。
花妖怪の為に強力な結界を張る為、俺達はしばらくの間、花の都に滞在していた。
そこで、俺に懐いた女の子がいた。
桜の精であり、花の都の姫だった女の子。
満開の桜の下、俺の膝の上に小さな女の子が座っていた。
「小桃は、悟空のお嫁さんになる!!」
「出た、おチビのくせに生意気なんだよ。それに、俺はすぐ泣く女は嫌いだ。」
「な、泣かないもん!!」
「ほらほら、もう泣きそうじゃん。」
「な、泣かないもん…。」
俺は小さな女の子に向かって、意地悪な顔をしている。
今にも泣き出しそうな女の子は、俺の服を掴む。
「ご、悟空が意地悪するから…っ。」
「意地悪なんかしてねーだろ。おチビ、すぐ泣く女になるな。舐められんだろ。」
「だ、誰に?舐められるの?」
小さな女の子が、俺に向かって満面の笑みを浮かべ、小指を差し出した。
「おチビを狙う悪い奴。」
「小桃を?」
「花妖怪は妖に狙われる。誰かが助けてくれる状況は滅多に無い。そうなったら、おチビは悪い奴に食われんぞ。」
「そ、そんなのやだ…。」
俺の言葉を聞いた女の子は、顔を青くする。
「おチビ、俺はいつまでも側にいれねぇんだ。俺がいなくなったら、おチビは自分で自分を守らなきゃいけねぇ。だから、強い女になれよ。」
「悟空は、強い女の子が好き?」
「あぁ、そうだな。」
「だったら、小桃は強くなる!!悟空の好きな女の子になる!!」
女の子は大きな声を上げ、俺に抱き付く。
「おーおー、頑張れ。」
「約束だよ?強くなったら、お嫁さんにしてくれる?また、会ってくれる?」
「おチビが良い女になったら、嫁にしてやるよ。」
女の子は満面の笑みを浮かべ、小指を差し出す。
「約束だよ!!」
「仕方ねーな。」
俺は、女の子の小さい小指と自分の指を絡めさせた。
「思い出した?」
糸目の男の声を聞いて、ハッと我に帰る。
「すっかり忘れてた。爺さんが、花妖怪の為に結界を張って…、おチビがいた。」
「ふふ、迎えに行かないのかい?」
「あんなのは、その場だけの口約束だ。」
「須菩提祖師が、小桃ちゃんに経文を渡した事は知らない?」
「は、は?今、何て言った…?」
俺の言葉を聞いた糸目の男は、フッと笑い絵巻を見せて来た。
爺さんが、ピンク色の髪の女に刀を渡している所だった。
「おい、アンタは…。何を知ってんだ。」
「君達の未来も、この世界の未来の事も…。全てを知っているよ。君は二度目の死を乗り越えられるか?」
糸目の男はそう言って、俺の瞳を覗き込んだ。
その頃、花の都
悪妖怪退治専用事務所ー
小桃(桜の精)
白虎の様子を見に事務所に戻った小桃は、百花ちゃんの帰りを待っていた。
小桃は隣で眠る白虎を撫でながら、月夜を見つめた。
「百花ちゃん、遅いなぁ。煙草が売り切れてたのかなぁ。」
数分前、百花ちゃんは吸っていた煙草が無くなり、煙草屋に買い出しに出ていた。
小桃は、百花ちゃんが買ってくれた干し杏を口に運ぶ。
「甘いなぁ…、それにしても…。本当に遅いなぁ…、何かあったのかなぁ。ちょっと、見に行こうかな。」
テーブルに置いた刀を腰に下げ、階段を降りた。
タンタンタンタンッ。
ガチャ。
事務所を出た小桃は、辺りを見渡す。
「っ…、甘い匂いっ。」
この甘い香りは…、普通の妖じゃない。
強い妖が、すぐ近くにいる。
気配を消しながら、妖気が放たれている場所に向かった。
陽気を辿っていると、百花ちゃんがいつも行く煙草屋の前に到着した。
煙草屋の中は暗く扉には、営業時間外と書かれた札が下げられていた。
「あれ?お店やってないんだ。いつもは.、この時間までやってるのに。」
只今の時刻は、夜中の2時。
この煙草屋は、夜中の3時まで営業している。
だが、今日はやっていない。
ガタッ。
中から物音がした。
恐る恐る扉に手を掛け、煙草屋の中に入った。
キィィィ…。
「誰か…、いるの?」
周りを見渡して見るが、誰もいなかった。
ピチャッ。
何か、水のような物を踏んだ音がした。
視線を下に向けると、床が真っ赤に染まっていた。
血が、奥の部屋まで続いてる。
カツカツカツ。
奥の部屋を覗くと、煙草屋のお爺さんが血を流して倒れていた。
「お爺さん!?」
慌てて、お爺さんに駆け寄ろうとした時だった。
背後から強い殺気を感じ、刀を抜く。
「誰。」
小桃は振り返りながら、殺気のした方に刀を向けた。
そこにいたのは、月夜に照らされた金髪のふわふわの長い髪を靡かせ、黒い可愛らしいチャイナドレスを着た人が立っていた。
その人は太刀を持っていて、刀にはべっとりと血が
付着していた。
「見つけた。お前、小桃だな。」
黄色の綺麗な瞳が、小桃を強く睨み付ける。
この子、妖怪?
いや、さっきの妖気とは違う。
じゃあ、妖気を放っていた妖はどこに行った?
それより、今はこの場をどうにかしないといけない。
「そうだけど、何?」
「お前の持ってる経文を渡せ。」
経文狙いか。
「嫌だって、言ったら?」
「殺すだけだな。」
そう言って、女の子は小桃に刀を向けた。
「何で、お爺さんを殺したの?」
「このじじいにお前の事を聞いても、口を割らなかったから殺した。それだけだ。」
お爺さん…、小桃の事を黙ってくれたんだね。
この子、見境なしに殺しが出来る子だ。
「この経文は、未来の旦那様に渡すの。だから、渡せない。」
そう言うと、女の子は刀を振り下ろして来た。
キィィィン!!!
小桃は刀で攻撃を受け止めた。
「悟空がお前の旦那?ふざけるな。お前なんかが、悟空の嫁なわけないだろ。」
この子、悟空の事を知ってる?
小桃が、悟空の嫁に相応しくないだと?
「悟空は約束してくれたんだよねー、それが。ごめんね?」
「は?約束?」
ギリッギリ。
刀が重くなった。
やっぱり、この子は悟空の事が好きっぽい。
だけど、小桃の方が好きな気持ちは大きい。
「悟空の事、諦めて?経文も。」
そう言って、小桃は女の子の腹に蹴りを入れる。
ドカッ!!
女の子は小桃を睨み付けながら、刀を構えた。
「そうか、なら死んでくれ。」
「お前が死ね。」
小桃達は同時に動き、刀を振り翳した。